第5話

こうした学校へ通いながら、私はシンちゃんとよく一緒に帰った。彼女は部活もたまに サボって、私と帰った。         彼女は年中古田の悪口を言っていた。訛りのある濁声や、ポマードをたっぷりと塗って テカテカと光り、匂いがする頭の事や、黒い大きな黒縁メガネの事だとか、とにかく凄く嫌がっていた様だ。私の下の名前を呼び、変に馴れ馴れしい態度も嫌だった様で、その事もよく言っていた。           私もそれに付いては凄く嫌だったから、一緒に悪口を言ったりした。だが内心では、そうした事以外ではそこまで嫌でもなかった。 放課後に宿直室へ呼んで、悩みを聞くとか雑談をしようとする事も、私が何も話さずに早く帰りたそうなので、もう諦めて呼ばなくなっていたからだ。            だがシンちゃんは、私が何もしないからいつまでも下の名前を呼んで馴れ馴れしくしているんだと何度も言った。そしてクラスの皆が同情したり、又は何も本人に言わずに我慢しているのを馬鹿にしているとも、何度も言った。                  私はそんな事を言われて良い気がしなかったし、とにかく自分だけが下の名前を呼ばれているのが嫌だし、とても恥ずかしかった。 ある時、ホームルームの時だ。私の事を又下の名前で呼んだ。私は思い切って大きな声で言った。下の名前で呼ばないで欲しいと。 何と馬鹿な事をしたのだろう!!そんな事をしなければ良かったのだ…。       古田は皆の前で恥をかかされたと思ったし、現にそうだったのだろう。顔が真赤になり、見る見るうちに怒り顔になると私を睨み付けた。                「何〜?!」              私は驚いたが、クラス中の生徒達もそうだった。そして私に対して、罵詈雑言を浴びせた。                  「何だお前。何だと思ってるんだ?何が下の名前で呼ばないで下さいだ〜?!人が優しくしてやってるのに。何を馬鹿が言ってるんだ〜、お前は?」            そうしてしばらくはネチネチと嫌味や悪口を言いながら、とても不愉快そうだった。  だがそれからは、私を皆と同じに苗字で呼ぶ様になった。そしてその日から私に対しての態度はガラリと代わって、ネチネチと意地悪を言ったり、強い調子で怒鳴る様に苗字を 呼ぶ様になった。            今迄とは正反対な、とても意地悪い態度になり、皆も最初は驚いた様だが、結果それが当たり前になった。だからといって特にクラスの生徒達からは意地悪はされなかった。  私は、墓穴を掘ってしまったのだ。そして私は古田の意地悪い態度や嫌味に並行した。 クラス内で何かの時に笑っていればそれを見ては笑い方にまでケチを付ける。真似をして笑い、「何だお前、その笑い方は!笑い方位練習しろ!何をヘラヘラ笑ってるんだ!!」等と言ったりして、いちいち凄い揚げ足取りをしたからだ。可愛さ余って憎さ百倍、と 言うのはこうした事かもしれない…。   シンちゃんは、私がもう気に入られていない事を喜んでいる様で、あんなのは馬鹿だから気にしないで相手にしなければ良い、と言っていた。                だが私はついにもう耐えられなくなり、仕方がないからある時放課後に側ヘ行き、話しかけようとした。古田は嫌そうに、何の用だと言い、話しかけてこられても迷惑だから早く帰れ、と言った。とてもキリキリしたきつい態度だった。              私は困りながらも、あの時にあんな事を言ったのを後悔している、悪いと思っいると話した。自分だけが下の名前で呼ばれるのが恥ずかしかったと言った。皆が変に思ったりすると嫌だし、そう思っている子達もいるみたいだからと。精一杯、本気で説明して謝った。しばらくは嫌そうに聞いていた古田だが、 何とか気持が通じた。古田はもう良い、分かったと言うと、そのまま去って行った。  それからはもう虐めたりしなくなり、普通になった。だがもう下の名前を絶対に呼ばなかったし、言葉遣いも違った。今迄は、女の子へ話す様な感じだった。例えば、「ねー、 宿題やってきたの?」なら、「おい、宿題はやったのか?」、みたいな。         私はそれでも構わなかった。古田は元々他の生徒達へも殆どそんな感じだったし、私の事があってからは皆へも余計そんな風になったと思う。                シンちゃんとは相変わらず一緒によく帰った。だが最初は良かったのだが、段々と嫌になってきた。それには幾つかの理由があった。

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