第29話

山田は、英語のノートをもう写せないのが相当頭に来ていたのだろう?普段は仲間の二人がいない時に、私に何かを言ったりしないのに、側へ来て何か嫌がらせを言った。   「何だお前、いい加減にしろよ〜。」だとかを、吉川の真似をして男言葉でだ。    「うるさい、化け物!」         化け物と言う言葉が自然に出た。     この頃はまだ、山田が中学の時に男子生徒から怪物とあだ名をつけられて虐められていた事があるのを知らなかったが。      私が知ったのは、古田が山田に私の事で注意をしているのを聞いた時にだ。三年生になり、又古田がクラスを受け持つ様になった時にだ。後に詳しく話そう。        私が化け物と言うと、山田は見る見るうちに萎縮した。ナメクジに塩をかけると縮むが、そうした表現をしたら分かり安いかもしれない?!本当にみるみるうちに顔面蒼白になり、泣き顔になった。黙ってそこに棒立ちになった。              

「化け物!!」             ここまで効果があるとは思わなかったから驚いたが、丁度良いから畳み掛けて又言ってやった。山田が又ビクッとして反応した。  何せ本当に映画の"マスク"、80年代にやったやつだが、の中の主役の青年や、"ザ フライ"の中の、ハエと合体してしまった科学者の男さながらな顔だから、私にそんな事を言われたのだから。            吉川がその状態を自分の席から見ていた。 声を出した。              「山ちゃん、やっちゃいな!!そんな奴やっちゃいなよ?!」            山田は無言だ。何とかやっと平静を保ち始めたが、まだ立ち直れないでいる。そして吉川から私を攻撃する様にけしかけられてとても困っていた…。             この娘は、本来臆病で気が弱い性格なのだ。この時に私は確信した。普段は吉川の様におどけて明るいキャラを演じてはいるが、本当は只の大人しい、気の弱い、顔に凄く劣等感がある、臆病な娘なのだ。         吉川がしびれを切らしてこっちへやって来た。喧嘩をする勢いだ。凄い形相で、肩をいからせながら。              「何やってるの〜?!こんな奴に。」    山田は返事をしない。化け物だなんて言われたのを、恥ずかしくて言えないのだ。   「てめぇ!」               吉川が私にいきなり掴みかかって来た。私の両腕を抑えると山田に叫んだ。      「早く!早く顔、引っ掻いて?!」     私は驚愕しした。            「早く顔を引っ掻いて!!爪で!!」   「止めてよ!!」             私も大声を出す。            山田は吉川の言葉に驚いている。悩んでいるみたいだ。               私と吉川は激しくもみ合う。私は吉川の腕を離そうとしたが吉川は必死で押さえ付ける。何としても山田に私の顔を爪で引っかかせたいのだ!!爪痕はずーっと残る。消えない。だから私の顔を、爪痕だらけにしたいのだ!!                 三年になり、古田に、山田同様に私の事で注意をされた時だ。古田に言われていた。 「お前、高木にヤキモチを焼いてるんだろう?なぁ。高木の顔に。そうだろう?」と。                  吉川が黙っていると古田が言った。    「吉川、お前だって良い顔立ちをしてるぞ?」                 吉川がまだ黙っていると、繰り返した。  「お前だって高木に負けない位、十分整った顔をしてるんだから。だからそんな、他人の顔なんかにヤキモチを焼くんじゃないよ。」                 吉川はまだ黙っていた。納得していなさそうだった。                とにかく、吉川は私に必死にしがみついて、山田に私の顔を爪で引っ掻く様に一生懸命にそそのかす。この時は流石に他の生徒達が何人も廻りに集まり始めていた。皆、驚きながら見ている。              山田も段々とその気になってきた。そして私の真横へ来た。             まずい、やられる!!そんな事になったら大変だ。                 私は満身の力を込めて吉川を横に押して走り、体を捻じり、吉川を壁に叩きつけた。 「ぎゃあ!!」              吉川が喚いた。直ぐに真っ赤な涙目になりながら、片方の腕を擦る。         「痛い、痛いよ〜!!」          泣き始めた。そして泣きながら言う。   「みんな、今の見た?!ねー、みんな今のを見た?!」               皆、黙っている。山田もだ。この騒ぎの時に結城も後から来たが、この娘は小柄だから離れていた。加勢をしなかった。只見ていただけだ。そして今も黙っていた。      稲川瑠奈は嬉しそうに吉川を見ていた。  皆が黙っていると、又吉川が泣き声で騒いだ。                「ね〜、みんな何とか言ってよ?!こいつ、私に怪我させたんだよ!!何でみんな黙ってるの?何にもしてくれないの?今の見たよね?!」                すると一人が吉川の前に飛び出した。