第9話

私は思い切って、担任の古田に相談をした。この学校は本来、学校の帰りにどこかへ寄っては行けなかった。とにかく、制服を着ている間は必ず真っ直ぐに帰宅しなければ駄目だという決まりだった。          古田はシンちゃんを呼び、注意をした。  誰かが、私達が学校の帰りに飲食店に入るだとか出て来たのを見たから、学校に電話が あったと話したのだ。たからもうそういう事をしないで真っ直ぐに帰る様にと言った。私にも、寄り道をしないで真っ直ぐに帰る様に言ったからと言って。          シンちゃんはそれで後から非常に怒って  いた。何処の誰がそんな告げ口をしたのだろう、と何度も悔しそうに言った。そしてそれでも、そんな事は無視して一緒に帰りながら、何処かへ入ろうと言った。      私はまずいから嫌だと言った。そして一人で帰った。それからはその事を理由にして、一緒には帰らなかった。         只、クラスでは一緒にいたり、週末にはうちに遊びに来たりして、繁華街へも一緒に行ったりした。彼女の家にも確か一度遊びに行った。たまになら、ましてや休みの日に私服で歩いて、何かを食べる。そうしたのを夕方ではなく、昼間から会ってやるのは嫌ではなかった。むしろ楽しいと思った。      それは、年中ではないし、制服を互いに着ていないのが大きかった。         私はどうしても制服を着ていると落ち着かず、嫌だったのだ。日本の高校の、ましてやそうして大変にうるさい学校の制服を着て 外を歩いたり何処かへ入るのが、目立つから 嫌だったのだ。             昔の様に、インターナショナルスクールの 制服なら別に平気だった。着ていても違和感は無いし、そうした馬鹿うるさい規則など無い。だからだった。           そして、そうこうしている内に夏休みになった。夏になると私は、母と母の親友と三人で、毎年プールへ行っていた。      母の親友も泳ぐのが好きだった。彼女はバツイチで独身、子供はいなかった。冬には毎年スキーをしに色々な所へと行く。海外へも 滑りに行く。だが、夏はプールだった。  私も泳ぐのが好きだからと、一度市営のプールへ三人で行ってからは、毎年何回も三人で泳ぎに行く様になった。市営のプールと、大磯ロングビーチへも数回一緒に行った。  もっと私が小さかった時には海へ、当時は まだ彼女は結婚していたから、その配偶者と、私達親子とで行った事もある。    それでこの年には、私達はホテルのプールへ泳ぎに行った。彼女がホテルのプールの招待券を、私達親子にくれたか何かだった。  そして、彼女はそのホテルのプールの会員カードを買った。確か、当時1万円ちょっと位でそれを買えば、ひと夏中、そこのプールをいつでも使用できた。そしてその会員と行けば、もう一人誰かをただで入れられたのだ。                  それでこの母の親友の雪子さんが、そのカードを私達にも買えと勧めた。そうしたらいつでも一緒に行けるし、又私だけでも一人で泳ぎに行けるからと。           ホテルのプールだからきれいでゆったりしている。そこには市営のプールの様に子供が 山の様にいなかった。だからキャーキャーと大騒ぎをしたり、水を掛け合ったり、飛んで来て飛び込んで周りに水をかけたりかけられたり等は無かった。そんな事をしていたら従業員に注意をされた。だから安心して気持ち良く泳いだり、静かにプールサイドでのんびりとくつろいだりできた。        だから母も、私が泳ぐのが好きだし、年中 雪子さんとも行けるからと、そのカードを二枚買った。自分のと私の分だ。      二枚あれは、私の従兄弟が遊びに来たり泊まりに来た時に、三人で行けるからだ。   私は早速そのカードを使い、雪子さんと泳ぎに行った。数時間楽しくそこでくつろいで、帰りには雪子さんが近くのお蕎麦屋で毎回 お蕎麦を奢ってくれる。二人でお蕎麦を食べてから、私は駅へ。雪子さんは歩いて自宅のマンションへ帰る。こうした事を週末にやったりした。               だが雪子さんは普段は仕事だ。だから週末以外は一緒には行けない。私は殆ど一日か二日おきに、一人でそのプールへ通った。二時間位いて、たっぷりと泳いで帰る。平日は余り混んでいないから尚更良い。