第4話
クライスト学院の校長は、髪が無い、殆ど ツルツルの頭をしていた。そして古田同様に真っ黒い縁の眼鏡をかけていた。体はがっしりとしていて、太っていた。声が太く、見た目は背広を着たお坊さんの様だった。 この人は一人っ子で、確か父親を早くに亡くして、母親とか祖父母に育てられたと記憶している。 そして時代錯誤というか、彼のこの学校は、髪の毛が少しでも肩に付けば結かなければ いけなかったし、定期的に体育館で、前髪の長さだとかスカート丈だとかを検査されて、長ければ切ってきたり、丈を上げなければ ならなかった。この検査をする教師達は、丸でこれが生き甲斐の様に毎回喜々としてやった。もう1センチでも長ければ大騒ぎをして、直してから後日見せなければいけなかった。 髪の毛もレイヤードスタイルは駄目だった。と言うか、嫌がった。できれば皆がワンレングスにして、一寸でも長ければ結かなければいけなかった。しかもボニーテールは駄目。ツインテールも嫌がり、できたらみつ編みにするのが非常に好まれた。 冬には黒いストッキングを履かなければならなかった。 学校のカバンと、もう一つの補助のバッグや靴下には、学校のイニシャルが入っていて、それ以外は絶対に使用してはいけなかった。アルバイトも、男女交際も禁止されていた。 だから叔母は家へ来ると、よく呆れて言っていた。そんな事は昔は無かったし、そんなに厳しくはなかったと。 だがこの益子孝校長は、変で訳有りな教師を何人も雇っていたし、彼自身が時代遅れな人間だった。 その一つには、自分が学生の時に道で見た 女学生に恋をした。その少女が(その当時には多い)みつ編みをしていたので、自分の学校の生徒にもみつ編みをさせたかった。 又制服も、当時の女学生達が着ていた物に似た制服で、リボンを蝶々結びにして首に着けたり、短い上着にしてもそうだった。だから、当時としてもこの学校はかなり時代錯誤だった。 そしてこの校長は、他校で問題を起こした 教師達を受け入れていた。他校で何かして 居づらくなっただとかクビになった人間を、多数受け入れていたのだ。 理由は、キリスト教精神で、罪を犯した人間を受け入れると言う事だ。そうした人間も 居場所が無ければ困る、可愛そうだ。改心してるだろうし、してるのに何処も受け入れないのは良くないし彼等も困る。そんな考えだったみたいだ。 だから一種の姥捨山の様な、そうしたろくでもない教師達の引受所でもあった。 私も最初はそんな事を丸で知らなかった。だが、確かに変でおかしな、意地の悪い、又は異様な外見や器量の教師達が何人もいた。 こうした教師達の中には、此処へ入ると同じ様な仲間を呼んだ者もいたらしい。又は噂を聞いて、同じ様なのが集まって来る。入れて欲しいと頼む。しおらしい、反省した様な大人しい態度で頭を下げて、入れて欲しい旨を伝える。 そして校長は快く、新しい居場所を与える。馬鹿なお人好しだし、本当に自分の学校の生徒の事を考えていたのか?していたらそんな軽はずみな事はできない筈なのだが。 だから頼みに来た、そうした教師達は内心では校長の事を馬鹿にしてほくそ笑んだのではないだろうか?そして、いつもきっと軽く見ていたのではないだろうか? だが本人は、偉い事をしているという自己満足で、その度に嬉しかったのではないだろうか? 昔はそんな事を思わなかったが、今の私に 言わせれば、校長は間抜けな馬鹿親父だ…。
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