第422話 レイシーの為の権力を



レオノーラの話を聞いて、とても気分が悪かった。

勇者は共存の為に動いただけ。

なのに、裏切り者?



「レオノーラ、怒らず聞いて。私達が知る史実では、勇者は元の世界に帰還した事になっているわ。」

『っっ、外道め。自分達が勇者を害しておいて、隠蔽したのだな!』

「私が必ず、事実を世に知らしめる。約束する。」



クレイシュナに頼まねば。

必ず、真実は世に知らしめる。



『…そんな事が、お前に出来るのか?』

「えぇ、任せて。聖皇国パルドフェルドの聖女と親交があるの。彼女なら、必ず真実を世に知らしめてくれるわ。」



私のお願いだしね。

それに、勇者への暴挙を聞いて激怒しそう。

何しろ勇者はニュクスお母様が呼んだ人なのだから、クレイシュナにとって敬う存在だ。

その人が密かに暗殺されていた。

うん、激怒案件です。



「貴方と勇者の無念は必ず晴らすから。」

『ありがとう。』



レオノーラが微笑む。



「レオノーラ、レイシーの事も任せて。絶対に私が守ってみせるから。」



誰にも手を出させない。

私が守ってみせる。

クレイシュナも、勇者の子供と知ったら、力になってくれる事だろう。

他国にも根回しをしよう。



『頼む。結界が解かれた今、レイシーの眠りも目覚めるだろう。』



限界を迎えたのか、レオノーラの身体が透けていくのを見届け、最後を看取る。



「分かった、貴方を見送ったらレイシーの事を迎えに行くわ。」

『伝えて、レイシーに。愛していると。』

「必ず伝えるから安心して?」

『ありがとう、』



その言葉を最後に、レオノーラの身体が掻き消えた。



「ーーーおやすみなさい、レオノーラ。」



良い夢を。

勇者である旦那様と会えるといいね?



「さぁ、レイシーを迎えに行きましょうか。」



眠り姫の元へ。

その場から立ち上がり、歩き出す。



「この子がレイシーね。」



レイシーが眠っていたのは、神殿内の中心部。

大きな台の上に敷かれた布団の中でレイシーは眠りについていた。



「さぁ、レイシー。お目覚めの時間よ。」



そっと、髪を撫でる。

ふるりとレイシーの目元が動く。



「う?」

「ふふ、おはよう、レイシー。」



真っ黒な目が私を見つめる。



「ふぎゃ、」

「あぁ、泣かないで、レイシー。大丈夫よ、私がいるわ。」



泣くレイシーを抱き締めてあやす。

尊い重みだ。

この子を、これから守らねば。



「レオノーラも悔しかったでしょうね。こんな可愛いレイシーの事を側で見れなくなったのだから。」



じっと私のことを見るレイシーに微笑む。



「帰りましょうね、レイシー。貴方の家族の元へ。」



きっと、皆んなが貴方の事を受け入れてくれる。

可愛がってくれるわ。



「皆んな、帰りましょう。」



皆んなを連れ、ルーベルン国の屋敷へ戻る。




「お帰りなさいませ、ディア様!?」

「ふぇ、子供?」

「ディア様、いつの間に!?」



私達の帰還に気がついたら子達が、レイシーの事を見てパニックに落ちいる。

うん、落ち着こうか?



「ふぇ、」



ほら、レイシーも泣きそうだから。



「皆んな、落ち着いて?この子はレイシー。訳あって、私が育てる事にしたの。」




レイシーをあやしながら、皆んなへ説明する。

そうすれば、落ち着きを見せ出す皆んな。



「私の子じゃないけど、大切な我が子よ。皆んなも、レイシーの事を可愛がってね。」

「かしこまりました。」

「そう言う事でしたら、喜んで。」

「ミルクが必要ですね。用意します。」

「ベビーベッドも必要では?」

「オムツと洋服も必要ですね。」



華やぐ皆んな。

笑顔でレイシーの事を可愛がる。



「う?」

「「「可愛い。」」」


レイシーに、皆んながメロメロです。




◆◆◆◆◆



レイシーを寝かしつけた夜。

アディライトにレイシーの事を任せ、私はクレイシュナの元へ飛ぶ。



「ーーその様な事をしてたのですね。ふふふ、何と罰当たりな。」



上記がクレイシュナに勇者の真実を告げた際に発された言葉である。



「神罰を受けて当然です。同じ血が流れている何で、ニュクス様に申し訳ないですわ。」



やはり、大変激怒されていた。



「ディア様、分かりました。必ず勇者の真実を世に知らしめましょう。」



やる気満々。

決意に燃えている。



「よろしく、クレイシュナ。」

「お任せください!我が国の害悪の諸事情を全て世の中に知らしめて見せます。」



頼もしい限りだ。



「それで、魔王と勇者の子をディア様が育てるのですか?」

「えぇ、私が育てるわ。」



紅茶を飲む。



「あの子は、これから幸せになるの。誰にも邪魔はさせないわ。」



魔族にも、人間にも利用はさせない。



「かしこまりました。その様に私も協力させていただきます。」

「頼もしいわ、クレイシュナ。」



さすが、私の共犯者。



「他国は、レイシーの事をどう思うかしら?」

「脅威に思う者もいるかと。レイシー様は、魔王の子ですから。」

「そうね、なら、手出ししようと思えない様な権力が必要かしら?」



冒険者だけでは生ぬるい。

もっと強力な権利が。



「ディア様、どうされるのですか?」

「国を作ろうと思うの。」

「国を?」

「そう、魔の森に、ね。」



にっこりと微笑んだ。

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