第345話 神敵
何度も空から落ちる雷鳴。
ニュクスお母様の怒りの大きさが窺い知れる。
「お、俺、は、」
恐怖に身体を震わせる相馬凪。
自分の味方を探さんと、視線が彷徨い続ける。
まぁ、貴方の見方はいないけどね。
「我が問いにも答えられぬか、愚かな。あぁ、愚か者は、もう1人いたな。」
ニュクスお母様の視線が皇王へと向く。
「のう、パルファン、我が愛し子が誰に不敬だと?勇者は確かに魔族を倒す存在だが、私の愛し子が辱められる謂れは無い!」
皇王を問い詰め、詰問するニュクスお母様。
強い神気に、誰もが身体を震わせる。
「っっ、し、知らなかったのです、ニュクス様!ディアレンシア・ソウル、様が、ニュクス様の愛し子だとは!」
「ほう?では、私の愛し子への捕縛の命は取り下げる、と?」
「は、はい、もちろんでございます!ニュクス様の愛し子様を、どうして捕縛できましょう!」
何度も上下に首を振る皇王。
だらだらと汗を流して、必死の形相である。
「ふふ、皇王様?私からも1つ、皇王様に尋ねてもよろしいでしょうか?」
皇王の元へ一歩、私は近く。
「な、何でしょうか、愛し子様?」
「先ほど、皇王様は申されましたでしょう?ニュクス様が選ばれた者を愚弄する事は決して見逃せいのですよね?」
にんまりと微笑む。
「なら、ニュクスお母様の愛し子である私への勇者様の物言いへの処罰は、一体どうなるのでしょうか?きちんと裁いてくれるのですよね?」
おっとりと首を傾げる。
「まさか、ニュクスお母様の愛し子である私は捕縛しようとしたのに、勇者様にはされないなんて事なさいませんでしょう?」
「!?」
ぴしりと固まる皇王。
あまりの事に、何の言葉も出ないようだ。
「うふふ、皇王様どうしました?私の時は、すぐに捕縛の命を出されたではないですか。」
「・・うっ、あ、」
あちこち彷徨う、皇王の目。
さっきからその身体から冷や汗が止まらない。
「もしかして、皇王様は勇者様の方が愛し子である私よりも大切だとお考えで?」
「っっ、まさか!?」
「では、勇者様への処罰、してくれるのですね?そうでなくては、どんな言いがかりを勇者様からされるか不安で、ニュクスお母様に泣きついてしまいそうなのですが。」
「・・はい、致します。」
がっくりと肩を落とし、皇王が項垂れて首肯する。
皇王が私に屈伏した瞬間だった。
「ありがとうございます、皇王様。英断に感謝しますわ。」
感謝である。
ニュクスお母様の威光は絶大です。
「ーーー・・さて、勇者様?ご自分が裁かれるお気持ちはいかがですか?」
満面の笑みを相馬凪へと向ける。
「っっ、お、俺は、裁かれるような事は何もしていないだろ!?」
「・・何もしていない?」
細まる私の瞳。
「これを聞いても、ご自分は何もしていないと言えますか?」
相馬凪の方へ差し出す髪飾り。
魔力を髪飾りへ流す。
『光栄に思え!お前の事を、この世界の勇者である俺の女にしてやるよ!』
髪飾りから聞こえ出す、相馬凪の声。
「なっ、これは!?」
「うふふ、これは記憶の髪飾りと言う魔道具ですの。ほら、あの時のやり取りが全て記録されて、再生されているでしょう?」
慌て出す相馬凪に笑いが止まらない。
どう?
追い詰められる気分は?
『お前、勇者の俺に逆らうつもりか!?』
相馬凪の悪事が暴かれていく。
敬虔な信者達から、相馬凪へと厳しい目が向けられる。
「で、勇者様?これで勇者様はご自分の罪を認めてくださいますよね?」
「っっ、」
「勇者に楯突いた私が神敵であると言うなら、ニュクスお母様の愛し子に対しての発言、どう償うおつもりですか?」
じっくりと、相馬凪を追い詰めていく。
こうしてニュクスお母様の威光を笠に着るのは本当に申し訳ないが、相馬凪を追い詰める為。
使えるものは利用させてもらいます。
「あらあら、冗談じゃないわ。私の愛おしいディアちゃんを、あんな男の元へなんて嫁にしなくてよ?」
ニュクスお母様もノリノリだしね?
今回のこの登場もニュクスお母様から言い出した事だし、有り難く使わせてもら事にする。
「っっ、ニュクス様、俺は貴方が選んだ勇者なのですよ!?俺が断罪されれば、魔族討伐はどうなります!?」
足掻く相馬凪。
ニュクスお母様へと迫る。
「良いのですか?勇者である俺以外、この世界を魔族の脅威から救えないのでしょう!?」
「お前を勇者と呼ぶ事さえ烏滸がましい。」
不快げに、ニュクスお母様が相馬凪へと吐き捨てた。
「例え勇者の資質を持った者でも、その強き力に溺れた人間に世界を救えると思うてか!?勇者と言う名の甘い誘惑に負けたお前に、世界を救う資格などないわ!」
神気が渦巻き、相馬凪の身体が弾け飛ぶ。
地面に叩きつけられた相馬凪の身体は、みっともなく転がっていった。
・・・ざぁま。
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