第344話 愛し子
堂々と宣言した相馬凪と私に視線が集まる。
皇王も困惑顔。
「・・勇者様、不敬とは、どのような?」
「魔族の戦闘で皆を危険に陥らせたのは、全て俺のせいだと理不尽な言いがかりをかけられた!」
首を傾げる皇王に相馬凪が宣う。
「・・事実か?」
皇王の視線が私の方へと向く。
「それは事実ですが、魔族の襲撃の際に勇者様の魔力が枯渇した原因は本人のミスだと伝えただけ。それが、あの時の悲劇を起こした原因の1つでしたので。」
「はっ、そんなの単なる言いがかりだろ?」
相馬凪が鼻を鳴らす。
「言い訳?ふふ、魔族を相手に何も出来なかった方が面白い事を言いますね?」
「っっ、!?」
嘲笑う私に、相馬凪の顔が羞恥に染まる。
「ねぇ、勇者様?迷宮内で魔族を倒したのは誰ですか?」
実際に、魔族を倒したのは私。
その事実は覆せない。
「何度も魔力量を考えて戦う様にと私の忠告も無視した結果、魔族が現れた時どうなりました?その事を指摘するのが不敬など、可笑しいと思いますけど?」
「っっ、皇王様、聞きましたか!?この女は、こうして勇者である俺を嘲り、不敬な態度を取るのです!」
「うむ、ソウル嬢、いかにSランク冒険者であるそなたであっても、勇者様への物言いは、もう少し考えてもらわなくてはならぬ。」
厳しい表情になる皇王の顔。
相馬凪の言い分を全部は信じないが、私にも注意しろって所かな?
「え、無理です。」
にこりと微笑み、即答。
「その方に敬う価値なんてないですから。だって、勇者として戦えていませんもの。」
煽る事も忘れない。
「・・今、自分が何を言っているのか分かっているのか、ディアレンシア・ソウルよ!」
皇王の表情が険しいものへと変わる。
「ははっ、ついに本性を現したな!?皇王様、これが、この女の隠していた本当の本性なんだよ!」
笑う相馬凪の顔が醜く歪む。
「あの女に厳選なる処罰をお与えくれ、皇王様!」
「うむ、この世界を救う勇者様への無礼は決して見逃せぬ。なぜなら、勇者様を選ばれたニュクス様をも愚弄する事となるからな。」
右手を上げる皇王。
「衛兵よ、あの不届き者を捕らえよ。」
捕縛の命を下す。
すぐさま動き出す兵達。
「あらあら、皇王様、本当によろしいのですか?」
ゆるゆると口角が上がる。
「ふん、地下牢で少しの間、反省するが良い。そうすれば、勇者様への不敬も反省するだろう。」
「ーーー・・ですって、ニュクスお母様。」
虚空に向ける視線。
私の元へ、神聖な光が降り注ぎ、1人の女性が姿を見せた。
「なっ、貴方、様、は、」
現れた情勢の姿に見開かれる皇王の瞳。
知っているよね?
教会に、その銅像があるもの。
「ーーーっっ、ニュクス様、なぜ、貴女様がこのような場所へご降臨に!?」
皇王に問われ、一暼だけするニュクスお母様。
その瞳は冷たい。
「私は、愛おしい我が子に会いに来ただけです。」
私の頬へニュクスお母様の手が伸びる。
「捕縛の命を出され、怖ったわね、私の愛し子。何も怪我をしなかったかしら?」
下がるニュクスお母様の目尻。
私の頬に添えられるニュクスお母様の手の暖かさに、私は微笑んだ。
「ニュクスお母様、大丈夫です。ふふ、ニュクスお母様がすぐに来てくださったもの。」
「何も怪我がなくて良かったわ。」
「ニュクスお母様、心配してくれてありがとう。」
深まる笑み。
私とニュクスお母様のやり取りに、この場に居合わせた全員が驚愕に見舞われた。
「なっ、あの方は、ニュクス様の愛し子なのか!?」
「その証拠にニュクス様も、ご自分の事をお母様と呼ばれる事をお許しになられているぞ!」
「まさかニュクス様がご降臨なさるとは、奇跡のようだ!」
敬虔な信者達から次々に降臨したニュクスお母様へと、その膝を折っていく。
兵達とて例外はない。
「っっ、ニュクス様、ご降臨を皇王であるパルファン、心より感謝いたします!」
そして、皇王とて。
皆と同じように、皇王もニュクスお母様へと深く膝を折った。
「パルファン、私とても不愉快です。」
膝を折った皇王を冷ややかに見下ろすニュクスお母様。
「私の愛し子をどうすると言いましたか?お前は、私の愛し子に地下牢で何を反省させると?」
「っっ、お、お許しを!」
「ならぬ!お前達が勇者への物言いが不敬と断罪するのであれば、私の愛し子への対応こそ裁かれるべきではないのか!?」
怒り心頭のニュクスお母様。
強い神気が、ニュクスお母様の身体から放たれる。
空から落ちる雷鳴。
「ーーーのう、そうであろう、今世の勇者、相馬凪よ。」
あの男を、ニュクスお母様が見据えた。
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