第28話

甘堂の手下三匹の中では、吉川がボス的存在だった。この連中は、勉強の出来は普通だった。                  私はと言うと、小学生の時からできる物とできない物との差が激しかった。好きな科目は勉強するが、嫌いな物は丸でとか殆どしないから、どうしてもそうなる。       別に好きでも嫌いでもない科目だと、普通だ。又、好きな科目だと、15分位教科書をにらめっこしていたら、良い成績が取れた。勉強なんて別に好きじゃなかったから!! 成績の良い科目の中には英語があった。それである時から吉川が私の英語力に目を付けた。それで英語の宿題を、私のノートから写そうとして、見せる様にと昼休みに言ってきたのだ。                「お前なんてそれしか取り柄がないんだから!見せろよ〜!!」と言って。     誰がこんな奴にそんな事をさせるか?!それに、じゃあ自分はどうだ?何の取り柄があるんだ?!他人を虐める事しか能がないじゃないか。断ったが、執拗に言って迫った。  私は拒んだ。そしてその日は、鐘がなり、吉川は渋々自分の席へ戻った。       だが又次の日には、英語のノートを写させろと迫って来た。私が拒むと、いきなり殴ろうとしたから私はその腕を押さえた。もう片方の腕を振り下ろそうとしたから、その腕も押さえて、抵抗した。           吉川が仲間の山田や結城に叫んで、机の中から英語のノートを出す様に指図した。   すると、どちらかがしようとすると、いきなり隣の席の石渡が急いで私の机からノートを出して、片方へ投げた。         「ほら、ノートあるよ!」と叫びながら。 あの真っ赤なニキビ面で、髪がゴワゴワの、私の横に座っていた女だ。私を嫌っていたのだろう。                「やったー!!」            吉川が嬉しそうに叫んで私を何とか振り払う。                  私はノートを取り返そうとして山田の方へ走った。吉川が山田にノートを投げる様に言う。山田が投げる。吉川から取り戻そうとすると、結城へ投げる。3人で投げ合い、私から取られない様にする。         私はもう無理だと思い、諦めた。すると吉川が自分の机に急いで走り、私のノートを丸写しする。山田と結城もそうだ。      吉川は、大声で、他に写したい人間がいるかと叫び、見せてやると言う。そしてクラスの3分の1か半分位の生徒が吉川の机の周りに走り、皆で私のノートを廻して必死で急いで、次の英語の授業に間に合う様に写す。赤ら顔の石渡もそうだ!          この姿は、丸でハイエナの群れがその動物の死骸に群がる様にそっくりだった!!   ハイエナは他の猛獣が狩った獲物の食べ跡に群がり、貪り食う。たまに、その猛獣を群れが多数で追い払い、横取りをして食べる。だから吉川を始めこの生徒達は、正にハイエナだった。本当にとても浅ましかった。   吉川は一度やると、又毎日私の英語の宿題を写させる様に要求して、見せないと甘堂に言い付けると言った。何かを言えば必ず自分達を信用するからと。石渡も私の隣だから何度かそんな事を言って脅かした。      当時の私はうんと愚かだ。又、母が丸で頼りにならない、私に輪をかけた馬鹿だ。   普通なら担任に言えば済む。だがその担任が、私を平気で男教師に頼んで、レイプさせようとする、恐ろしい女だ!!      では堀江に言えば良かったかもしれないが、弁当事件の時に余り役に立たなかった。担任でないから仕方が無かったのかもしれないが。                  だから結果私は諦めて、ノートを見せる様にした。甘堂に何かを言われて、もっと酷い仕打ちをされるのが非常に恐かったのだ!! だからしばらくはこれが続いたが、堀江も馬鹿では無い。毎回誰かをさして、宿題の、日本語の文章を英訳文にする問題を黒板に書かせる。一人、一問だ。          この時に、さされた生徒がスラスラと難無くその答を書く。今迄はできなかったり、間違えていたのが、いとも簡単にその文章を書く。                  又は、誰かできる者はいるかと聞けば、多くの生徒が手を上げる。嬉しそうに前へ出て答を書く。                吉川に至っては、毎回手を上げて、さされれば堂々と黒板ヘ歩いて行き、得意そうに書く。それが晴れ舞台の様に!!      堀江がこうした生徒達を褒めた。最初は只驚いて、歓心して褒めたみたいだ。ちゃんとに勉強して努力して、問題ができたのだろうと。