第3話

私達の担任は古田信一という30代半ばから後半位の教師で、何年か前には公立の高校に勤務していたそうだ。          身長はやっと170センチになるかならないか位で、小太りで、黒縁の眼鏡をかけていた。髪の毛にはベッタリと油を塗り付けていていつもその匂いがして、前髪だけを本の少しだけわざと垂らしていた。         その髪型は、昔いた山城新伍という俳優のそれによく似ていた。もしかしたら意識していたのかもしれない。だが顔は目だけがギョロギョロとして、分厚い唇で、別に一つも良くなかった。そして栃木県かどこかの出身で、声は濁声で訛りがあった。        この教師が、どうやら私に好意を持った様だった。とても感じが良く、優しく接してくれた。だが、困った事があった。      それは、放課後によく、「何か困った事はないの?」と言ってきて、当直室に呼んで話をしようとした事だ。           私は何度も呼ばれて、仕方ないから行き、何か悩みや困った事があったら遠慮無く何でも言う様に、と言う事柄をしつこく言われた。私はこれがとても嫌で、いつ聞かれても、「何もありません。」、と答えていた。   「本当?本当に何にも無いの〜?」    彼は毎回しつこかった。凄く私と雑談をしたがった。だがいつも私は、本当に何も無いとハッキリと言って、解放されるのを待つ。 すると仕方無しに、何か残念そうに、「分かった。じゃあもう行きなさい。」だとかを言う。そして私は安堵して、急いで立ち去る。彼は私の事も下の名前で呼んだ。他の生徒達全員を苗字で呼んだのだが、私にだけは下の名前をいつも呼んだ。出席をとる時もそうだった。                 皆はとても不思議がり、私も嫌だった。要は、クラス中の誰にでも、明らかに私を気に入っているだとかひいきしている様に見えた。                  だが、私は馬鹿だったのだ!!まだ十代でうんと若いから分からなかったのだ。これは、古田の私への親心、気遣いだったのだ。  勿論気に入ってもくれたのだろう。私は大人しそうな感じだったし、当時まだ若いから、可愛いとか綺麗等と言ってくれる人達もいた。だから古田は私に良い印象を持ってくれたのだ。               又、ミッション系の女子校で、そこはかなり規則が厳しく、色々とうるさい学校だった。だから皆と違う、外見が目立つ私が苛められたり、嫌な思いをしない様にしたのだ。  勿論そうした事があれば自分自身担任として困るし、面倒臭い。だから、彼は私を守ってくれようとしたのだろう…。       だから私の下の名前をあえて呼び、皆とは少し違う様にしたのだ。そうすれば皆が、担任に気に入られている私を苛める筈が無いから。だから私も安心だし、自分も私もトラ ブルに会う事もない。そう考えたのだと思う。                  だが、シンちゃんは異常にこの態度に腹を 立てた。焼きもちを焼いたのだ。     私は部活に入らなかったが、彼女はバスケットボール部に入った。だから部活が無い時には、いつも私と一緒に帰った。反対方向なのに、わざわざ遠回りをして私と同じ方角へ 来る。そうして帰ったのだ。       私が部活に入らなかったのにはある理由が あった。それは、私は本来は一年上の学年だったからだ。だが、インターナショナルスクールから、12歳の時に日本の公立の小学校へ転入させられた時に、母のたっての希望で、(母が校長に頼み込み)、1学年下の学年に入れさせた。漢字が殆ど読み書きできない事を母が過剰に騒いで、そうさせたのだ。                  だから私は小学校を2つ出ている。インターナショナルスクールと、普通の公立の小学校だ。                  だから部活に入るというのは、同い年の生徒達を先輩呼ばわりして、敬語を使わないといけない。そんな馬鹿馬鹿しい事はしたくなかった。                 そんな事は嫌で、中学の時にも最初は入らなかったが、違うクラスの仲良い子達にしつこく誘われて、大して興味も無いテニス部に入った。                 案の定同い年の子達は知らないから、私が 1歳下だと思うし、私は敬語を使わなければいけない。いちいち説明なんてする時は無いし、したとしても信じないか、どちらにしても学年が下だから、やはり同じ態度を取ったのではないだろうか?          結局球拾いばかりだし、元々余り興味が無かったし、まだバトミントンや陸上の方が良かったので、数カ月で辞めてしまった。   元々、顧問の美術の若い女の先生は、私が入るのを勧めなかった。中学では私を、下の名前にちゃん付けをして呼ぶ女の教師達が何人かいたが、(これは、恐らくハーフだからだろう?)この若い教師もそうだった。そして言われた。               「リナちゃん、止めた方が良いって。リナちゃんは多分テニスなんて好きじゃないし、好きになんかならないって!!だから入らない方がいいよ〜。」             何度も言った。             他の友人二人は凄く嬉しそうに、途中から 入部したのだが、私は彼女達からのしつこい 誘いに負けて入る事にしただけなのだから。                  だから、私には彼女達と同じ様な熱意が無いのが、恐らく分かったのかもしれない?? (最も彼女達も、しばらくしたらやはり辞めたのだが。)               とにかく、だから私は高校の時にも部活には入らなかった。そして古田は自分が顧問を している卓球部に入る様に何度も勧めた。 私は卓球は嫌いではない。どちらかと言うと好きな方だ。だが古田が顧問なのが嫌だった。                  彼を嫌いではなかったが、どちらかと言えばガマガエルみたいな中年男に好かれて嬉しい高校生の娘はいない。しかもクラスの中には、私が好かれていると言って同情したり、(軽くだが)面白がる子もいた!!    勿論本当には虐めない。何せ私は担任のお気に入り?!、なのだから。        だが私は卓球部に入るのを断った。古田は 言った。                「リナ、卓球部に入ればリナは安全なんだよ。絶対にその方が良いから。もし他の部活になんか入ったりするなら。」、「先生が顧問なんだから、守ってあげられるから。安心してられるんだから。」、「楽しくみんなで、帰りにラーメンなんかをを食べたりしようよ。先生がおごるから。」           実はこの卓球部、メンバーが殆どいなかったのだ。確か一人が二人だけだった。当時は卓球は余り人気があるスポーツでは無かったから。だがメンバーがいないからと言うのばかりではなく、この学校にはおかしな、変な教師達がかなり多くいたからだ。だからそうした事を言ったのだろう。         そしてその理由は、お坊っちゃん育ちで世間知らずな、とっちゃん坊や的な校長が原因だった…。

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