第24話

私は卒業し何年もしてから、偶然に当時のクラスメートに二人会った。別々の時にだ。その時、それぞれからこの学院の教師達に付いて色々と聞いた。            この生徒達は私とは仲が悪く無かった人間だった。だから、色々と教えてくれた。   その時、片方に聞いたのだが、甘堂は前にいた高校では、嫌いな生徒達(女の子達)を何人も虐めて、辞めさせていたと言うのだ。それで、親が学校へ文句を言ったりして、結果クビになったそうだ。私がいた時にも、知っている子は知っていたらしい。それで、うちの校長先生が、案の定拾ったのだ。    これを私に話したのは稲川瑠奈と言う、横須賀の方から通っていた子で、割と裕福だった。この子は在学中、私にはかなり好意的だった。一度私が、甘堂にいびられているのを助けようとして何か言ってくれた。甘堂は怒って彼女を自分の前に連れて来る様に三人の手下に命令した。            瑠奈は焦って、自分の仲間の子の名前を呼んだ。皆、甘堂が恐いからそのままだった。だが瑠奈は、執拗に名前を呼んだ。     「美咲!美咲、ねー、美咲〜?!」    一番仲良しの子を呼ぶと、彼女も最初は躊躇したが、渋々瑠奈の前に立った。すると後の二人も嫌そうにしながらだが、稲川瑠奈の前に立って、彼女を守る様にした。     このグループはクラス内では多分一番大人っぽい子達だった。そして美咲と言う子も、小柄ながら、中学では不良のグループにいたらしい。勉強は丸でできなかったが、瑠奈は、だから彼女と親しくしていて、自分のボディーガード的な存在にもしていたのかもしれない…?                 すると甘堂の手下共も流石に怯んだ。相手は、一人は背が高かったし、皆、嫌に大人びた感じの子達だ。            甘堂がイライラしながら手下に声をかける。                  「何してるの?こっちに稲川さんを連れて来て。早くしなさい!」          だが三人は困りながらも、動かなかった。美咲達に睨まれてすくんだのだ。蛇に睨まれた蛙は、あんな感じかもしれない。恐くて動けなくなる。               甘堂は仕方無しに諦めたが、凄く悔しそうだった。そのまま教室から、怒りながら出て行き、手下が胡麻するために追いかけて行った。確か、帰りのホームルームの時だったと思う。                 この手下の三人だが、彼女達はシンちゃんと同じ中学だった子達で、シンちゃんとクラスメートだった子もいた。一人が、あの山田だ。                  マスクと言う、1985年に制作されたアメリカ映画を昔見たが、その主人公の青年によく似た、中学では怪物と男子生徒に呼ばれていた、顔がかなり異様な子だ。       この映画の内容は、これは実話なのだが、何かの病気で、生まれながらに顔が奇形で、その顔は異様に大きく、丸でハロウィンの時に被る化け物のマスクに似ている青年の話だ。だから彼は幼少の時から虐められたり、ジロジロと見られたりする。         例えば、まだ子供の時に、彼の事をまだ聞いていないだとか知らない教師がクラスに入って来ると、彼を見て叱りつける。     「おい、誰だ?!教室の中でそんなマスクを付けてるのは?早く取れ!!」      「先生、違うんです。」         「何が違うんだ?早く取れ!」      「先生、これ、僕の顔なんです。」    「お前、ふざけてるのか?!」      「違います!!本当に僕の顔なんです!!」「いい加減にしろ!よーし、どうしても嫌なら先生が取ってやろう。」         教師は怒りながら彼の側に行き、首の下に手をやり、顔を引きずりあげる。      「痛い!!」              「あれ?おかしいなぁ?!」       何度も引っ張る。            「痛い!!止めて!!」         「何だ、これ、取れないぞ?つなぎ目もないぞ?!」                「痛い、先生、止めて〜!!」      教師は真っ赤な顔になりながら力一杯に引っ張っていたが、途中でハッとする。   「こ、これ?!これ、本当に顔なのか〜っ?!?! 」             「先生、本当です!僕の顔なんです!!」                教師は手を止めて、離す。少年の顔を見る。驚きと同情心一杯の表情をして。    「な、なぁ、悪かったよ?!先生、知らなかったんだ…。」              彼は言う。               「良いんです。先生だけじゃありませんから。みんな、最初はそうなんです。だから、どうか気にしないで下さい。」       長くなったが、この山田典子は私に、あの映画の主役の青年を思わせた。そして山田の他には結城蘭、それと吉川芙美子だ。    結城は小柄て天然パーマの、困っしゃくれた感じの子だった。天然パーマの髪を二つに結いていたのが印象的だ。         吉川は眼鏡をかけていた。男勝りな、ボーイッシュな感じで顔立ちは悪く無かった。顔立ちは悪くない、全体的には整っている。だからと言って、綺麗や可愛くは見えない。男なら、ハンサムに、今で言うイケメンには見えない。この子もそんな感じだった。    その顔は、性格のきつさも示していた。そして彼女は、女子校にはよくいる、男役だった。少年の様に振る舞う。大声で話したり笑ったり、男の様に何かがさつに振る舞う。又、太っ腹の様に振る舞う。       