第313話 嵐の訪れ
人は面白い話が好きだ。
それが他人の醜聞なら尚の事、食いつく。
「どうやら、あの日からサフィアは自分の部屋に引きこもっている様ですよ。」
とは、リリスから
あれからも、リリスはサフィアの情報を集めれくれている。
「あら、そうなの?」
「サフィアの理不尽に他者をなじる姿が周囲から非難されている様です。今年の舞手として相応しくないとの声も上がっていますね。」
「あらあら、まぁ、」
良い具合に、サフィアは周囲の人達から非難されている様だ。
上機嫌に笑う。
「それと、アディライトの事も街中で話題になっております。」
「ふふ、『厄災の魔女』が街に帰って来たって?」
「はい、その様な内容です。またアディライトによって厄災が街中に広がるのではないかと不安視しているようですね。」
頷くリリス。
「アディライトの存在は、昔からこの街に住んでいる人達にとっては恐怖の対象でしょうから、仕方ないわ。」
溜め息を吐く。
今はアディライトの他者へ厄災を振り撒くスキルは発動しない。
私が幸運を呼ぶスキルへと変えてしまったから。
「ディア様、それとーーー」
リリスからもたらされた情報に私は目を見開いた。
「それ、本当?」
「はい、間違いありません。」
「ふーん?」
私の口元が釣り上がる。
「ふふ、使えるね、私の計画に、それ。」
新しく計画を練り直す。
喜べ、サフィア。
貴方への新しい制裁計画が加わりそうよ?
「ふふ、後は種が芽吹く時をゆっくりと待ちましょうか。」
その日から、街に大粒の雨が降り始める。
嵐の前触れ。
街の中に広がる、『厄災の魔女』に対する憤りが膨らみ始めていった。
「・・ねぇ、聞いた?」
「もしかして、あの不吉な話の事?」
噂が拡散される。
街中の人の口を介して。
「・・なあ、これって、まさか。」
「あぁ、呪いかもな。」
不安。
晴れ間の無い恐怖。
ルドボレーク国に住む人達の中に、噂は広がっていく。
「祟りよ。」
「海竜祭は、一体、どうなるの?」
不安。
言い知れぬ、恐怖心。
「ーーーっっ、この街に『厄災の魔女』がいるから、海竜様がお怒りなのよ!」
上がる疑惑。
疑いは、次第に怒りへ。
『厄災の魔女』への憎しみへと変わっていく。
「ーーーっっ、あの魔女を、街から追い出せ!」
「この街を守るんだ!」
恐怖心が、街中の人達の心を曇らせてしまう。
「『厄災の魔女』を許すな!」
「この街を『厄災の魔女』の手から守れ!」
街を守る。
その一心で、誰もが武器を手に取った。
「これは、街を守る為にやらねばならない事なんだ。」
「全部、あの子が悪いのよ。」
自分は悪くない。
悪いのは、全て誰かのせいなのだから。
蓋をする。
自分達が見たくないものに。
「街に災いを呼ぶ『厄災の魔女』に大いなる鉄槌を!」
「正義の為に!」
「我らの平和を取り戻す為に立ち上がろう!」
「「「おぁぁぁぁ!!!」」」
正義とは何か。
誰が正義で、悪だった?
誰も分からずに、また1人と、その手に武器を持つ。
『厄災の魔女』を討つべく動き出した。
「ーーー・・ディア様。」
「ふふ、アディライト、不安?」
宿の窓を雨が打ち付ける。
この街の海も荒れ狂い、漁にも出られないぐらいだと聞く。
「いいえ、私の事などご心配なく。それよりも、私はディア様の身に何か良くない事が起こらないか不安なのです。」
縋るような眼差しを向けられる。
「ーー・・ディア様、この街に留まるのは、やはり危険では?」
降り止まぬ雨。
窓越しに眺め、アディライトに微笑む。
「あら、アディライトは、私の楽しみを奪うの?」
「ですがっっ!」
「アディライト、私のお願い、よ。」
知っている。
アディライト達が、私のお願いを断れない事を。
「ディア様・・。」
困った様に、アディライトが眉を下げる。
途方に暮れた様な表情だった。
「この街にいては危険なのですよ?お分かりですか?」
「うん、分ってる。」
この街の人達の本当の本性が、ね。
「そうさせたのは、私。この街の醜い本性を炙り出させたの。」
この街の人達は簡単に動き出してくれた。
私が望む通りの方へと。
「これは、私の私怨だよ。だから、アディライトは悪くない。」
気に病む事はないの。
だって、これは私の復讐なのだから。
「私にも見せて?『厄災の魔女』が伝承の乙女となり、この街を救う救世主となる所を。」
アディライトに近付き、抱き付く。
「私の可愛いアディライト。いつまでも、貴方の事を『厄災の魔女』なんて私が呼ばせないわ。」
その為に、もう事は動き出した。
「それに、私のことなら平気よ、アディライト。ここには貴方とフィリアとフィリオの3人がいるのよ?」
#この場に誰が踏み込んでこようとも__・__#、私を害せる者はいない。
「っっ、ですが、」
「ふふ、不安なの?」
目の前のアディライトの瞳が揺らぐ。
「・・私は、『厄災の魔女』ですから。この街の人にとって、忌まわしい存在でしょう。」
「だから?」
どうして、私以外の人間を気にするのか。
アディライトの頬に手を滑らせる。
「私の事だけを考えなさい、アディライト。粗末な存在は、私が直ぐに片付けてあげるから。」
うっそりと笑う。
階下から聞こえる怒号と足音を聞いて。
「安心して、アディライト。最後の勝利に笑うのは、この私だから。」
計画は進む。
1人の少女の想い描いたシナリオ通りに。
「ーーー貴方が、海竜を暴れさせた張本人ですか?」
「我が主人の為に、大人しくしてもらいます。」
時は来た。
私が蒔いた種が芽吹く時が。
「ディア様の為に、貴方の計画は潰させてもらいます。」
「悪く思わないでくださいね?」
私の計画が進む中、コクヨウとディオンの2人がひっそりと暗躍していた。
この街の住人の誰も、真実を知らない。
ーーー今日は遠い昔、あの伝承の乙女が海竜の為に舞った日。
「サフィア、海竜様の為に舞ってくれ!」
「お願いだ、海竜の乙女!」
「この嵐を、舞で吹き飛ばしてちょうだい!」
伝承は繰り返される。
住人は願う。
どうか、海竜よ、この舞で心を鎮めてくれと。
「ーーー・・これで、海竜様のお心が鎮まると良いのだが。」
人々の不安の中、サフィアは舞った。
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