だが、それでも不思議がっていた。  「みんな、最近、凄く英語ができる様になったわね〜?」、「よくあんなに長く、完璧な英文ができたわね〜。」、とよく言っていた。                  そして直ぐに、怪しいと思い、前に出て書いた生徒達に言った。           「よくそんな文章ができたわね?」、「そうね、英文は完璧だけど、それはまだ習ってないやり方じゃないかしら?」       言われた生徒は黙っている。中には少しまずそうな顔をして下を向き、堀江の顔を見ない様にする生徒もいた。          彼女達に堀江が聞く。どうしてそうした訳し方を、又は英文を作ったのか?考えたのかと。誰も答えない。答えられない。    堀江は、私に英検2級を取れと、一年生の時に無理矢理に勧めた。面倒臭いからいいと幾ら言っても、必ず受かるから取れと凄くしつこかった。だから、私はその試験を受けて、英検2級を取得した。だから、このクラス内でここまで英語ができるのは私しかいないからおかしいわね〜、と言った。皆、黙っていた。                  そして又違う時に、吉川が手を上げたかで、前に行き、英文を書いた。        この女は特に、非常に図太くてふてぶてしかった。又、非常に目立つとか注目されるのが好きだった。だから堀江の言う嫌味も平気で、気にしていなかった。私が作った長い英文を書き終えて嬉しそうに席へ着くと、堀江が質問をした。             「吉川さん、凄く良くできたわね。長い難しい文章をスラスラと、よく書けていて。じゃあ、どうしてこの訳し方をしたのか、言ってみてくれる?」             「エッ?」               「どうしたの?この文を書いたんだから、分かるでしょう?」           「…分かりません。」          「だってこれ、あなたが作った英文でしょう?」                 「はい!!」              すると間髪も入れずに聞こえた。     「アハハハハ!一寸、恥ずかしくないの〜?!」               稲川瑠奈だった。            吉川が瑠奈を睨んだ。瑠奈は知らんぷりして前を見ている。             「ほら、吉川さん?稲川さんが、恥ずかしくないのかって言ってるよ。あなた、どうしてそんな事を言われるんだろうね?」    吉川が困りながらうつむいている。    「いい、みんな?人の物をそっくりそのまま写したって、そんなのは自分の力にならないんだよ?!そんな事を幾らしたって、成績なんて上がらないんだよ。何にもならないの!!英語でも、何でもそう。分かる?!どうせ高木さんのノートを、無理矢理に頼んで写させてもらったりしたんでしょうけど。そんな事をしたって、何にもならないの。だからもうそんな事はや止めなさい。止めないなら、又こうして自分がやったんじゃないのが分かったら、先生もあなた達の成績をうんと下げますよ。良いですかー?」      皆黙って聞いていた。          私のノートを写していた奴等はつまらなそうに、嫌そうにして聞いていた。もう自分で宿題をしなければならない、只写して終わりでは無いと言うのが,面白くなかったのだろう。隣の、満面ニキビの赤い鬼顔の、タワシ頭の石渡もそうだった。         だが、私が英検2級を所持しているのを甘堂は知らなかったのかもしれない?私の英語力を試すのを堀江に頼んでした時に、事前に堀江は話さなかったのか?         いや、授業の英語が良くできたのは知っていたが、私が必死で勉強していたからできたと思っていたのに、違うと否定されて頭に来たのだ!嘘をついていると言って!この女は相当なメンヘラだったから。        実際、甘堂は私の事を本当には何も知らなかった。年が本当は一歳上だとか、インターナショナルスクールへ通っていた事とか、何もかもだ。                だが古田は知っていた。一年生の時に、最初の頃、母にたまに電話があり、話していたからだ。                 特に何も用事は無かったが、電話はあった。恐らくは、当時はまだ珍しい"ハーフ"だから、(幾ら横浜のど真ん中でもだ)、その生徒に付いて、知っておこうとしたのだろう。又、私を嫌いでは無く、むしろ好意的だったからだ。 

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