第312話 閑話:サフィアの恋、そして増悪(後編)

サフィアside



私の事だけを見てほしい。

愛して欲しいと思う事は可笑しいの?



「・・俺、は、アディライトの事を幼馴染としか思ってない。全部、サフィアの誤解だ。」

「っっ、嘘つき!」



まだ本音を言わないトムの頬を引っ叩く。

ずるいと思う。

本心を隠し、私を見てくれない貴方は。



「最低、いつまで私に嘘をつき続けるの!?いい加減、認めたら!!?」



涙が滲む。

いつまで、私は2番目なの?

アディライトの影に怯え、トムを奪われる恐怖を感じ続けるんだろうか?



「・・つまらない?」



毎日が不安で堪らないのに、私の気持ちはつまらない事だとアディライトは言う。

ふざけるな。



「っっ、私達のやり取りがつまらないですって!?アディライト、全ての元凶であるあんたが、そんなこと言うな!!」



原因は、あんたなのよ?

激情に駆られアディライトに掴みかかるが、あっさりと躱されてしまう。



「サフィア、危ないですよ?暴力なんて止めてくださいませんか?」

「っっ、この!!」



何度も繰り返すが、同じ。

アディライトに全て躱されてしまう。



「ねぇ、そこのアディライトのご主人様?ちゃんと自分の奴隷の管理ぐらいしてよね!」



悔しくて。

八つ当たりの様に、アディライトの主人へと怒りの矛先を向けた。



「しっかりと奴隷の管理しないから、人の婚約者に色目を使う様になるのよ!本当、奴隷の管理もできない、どうしようもない主人ね!」



これが地雷だったと知る。

身をもって。



「・・サフィア、貴方は今、なんと言いました?」



無表情になるアディライト。

あら?

怒ったのかしら?



「は?もしかして、アディライト、耳まで遠くなったの?」



口元が歪む。



「あんたのご主人様は、自分の奴隷も満足に管理も出来ないダメ人間だって言ったのよ!今度は聞こえたかしら?」

「・・そう、やはり、そう貴方は言ったのね。」



ぽつりと、アディライトは呟いた。

え?

ふらりと動いたアディライトが、いつの間に私に迫り、その手が伸びるのを唖然と見つめる。



「あっ、ぐう、」



な、何?

急に苦しくなり首元。

絞められてる?



「私の主人を貶める人間は必要ありません。サフィア、私と主人の前から消えてください。」

「っ、あぁ、くっ、」



アディライトの力で宙に持ち上がる私の身体。

息苦しさに私は呻くしかない。

このまま死ぬの?



「ーーー・・アディライト、止めなさい。」



薄れそうな意識の中、声が聞こえた。

緩む手の力。

私の身体は地面に崩れ落ちる。



「かは、ゲホ、あぅ、」



苦しい。

何度も咳き込み、息を吸い込む。

そんな私の背中をトムが撫でるが、立ち上がる事も出来ず地面に横たわったまま咳き込み続ける。



「ーーー大丈夫ですか、サフィアさん?」

「っっ、これが大丈夫に見える!?あんたの奴隷のアディライトに首を絞められて、私は殺されかけたのよ!?」



力を振り絞り起き上がった私は、アディライトの主人を睨み付けた。

許さない。

アディライトの事を訴えてやる。



「申し訳ありませんでした、サフィアさん。私のアディライトはとても過保護で、暴言や敵対行動を許さないんですの。」



笑う女に苦い気持ちになる私。

確かに、先に暴言を吐きアディライトへ掴みかかり暴力を振るいそうになったのは私だ。

でも、私は殺されかけたのよ?



「私も夫がおりますから、サフィアさんの気持ちが分かりますの。自分のお相手が素敵な方だと、不安になりますよね?」

「・・夫?」

「えぇ、こちらの2人が私の夫ですの。」



私の気持ちが分かると言う女は、隣の男達を自分の夫だと紹介した。



「ふふ、私の夫も素敵でしょう?」

「・・そう、ね、とても素敵だわ。」



アディライトにばかり気を取られて良く見ていたかったが、極上の男。

トムよりも上の存在に目を奪われる。



「あら、釘付けになるくらい私の夫を素敵だと思ってくださって、ありがとうございます。」

「っっ、~~」



はっと、指摘され羞恥に顔が赤く染まる。

私の1番はトムなの。

他の男など、関係ないと目を逸らす。



「サフィアさんの不安なお気持ちも分かりますし、どうでしょう?お互いに今日あったことは見ずに流し、忘れると言う事で?」



女の提案に耳を傾ける。



「サフィアさんも大事にはしたくないのでは?街の方が言ってましたが、今年の舞手に選ばれたのですよね?」



言われる提案は全て事実で、今年の舞手に選ばれた私は街中の人から注目されていて、この様な事が知れ渡れば失望されてしまう。

手を握り締める。



「・・確かに問題を大きくしたくはないわ。でも、アディライトのした事を許せと言うの?」

「サフィア、これ以上はよそう?こんな揉め事が街中の人に知れ渡れば、君の舞手としての悪評となるんじゃないか?」



私の悪評。

トムの言葉に、私の心が揺らいだ。



「サフィアさんも、アディライトの事を許して下さるかしら?」

「え?えぇ、良い、わ。」



不服でも、今の地位が大事。

トムの婚約者の地位も、今年の舞手に選ばれた栄光も手放せない。

アディライトの事を許す事にした。



「そうね、お互い、満足の相手なのでしょうから。アディライトは、もっと素敵なお相手が相応しいもの。」



なのに何なの?

私は馬鹿にされてるんだけど?



「この私を、こんなにもコケにして!絶対にあんたの事を許さない!」



再熱する怒り。

やはり許さない事に決めた。



「ふふ、そうよ!奴隷の罪は主人であるあんたが償うべきよね?」


あんたは殺人未遂で捕まって、反省しなさい?



『サフィアさんも、アディライトの事を許して下さるかしら?』

『え?えぇ、良い、わ。』



しかし、私の企みは潰えてしまう事になる。

女の魔道具によって。



「トムさん、早くサフィアさんの事を家で休ませてあげたらいかがですか?」



私の事を嘲笑う女に背を向け走り出す。

絶対に許さない。

後悔させてやるんだから。

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