高梨 清美と言う、背が小さな、眼鏡をかけた子だ。                  「吉川!お前が先に仕掛けたんだろう?いい加減にしろよ、お前?!」        そう怒鳴ると奮然と自分の席に着いた。吉川は只唖然として、彼女に何も言い返せなかった…。                 そこへ堀江が入って来た。        「何をやっているの、みんな?早く席に着きなさい。」                吉川が言った。             「先生、保健室に行ってもいいですか?」 「どうしたの、吉川さん?」        吉川は私を悔しそうに見ながら、まだ真っ赤な目で返事した。            「高木さんが私を壁にぶつけたから、肩と腕が凄く痛いんです!」          堀江が驚く。              「本当なの、高木さん?」         呆れかえる私だ。            「どうなの?」             「はい。でも、先に攻撃したから。」    「そうなの、吉川さん?」       「…。」                 「どっちなの?」            「先生、凄く痛いんです!早く保健室に行ってもいいですか?」           「じゃあ行きなさい。後で、一応甘堂先生には報告しておくから。」          吉川は教室を出て行った。後から戻って来たが別にどうという事も無く、残りの授業を普通に受けていた。            堀江が甘堂に報告するのは担任だからだろうが、吉川が先に仕掛けたみたいだと言ってくれたとは思う。いずれにしろ、私が又悪者にされるのは分かっていたが。そして当然、堀江が言わなくても吉川本人が、仲間と三人で報告するのは分かっていた。       だから、確かこの日だと思う。私が残れと言われて、初めて従わずに、そのまま帰宅したのは。翌日は学年主任の今川と、樽辺も一緒になり、甘堂と一緒に又ネチネチと嫌がらせを言われた。              だが、前日私は帰って良かったかもしれない?!それは、この頃になると甘堂は私に、早く職員室に来ないと樽辺に言い付けて、来て連れて行かせると言い始めたのだ。男だから、私が抵抗しても簡単に引っ張って連れて行けるからと、そう言って脅かしたのだ。 又、樽辺も私によくこう言った。     「態度が悪いと、あなたをそこに閉じ込めますよ。」と。               職員室内に、扉がある箇所が一つあり、それは丁度人が一人位入れるスペースだったらしい。そこは物置だかなんだか、そうした用途で使われていたらしいが、鍵穴もあった。甘堂達の机からそう遠くない。そこへ私を閉じ込めて帰ると言うのだ。そして翌朝まで出さないと。これを年中言う様になった、大変嬉しそうに。               だからこの日は、人に痛い思いをさせたんだから罰だとか言って、本当に閉じ込めたかもしれない?!              だがそんな、監禁なんてするなら、それはもう犯罪だ!!              私は一度言った。            「そんな事できません。」         「何故ですか?できますよ。あなたなんか一人閉じ込めるのなんて簡単ですから!」  「家に帰らなければ、心配して探しますから。そうしたら見つかりますから。」   「見つかると思うんですか?そんなの、絶対に分からないですから大丈夫ですよ。」   馬鹿にして言う。            私はこうした時に、それは犯罪だからと何度言おうとしたか分からない。だが、言わなかった。言えば興奮してもっとおかしくなり、本当にやるかもしれないと思い、恐かったのだ。                   だが、私はこう言えば良かったのだ。   「そんな事をしたら、犯罪です!もし私が家に戻らなきゃ、家族が警察を呼びますから。そうしたら探し出して、見つかりますから。」                 又はこうだ。              「いつも日記をつけていて、そうした事も書いています。だから、親が警察に言えば、日記を見たら、直ぐにどこに入れられているか分かりますから。」            そうしたらもうそんな事は言わなかったかもしれない。あれはハッタリだったのか、それとも本心だったのか?恐らくは本気で言っていたのだろう。そして本当にバレないと思ったのかもしれない。           何故なら、樽辺は私を押さ付けさせて、服を脱がそうとした事があるのだ。胸を見せろ、裸になれ、と言われて断ったらだ。これは教室内ではなく、学校内の、違う場所でだ。 もう一回は、私を誰もいない教室に連れ込み、又そこで強姦しようとしたのだ。そこまで本気でやろうとした、昼間に、学校内で!!                 だが、どちらも失敗に終わる。一つは自分で何とか防いだ。もう一回は、又助け主が現れてくれた。そしてこれらのしばらく後に、やっと愚鈍な母が動く…。         まずは、私の服を脱がそうとした話からにしよう。これには、ある初老の教師を脅かして共犯者にしようとしたのだが…。

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