第22話

樽辺は廊下ですれ違うと、たまに私に何か細かい事を注意した。本当に些細な事をだ。 もっとゆっくり歩けだとか、何を避ける様にして急いでるんだ、等と言い掛かりを付けて、立ち止まらせてネチネチとそこで文句を言う。いつもでは無いが、自分が急いでないだとか、私が一人の時で、周りに余り生徒がいない時にだ。             そんなある時、私がそれから解放されて歩き出すと、後ろから樽辺を呼ぶ声がした。私は振り返って見た。気になったからだ。   声の主は、40代半ばから後半の女教師で、生物を教えていた。この女は学年主任だった。                  独身で、自分の姪を養子にして、その20代の娘と二人暮らしをしていた変わった女だ。                  髪型は肩よりも短いボブスタイルで、その頭には黒いネットを、被るというか着けると言うのか、風で乱れないためにか、そんな事をしていた。そして銀縁の眼鏡をかけていた。真面目そうな格好をしていたが、ブラウスやカーディガンはピンク色の物をたまに使用していた。                顔は別に不器量では無かった。色が白く、目立たない、大人しそうな顔立ちだった。  だが、とても冷たくて、神経質そうな感じがした。昔よく言う、"オールドミス"の典型的ルックスとでも言おうか?そんな感じだった。                  この女、今岡貞子は樽辺に声をかけた。私に嫌がらせをしていたのを見たからだ。   私は直ぐ側の廊下の曲がり角に立ち、見えない様に二人を観察した。若い時は耳が良いから、小声で話すのが何となく聞こえた。  声をかけられた樽辺は最初は焦っていた。 注意をされると思ったのだ。だが違った。 この女は、言った。           「樽辺先生、あなたも、あの子が嫌いなんですか?」                「エッ?あっ、は、はい。」       「そう?私も、大っ嫌いよ、あんな子。」 樽辺は驚きながらも、満面の笑みをした。 「だったら、これからは一緒に虐めましょうよ。」                 うわっ、やばい?!、そう思った。それは まだ一年生の時だ。           元々、この女が私を嫌っていたのは何となく分かっていた。             変に真面目そうで、顔は鉄仮面の様な、丸で可愛げの無いタイプだ。恐らくは男と付き合った事も無ければ、あったとしても本の一寸の間だろう。そして、もしかしたら性体験なんて事も、一度もなかったんじゃないだろうか?                  母も会った事がある。(後に話そう。)だが、同じ事を言っていた。          凄く冷たそうな顔で、馬鹿真面目そうで、 あれじゃあ丸ですきが無いし、きっとどんな男でもあれじゃあ嫌だし、もし付き合ったとしてもつまらないから直ぐに嫌になると。 面白くも何ともないし、だけど頭は良いからプライドだけは凄く高いんだと。そんな事を言っていた。              とにかく、この女と樽辺は私を虐めると言う同盟を結んだ。             これが一年生の時だ。だから、ネチネチと 服装検査の時にはこの女にもしつこく言われた。                  もう一人、鈴木と言う、かなり婆さんの教師の、やはりオールドミスがいて、これも酷かった。                 私は習った事は無かったが、服装検査の時には大変に厳しかったし、私にも物凄くそうだった。相手に寄っては多少緩かったりもしたみたいだが、そうして厳しくするのを楽しんでいた。殆ど白髪の、おばさんパーマの髪 型をして、ダサい服装のオールドミスだった。                  だが、一年生の時はまだ古田がいた。だからまだましだった。樽辺と今岡は、そこまでは何かをできなかった。          問題は、二年生からだ。         (只、三年生の時にはクラスの担任教師が皆変わった。私は一年生の時と同じ担任の、 古田になった。だから、まだ運が良かった。)    

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