この三人は、いつでも甘堂にべたべたして、へばりついていた。ホームルームの後、甘堂の授業の後、放課後…。丸で金魚のフンだが、甘堂もそれを喜んでいた。      甘堂も、何でも彼女達に話した。他の生徒の家庭環境だとか色々と、言ってはいけない事をだ。私はやられた。又詳しくその事にも触れるが。                そしてこの三人は私を毛嫌いした。シンちゃんが何かを色々と言いながら、私が自分を冷たく切り捨てたと話したのだ。      ずっと分からなかった。何故私を執拗に憎み、束になって嫌がらせを沢山してきたのか。                  だが、卒業した直後にシンちゃんと電話で話した時に聞いて分かったのだ。私は大変に驚き、文句を言うと、お互い様だと言われた。これも後から話そう。          さて、甘堂はそれでもこの学校に二人、仲良しの女教師がいた。猫を被っていたから、二人は甘堂の事が分からなかったのだ。だが後に、私への執拗な虐めを見て、恐くなり、付き合うのを止めた教師達だ。       実は甘堂に習う前に、私は廊下でたまにすれ違うと、頭を下げたり挨拶をしたリした。そうした決まりだ。だが、いつも嫌そうに一瞥して去って行った。           私は、意地悪そうな人だなぁ、といつも思った。二年生の担任をしていたから、今度もし自分の担任になったらどうしようかと思ったが、それが現実になってしまったのだ。  甘堂の友人達は、片方が英語、もう片方が世界史を教えていた。私はどちらも成績はとても良かった。だから二人も、私を嫌いでは無かった。そして、二人はいつも、何故甘堂が私を毛嫌いしていたのか不思議に思っていた様だ。                 甘堂は殆ど毎日ホームルームの時に、何故そんな顔をして聞いているだとか、馬鹿にした様な嫌がらせを言った。だから下を見る様にした。                 たまに、幾ら何でも何もしていないのだからと思い上を向くと、又叱りつける。    これが面白くて、たまに隣の席の石渡美智子はわざと、何もしていなくても甘堂に言い付けた。                 顔面真っ赤なニキビ面の、ショートカットがたわしの様なゴワゴワな髪で、丸で赤鬼の様な子だった。              「先生!高木さんが話聞いてませんよ〜?」だとかを言うと、甘堂は嬉しそうに又叱り付ける。                 そして甘堂は年中私を放課後に職員室へ呼び付けて、ダラダラと一時間位注意や文句を言う。たまにお茶を飲み、大福を食べながら。そうした態度も見ていたから、その二人の女教師が話しているのを聞いた事がある。  「甘堂先生、何であんな態度を高木さんにするのかしら?」             「私も不思議なのよ。あの子、よっぽど酷い事を何か言ったのかしら?」       古田も甘堂の近くの席だったから、一度いい加減にしたらどうだと言ってくれた。だが甘堂は怒鳴り付けた。           「古田先生は黙っていて下さい!!私の生徒ですから、先生に関係ありません。出しゃばらないで下さい!」           古田は仕方無く、嫌そうにだか黙った。  これを三年の時に古田はやり返すが!!  廊下で甘堂にかち合った。まずいと思い、頭を下げて足早に立ち去ろうとするといきなりあの切向上の凄い言い方で私に言った。  「高木さん、あなた、何でそんな直ぐに逃げる様に行こうとするの?!目上の人間に何なんですか、一寸その態度は?」      只の嫌がらせだ。虐めが趣味だから、虐めたいだけだ。               「あの、授業がありますから。」      そう言って行こうとした。        「一寸待ちなさい!!」         今の私はそんなのは無視して立ち去る。急いで教室に入ればまさか追って入って来たりはしないだろうから?何もしていないのだし。だが当時の、飛び切り馬鹿でお人好しで,我慢強い私だ。徹底的に母と、特に祖母に寄って忍耐強くする様にと鍛え上げられている。(それも自分達に都合が良いからだと後から何人かの人が言ったが、今は、そんな事は良く把握している。)だから、困ったが立ち止まっていると、背後から声がした。    「高木、早く行きなさい。」        古田だった。私は安堵した。       「古田先生、何を勝手な事言ってるんですか?!」              

「何がですか?」            「今、私が高木さんに話してるんですよ?!」               「だから何です?高木は私の生徒ですよ。」「だからって、私が今注意をしてるんですよ?!」                「何も高木はしていなかったけどな。だけど、もし注意するなら私がしますよ。甘堂先生、私の生徒ですから。先生に関係ありませんから。出しゃばらないで下さい!」   勿論覚えていたのだろう。甘堂は自分が言った言葉をそっくりそのまま返されて、悔しそうに黙った。そして苦虫を噛み潰した様な顔をした。                「さあ早く、高木、行きなさい。」     私は急いでその場を離れた。古田はこうして何度か私を救った。           だが、決定版の、私を救った事がある。  高校の中で、生徒を婦女暴行しようとする教師はドラマでしか見た事は無いが、私立高には、その学校に寄っては何でもござれで、どんな事でも存在するのだ!!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る