第14話

シンちゃんの余りのしつこさに、しばらくは一緒にプールヘ行っていなかった私だが、又行く事になる。電話でしつこく連れて行ってくれと言い、最後の方では又泣き声になりながら哀れに頼む。私はそれでほだされてしまったのだ。               あれは本心だったのか、彼女がいつも使う手だったのかどっちだったのだろう?恐らく、その場に寄って、どちらもだ。本当の時と演技の時とだ。              私の高校生活が惨めな悲惨な物になるのは もう少し後だ。もう少しこの夏休み.プール編の話をしたい。            とにかく私はシンちゃんと、懲りずに又一緒にそのプールへ行った。         此処には、プールサイドに生ビールやフライドポテトを売っているスペースがあった。 特に週末には、よくのんびりとビールを飲む男性やカップルがいた。         私も雪子さんもその場所には興味が丸で無かった。彼女はお酒を飲まなかったし、まだ高校生の私は、お酒などまだ飲んだ事が無かった。                  フライドポテトも、後からお蕎麦をいつも 食べていたから当然二人共興味が無かった。私一人が行った時も、家でしっかりと食べてから行って泳いでいた。時間帯が、早く行くから、帰りは真っ直ぐに帰る。寄り道をしない。                  だがシンちゃんは違った。太っていたから 食べ物に凄く興味があった。だからそこへ見に行こうと言い出した。もう、連れて行った次の時には異常に興味を持っていた。   私は何となく嫌だから断っていた。ホテルの従業員男性が立っているから、そこへ、何も買わないのに行きたくなかった。     だがシンちゃんがどうしても見に行こうとしつこくて、うるさいから一度だけだと言いながら近くへ行った。           シンちゃんは嬉しそうにキョロキョロと見回した。                 中年の従業員が声をかけてきた。私達に買うのか聞いた。とても感じ良かった。    私達は断った。財布はロッカーの中だし、 フライドポテトも食べたくなかった。ビールも勿論飲めない。            だがシンちゃんは食べたくて、サンプルはないのかと聞いた。その従業員は無いと答えて謝った。                「すみません、無いんです。」       三十代半ば位の、体がガッチリとした割と顔立ちの良い男で、何か水商売っぽい感じだった。                  私達は行こうとしたら、この人は私に話しかけた。                 「可愛いね。君、ハーフ?」       「うん、そう。」            「よく来るの?」            「うん。」               「そう。名前は?」           「リナ。こっちはシンちゃん。」     「シンちゃん?」            「あぁ私、新宮司って苗字だから。」   「あっ、そう。」             この男の名前は、立花さんだった。彼は派遣で働いている、このホテルの配膳係だった。それからは泳ぎに行くと、私達は立花さんと口を交わす様になった。         そしてある時、シンちゃんから又電話があり、プールへ行く催促かと思ったら、違った。私にこのプールのカードを貸してくれと言う頼みだった。            彼女は同じ部活の、私達と同じクラスの山田と言う子に、私とよくホテルのプールに泳ぎに行っていると自慢したらしい。山田はホテルのプールへ行った事が無いから、是非一度行きたいと話したそうだ。シンちゃんはこの子とは元同じ中学の、同じクラスだった。 彼女は山田に安請け合いをした。     「じゃあリナに聞いてやるよ。リナに貸してもらうから、行こうよ?!」       そんな事を言ったのだ。そして私に電話をかけてきた。               私は断った。しつこくせがまれたが、そんな事はできないと言って、切った。     山田とは、殆ど口を聞いた事が無かった。彼女が私を避けて、嫌がっていたのだ。   彼女は中学の時には、クラスの男子生徒達から、怪物と言うあだ名をつけられて、虐められていたらしい。顔が驚く程歪だったが、分厚いレンズの眼鏡をかけていたから、余り顔はハッキリとは判り辛かった。だがよく見ると、悪いが相当不器量で、パーツの作りは誰が見ても最悪だったと思う。だがオカッパ頭にその眼鏡で、とても真面目そうに見えた。この彼女は私を何故か嫌った。だから私も、そんな相手にカードを使わせる気は無かった。                  シンちゃんからは又夕方にも電話がかかってきた。貸してくれ、でないと山田が可愛そうだと言った。たった一回でもいいから、 そうしたらもう二度と言わないと。断ると、血も涙も無い人間か?、だとか、自分はいつでも行けるんだから、どんなにそれが行けない人間にとっては大きな事なのかと、何を言ってもああ言えばこうだった。電話を切っても又直後にかかってきた。         今ならもう年だから、まだこんな事をされても断れただろう。だが私はこの時まだ若いし、過度のお人好しだった。ずる賢いが馬鹿な祖母と、お人好しでやはり間抜けな母親にそう仕込まれていたのも大きかった。   だから結果、カードを貸した。そして何だかんだの理由をつけられて、シンちゃんの家の近くにまで呼び出されて。        母に後から言うと、流石に母も私を馬鹿呼ばわりした。               「その日、他人が二人も、自分のそのカードを使ってプールへ行って、自分は行けないんじゃないの?!あんた、凄く馬鹿な事をしたね!だけどあの子も凄いねー、そんな事をして。しかも、借りるのに人を呼び付けて!!そんな事、普通するのー?!」、と言われた。                 「一回だけだから。だからその日は行かなくても、又違う時に幾らでも行くんだからさ。」                 「だけど、凄く馬鹿だよ!!」      結果シンちゃんはこの山田とプールへ行って、楽しく遊んだ。帰りには、ホテルの側にあったラーメン屋に入った。いつも私に入ろうと言ったが、何となく嫌で私はいつも断っていた所だ。              そこに入ると、仕事前か後の立花さんがいて、食事をしていたそうだ。シンちゃん達は直ぐ側に座ると、立花さんにラーメンと餃子をねだった。              そして無理矢理に、あの執拗さで奢らしたらしい。もし奢らないと、ある事無い事をホテルに電話をかけて言いつける、そうしたら クビになるからとしつこく脅かしたそうだ。だから立花さんは、仕方ないから彼女達の分を払って、自分が食べ終わると急いで出たそうだ。                 これは後から私が立花さんに聞いた話だ。えらく怒っていたから真実だろう。     立花さんは、私が一人で行くとそう話した。そして彼女達を、特にシンちゃんを物凄く恐いと言った。            

シンちゃんは私の事も、山田と一緒になって馬鹿にして悪口を言っていたそうだ。(調子に乗る性格だからそれもあったとは思うが、一瞬驚いた。)              立花さんは私に、友達を選べ、と言った。友達はとても大事だから、変な友達と付き合うと色々と大変だから。友達とは、誰と付き合うかが凄く重要だから、と私の目を覗き込みながら、諭す様に親身になって説いてくれた。             

そして、まだ続きはあった。       シンちゃんは私のカードを返さず、自分が、夏が終わる迄預かると言った。行く時には 自分に言えばその都度渡すと。従兄弟が来たら困るから返せと言えば、普段はいないんだから、来る時には事前に言ってくれ。そうしたら私に渡すから何も問題はない、と頑張った。そして何度電話で言っても絶対に返さない。                  私は呆れながら、本当に腹が立った。   母にその事を話した。母も怒り狂った。  それで母は、彼女の母親に電話をかけた…。

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