第26話
叔母は此処の卒業生だったが、彼女の担任は庭隅和江先生という、私が一年生の時に家庭科を習ったオバサン教師だった。色黒で目の大きな、太った先生で、背も高かった。年は、多分50代半ば位だったと思う。 私は、叔母に彼女が担任だったと聞いていたから、ある時、思い切って話しかけた。私がいた廊下を、歩いて来たからだ。 「あ、あの、庭隅先生?!」 庭隅が私を不思議そうに見た。 「あの…、黒田優子って覚えていますか?」 庭隅がじーっと私の顔を見る。 「あの…、もう随分前なんですけど、黒田優子です!先生が担任だった!」 「…黒田さん?」 「はい、私の叔母なんです!」 庭隅はじーっと考え込んでから、いきなり顔が晴れやかになった。 「ええ、覚えているわ!黒田さんね?!」「はい!!」 「彼女、あなたの叔母さんだったの?」 「はい、母の妹なんです!あの、私とは苗字は違いますけど。祖母が離婚してから、苗字が変わりましたから。」 「そう。ねー、黒田さん、優子さんは元気?今、どうしてるの?」 庭隅は嬉しそうに、懐かしむ様に言った。「今はもう結婚して、子供も二人います。横須賀に住んでいます。」 「あら、そう?懐かしいわぁ!!優子さんに、お元気でねって言っておいてね?」 「はい!」 私達は互いに嬉しくて、ニコニコと笑いながら話した。 すると、私は甘堂が歩いて来るのに気付いた。庭隅と私は離れて、庭隅は真っ直ぐに前ヘと歩いて行く。 すると甘堂がいきなり庭隅の前に飛び出した。そうして早口でまくし立てた。 「庭隅先生、今、あの生徒と何を話していたんですか?」 庭隅は甘堂の顔を驚いて凝視した。甘堂が繰り返した。 「何を話されていたんですか?!教えて下さい!」 庭隅の顔が怒り顔になった。 「別に、大した事じゃないわよ。」 「先生、どうぞ教えて下さい?!」 甘堂が食い下がる。 「どうしてあなたにそんな事を教えなきゃいけないの?」 「先生に、何かご迷惑をおかけしたんじゃないかと思いましたから!あれは、私が担任ですから。」 「別にかけてないわよ。」 「じゃあ、一体何を話していたんですか?!」 「だから、大した事じゃないわよ。」 甘堂は何も聞き出せないので、困り顔になりながらも、満面の笑みを作り、媚びる様に言った。 「そうですか?でも、もしも何か失礼な事を言ったりしたんなら、どうぞ遠慮なくおっしゃって下さい。私が直ぐに、どっちめてやりますから!!」 庭隅が大声で言った。 「結構よ!生徒の扱い位、自分でできるわ。もし本当に何か変な事をしたんなら、別にあなたの力なんて借りなくても大丈夫よ?」 甘堂は困り顔になった。 「あぁ、そうですよね…?じゃあ、本当にあの生徒は、何もしていないんですか?」 「あなたもしつこいわね!じゃ、もう行かないと。授業があるから。」 庭隅は、甘堂を迷惑そうに見ながらそう言って立ち去った。 私はこの様子を不安げに、離れて見ていた。見届けるやいなや、甘堂に分からない様に急いで、自分の教室に隠れた。いや、戻った。次の授業に甘堂は来ないから。 丸で兔か何かが、狐や狼に見つかって狩られない様に、急いで逃げ戻った!!そんな感じだったかもだ。 見つかるが最後、その時は授業だからイチャモンをつける時間が無くても、又放課後に残される。拘束される。 上手くいけば運良く、そのまま帰れる。 だが、下駄箱まで行く途中で、樽辺や今岡に見つかっても、職員室に呼ばれるか、連行される。自分達が忙しくない限りは。 此処はサバンナ。気狂いハンター達が複数いる…。そして私は、追われる側の動物だ。気を付けないと、いつ狙われるか、捕まるか分からない!! それから数日後、私は廊下で又、庭隅とかち合った。すると彼女は私の顔を、凄く憐れむ様な目付きをしながら、しげしげと見つめて言った。 「あなたも、大変ね〜。」 「…はい。」 「頑張ってね?」 「はい!」 この励ましが凄く嬉しかった。 甘堂達鬼畜と、対立して助けてくれるメンバーは、古田、青木、堀江、庭隅だ。 そして、もう一人いる。彼は、途中から樽辺に陰湿な恐喝をされる事になるのだが…。 只、その出来事の前に語らなければいけない、私にとっては最も恐ろしく、危険な内容がある…。
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