泳ぎ安い!! そんな時、シンちゃんから電話があった。彼女は年中うちに電話をして来ていた。夏休み前も、夏休み中も。           そしていつも私の行動を探った。何をして いたのか、何処へ行っていたのか、これから どうするのか等を聞いてきた。      いない時には、母や祖母に私が何処へ行ったのか、何故いないのかとうるさく聞いたそうだ。だから母は、丸で恋人か何かみたいだと言っていた。              そして、彼女が部活が無い日にうちへ来た。その時、又明日も部活がないから来たいと言うから、私はプールへ行くからと断った。彼女は私を馬鹿にした。          「エーッ、まだ高校生にもなって、プールなんかに行ってるの〜?」、「そんな、小学生じゃないんだから!!」          私は頭に来た。彼女のこうした所が嫌だった。何でも馬鹿にする。面白がる。何も分かっていないクセに。笑ったり、馬鹿にしたり、知ったかぶりをして威張る。     本当に私を好きだったのだろうか?好きな人間を直ぐに馬鹿にして笑うだろうか??  だが好きだったのは事実だ。       一度等は週末に遊びに来て、その時は私と 母が午前中に何処かへ用事で出かけていた。そして午後には戻る筈が、遅くなってしまった。祖母もその時、外出していた。    シンちゃんが昼過ぎに来るのは分かっていたが、当時はまだ携帯電話は無い。だから連絡がとれない。              とにかく急いで母と戻ると、シンちゃんが うちの門の外に下を向いてうつむいて待っていた。悲しそうな顔をして。彼女は、来たら誰もいないから、私が帰るのをニ時間半位待っていたのだ。             私達を見ると凄く嬉しそうな顔をして、叫んだ。                  「も〜う、リナ、一体何処に行ってたの~?!ずっと待ってたんだからー。もう、 もしまだ戻らなきゃ、仕方ないから帰ろうかと思ってたんだよ!!もう何回もそう思ったんだからぁ。」              あの時私は本当に彼女に悪いと思い、凄く 哀れにも、又ありがたいとも思った。だから何度も謝った。             「ごめんね、シンちゃん!!どうしても遅くなっちゃって。凄く気にはなっていたんだけど!本当にごめんね?!待っててくれて。もういないかと思ったけど、いてくれたんだね?!」                「もう、そんなの当たり前ジャン?!」  だから、こうして私を好きでいてくれたのだ。                  だが母に言わせると、それは女の子が恋を するみたいな物だと言った。女子校だから、思春期の女の子が同じ女の子を好きになる。丁度男の子の事を好きになる様にと。   きっとそうだったのだろう。だから彼女は、私の外見だけが好きだったのかもしれない。それと、彼女は他人を直ぐに下に見て馬鹿にする性格でもあったのだろう?      そうした人間には、何人も会って来ている。男女問わず。              とにかく私は、市営のプールではなくてホテルのプールへ行っていると説明した。だから小中学生が沢山いてガチャガチャしていて うるさくなんて無いし、リラックスできる所だと話した。              シンちゃんはそれを聞くと大興奮して、自分も是非行きたいと騒ぎ始めた。何とか行く方法は無いか?、自分を連れて行けないか?、と。                  私のカンは、良くないと告げた。これはろくな事にならないぞ、と。だから直ぐには言わなかった。               だが彼女は頑固だ。そして執着をする。  どうしてもホテルのプールで泳ぎたいと  言い、泣き顔になった。         言い方は悪いが、それは空腹な野良猫が、 近くで何かを食べている人間を、必死な哀れな顔で見て、食べ物をせがんで鳴き続ける姿によく似ていた。            もう哀れで仕方がなくなった私は、そのカードで彼女を入れられると教えて、連れて行く約束をした。              シンちゃんは飛び上がる様に嬉々として喜び、その数日後には私と待ち合わせをした。

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