第一章2 『新月』
満月の光が、室内に流れ込んでくる。
流榎の通う高校——
大きいリビングにダイニングテーブルが一つ。それに向かい合うように長椅子が二つ。
奥にソファーがあるだけという簡素なもの。
その汚い一室には、綺麗な薔薇が咲いていた。
黒髪ロングに紫紺の瞳を持つ少女——東峰紫苑だ。
屋上で東峰と出会ってから、流榎はここに連れてこられた。
「——契約を交わすにあたって、三つ条件があるの」
薄汚い部屋とは相反した美声を東峰は発した。
「一つ目。殺しはしないこと」
「二つ目。私が死んだらあなたも死ぬこと。もちろん、あなたが死んだら私も死ぬわ」
「三つ目は……」
そこで東峰が口を止めた。
「なんだ?」
「いや、いいわ。気にしないで」
特段気になるわけでもないので、流榎は詰問しない。
「お前も、あの五人組に何かされたのか?」
「……まあ、そんなとこ」
東峰は流榎から目を逸らし、窓の外へと目をやった。
あまりに孤独な満月だった。
孤高とはかけ離れた、寂しい満月だった。
「…………これ、私のLINEのIDよ」
小さな紙切れに、『020922170920』という数字が書いてあった。
「これで連絡をするように。気安く学校で話しかけるのはやめて欲しいから。あと、会話内容は極力消すように。データは残るからあまり意味は無いけれどね。だから、危ない内容などはここで落ち合って話すこと。分かった?」
流榎は「ああ」と頷き、一度目の密会を終えた。
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