第305話 親友との対峙
アディライが否定しても、サフィアの態度は軟化しない。
険しい表情のまま。
「あんたが、私のトムに昔から色目を使うからよ!」
「さっきから、それが意味が分からないって私は言っているのよ、サフィア。私がいつ、トムに色目を使ったって言うの?」
「は?あんたがこの街に暮らしていた時から、トムに色目を使っていたでしょう!?」
「話す事も稀だったのに?」
「・・・。」
サフィアが口を噤む。
「ねぇ、サフィア、確かに、あの頃のトムは何かと私の事を気にしてくれたけど、それだけよ?それとも、私達が2人で会って何かしている所を、サフィアは見た事でもあるの?」
「・・・。」
「ないでしょう?」
アディライトは溜め息を吐く。
「サフィア、この際だからはっきり言うけど、昔はトムにたくさん親切にしてもらって感謝はしているけど、私が彼に好意を向けた事は一度もないわ。」
きっぱり、アディライトが言い切る。
あっ、アディライトには見えていないが、またトムが泣きそうになってる。
アディライトの否定に軽くダメージが入った模様。
「しかも、トムにだって、私は好意を向けられた事だって一度もないわよ?」
トムにアディライトの視線が向く。
「その証拠に、告白なんてされなかったもの。ね、トム?」
「・・うん、ソウダネ。」
棒読みで頷くトムの目が輝きをなくす。
あらら、ご愁傷様。
ちゃんと隣に愛しの婚約者がいるんだから、トムよ元気出せ?
「てか、アディライトって鈍感だったんだ?」
以外。
あんなにも、アディライトを気にしている素振りを隠せていないと言うのに、トムの好意に全く気付いていないんだから。
「しっかり告白しない方が悪いですよ。」
「あの頃のアディライトは、自分のスキルのせいで大変だったでしょうし、好意を感じている余裕もなかったのでは?」
とは、コクヨウのディオンの2人。
確かに、あの頃のアディライトに精神的余裕はなかっただろう。
「分かってくれたかしら、サフィア?」
「・・・。」
「分かってくれたなら、もういいかしら?サフィア、貴方の変な言いがかりで私だけではなく、主人であるディア様にもご迷惑がかかったのよ?」
アディライトの瞳に、苛立ちが宿る。
相当、私に迷惑をかけたことにご立腹の様子。
「・・ご主人?」
怪訝そうなサフィアの方へ、私は一歩前へ出た。
「サフィアさん、アディライトの主人、ディアレンシア・ソウルと申します。」
ずっと、いたんだよ?
トムとアディライトの2人の姿しか、貴方の目には入っていなかったみたいだけどね。
どれだけ、アディライトの事が好きなのよ、サフィアさん?
「よろしくお願いしますね?」
にこりと微笑む。
「・・主人って、アディライト、奉公に出たの?」
「いいえ、私は奴隷としてディア様にお支えしているのよ。」
「は・・?」
ゆっくりと、驚きにサフィアの目が見開かれた。
私とアディライトと、行ったり来たりと忙しなく動くサフィアの視線。
困惑の表情を浮かべている。
「・・奴隷?アディライト、あんたが?」
「そうよ。」
「ふふ、ははは!!」
頷いたアディライトにサフィアが哄笑を上げる。
「さすがは、『厄災の魔女』ね!奴隷なんて、アディライト、あんたにぴったりじゃないの!」
その口元が性悪に歪んだ。
「サフィア!」
アディライトの事を嘲るサフィアを、トムが厳しい声で咎める。
トムの声に跳ねるサフィアの肩。
「・・っっ、何よ、だって本当の事でしょう?なのに、何でトムは昔から、そうやってアディライトの事を庇うの!?」
「だって、アディライトは俺達の幼馴染みたいなもんだろ?庇うのは当然じゃないか。」
「婚約者の私よりもアディライトの事を庇うの?本当なら、トムはアディライトではなく婚約者である私の事を庇うのが本当じゃないの?」
「そうかもしれないけど、アディライトに何もそんな風に言う事はないだろ?親友だったじゃないか。」
「親友?ふふ、私が誰と?」
「サフィア?」
「トムって本当、何も分かってないよね?私の事なんか、ちっとも見てくれてないもの。」
サフィアの目が尖る。
「何故かアディライトだけには優しいのよ、トムは。昔からそう、トムはアディライトにだけ優しかった!」
「・・気のせいだよ。」
「嘘!!トムは、アディライトに気があるんでしょ!?」
吠えるサフィア。
私達の事は放置のようだ。
「ねぇ、私達、もうすぐ結婚するんだよ?アディライトなんて忘れて私の事だけ見てよ!」
「だから、誤解だって言ってるだろ!?」
「誤魔化さないでよ、トム!ずっと、トムの事だけ見てたんだよ?」
サフィアの目に涙が滲む。
「っっ、分るよ、ずっと見てたトムが誰を好きなのか。」
悲痛な声を上げた。
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