第421話 レオノーラの恋




レオノーラside




同胞を守ること。

私に課せられた宿命。

心からの願い。



「魔王様!」

「どうか、人間達に鉄槌を!」

「我らを害する人間達を討ち滅ぼしましょう!」



願いは鎖となり。

この身を強固に縛っていく。



「しかし、戦いとなれば、多くの同胞が死ぬぞ?」

「ですが、戦わねばなりません!」

「そうです、人間達は我々を討ち滅ぼそうとしているのですよ!?」

「魔王様、どうかご決断を!」

「「「ご決断を!」」」



ただ、皆の幸せだけを願っていた。

それが魔王となった私の責務なのだと。



「ーー分かった。」



同胞を守る為の戦いが始まる。

私は何を守り。

何を得たのだろう?



「っっ、魔王様、勇者です!勇者が人間側に現れました!」



絶望が私を呑みこんだ。

あぁ、なぜ?

ただ大切な者を守りたかっただけのに。



「魔王、なぜ人間を襲う!?」

「っっ、人間が我々を襲うからだ!」



勇者と何度目かの邂逅。

戦いは熾烈を極めた。

勇者と呼ばれるだけの事はあり、強敵で。



「どう言う事だ?お前達、魔族が人間を襲っているのだろう?」



ーー優しい人でもあった。

魔族である私の話を聞き、どうすれば戦いが無くなるのかを考える。

レオンシオは、そんな人だった。



「俺なりに調べてみた。聖王の言う事は嘘で、お前の言葉は正しかった。」

「魔王の言葉を信じるのか?」



勇者のお前が?



「魔族とか、人間とか関係ない。」



真っ直ぐな目を向けられる。



「俺にとって、魔族だろうと同じ人だ。」



同じなのだと言う。

魔族を倒す為に呼ばれた勇者が。



「お前達、魔族だって俺達と同じ心があるだろう?」



自分達と変わらないと笑う。

敵意の無い笑顔で。



「…勇者、お前の名前は?」

「レオンシオだ。レオンと呼んでくれ。」



私達は会話を続けた。

どうすれば、戦いは終わるのか。

この戦いの虚しさを。



「レオノーラ、俺は魔族と人間達との共存が出来ないかと考えている。」

「共存?私達、魔族とか?」



その提案は意外であり。

レオンらしいとも思った。



「どうすれば魔族と人間が共存できるのか、レオノーラも一緒に考えてくれないか?」

「あぁ、分かった。」



同じ志しを持った同士から。



「レオノーラ。」

「レオン。」



私達が秘めた恋人へと関係が変わるのに時間は掛からなかった。

ダメだと分かっていたのに。

好きになってしまった。



「レオノーラ、必ず叶えよう。魔族と人間達との共存を。」

「えぇ、必ず。」



難しい事は分かっていた。

でも、夢見た。

貴方も私も、勇者と魔王と言う重荷を下ろして幸せな明日があるのだと。



「…レオン、話があるの。」

「話?」

「…その、子供が出来たみたいなの。」



レオンの顔が見れない。

怖い。

私達はどうなるの?

お腹の子は?



「っっ、嬉しい、レオノーラ。ありがとう。」



その不安は、貴方の笑顔で晴れた。

不安はある。

勇者との子供を、同胞が許す訳がない。

そして、人間側も。



「レオノーラ、しばらく姿を隠そう。」

「そうね、お腹の子が生まれるまで、姿を隠すわ。」



お腹を撫でる。

この子の事は絶対に守る。



「でも不安よ。私がいなくなって、同胞達がどうなるのか。」

「俺がその命を奪わない様、魔族をなるべく撃退するだけに止める。安心してくれ。」



レオンの言葉を信じ、私は身を隠した。

魔の森の中心部に。



「レオン、この子の名前を付けてちょうだい。」



我が子を生んだのも、そこで。

女の子だった。

大切な我が子を腕な中に抱く。



「そうだな、…レイシー。女の子だから、レイシーが良いと思うんだが、どうだ?」

「ふふ、レイシー。貴方の名前はレイシーよ。」



幸せがあった。

魔族とか人間とか。

戦いとか共存。

そんな難しい事もなく、普通の幸せが。



「ーーー、魔族の殲滅?」

「…あぁ、魔王が倒されたと噂されている。その勢いで、魔族の殲滅を押す声が上がっているんだ。」

「っっ、そんな、」



幸せが、音を立てて崩れ落ちていく。

なぜ?

ただ、この幸せを守りたかっただけなのに。




「俺が聖王を説得する。」

「出来るの?」

「分からない、が、してみる。この子の為にも。」



我が子の頭を撫でるレオン。

目に涙が滲む。

どうか、お願いよ。

ーーーこの幸せを奪わないで。



「この裏切り者め!」



幸福は絶望へ。

レオンに付けていたコウモリからの視覚で、レオンが捕らわれた事を知る。




「っっ、そんな、レオン。」



迎えに行きたい。

でも、私には守らねばならない命があって。



「あぁ、っっ、」



密かにレオンが暗殺されるのを、コウモリからの視覚で全て見ている事しか出来なかった。

私は、何を守りたかった?

同胞?

レオン?

我が子?



「…憎い。」



人間など、滅ぼしてしまえばい良かったのだ。

そうすれば、まだ私の幸せはあった。

例え、レオンの事を悲しませる事になったとしても。



「憎い、人間が。」



憎しみが、この身を焦がす。



「ふぎゃ、」

「!?」



そんな私を引き留めのは、レイシーの鳴き声だった。

この子の幸せを、1番に考えなくては。



「っっ、どうか許して。」



考えたのは、レイシーを長い眠りにつかせる事。

魔族も。

人間も。

どうか、共存している世界になっていて。

未来へ我が子を託した。



「レイシー、忘れないでね。」



私達が貴方の事を、心から愛していたって。



「…あぁ、もう、」



この声も、我が子には届かない。

結界に全てを溶かし、私は意識を失った。

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