第304話 歪な三角関係

今年の海竜祭の舞い手に選ばれたサフィアの存在は、注目の的。

自然と周囲の視線を集めてしまう。

サフィアの醜態に、ひそひそと交わされ始める周囲の会話。



「あらあら、良いのかしらね?」



サフィアは、今年の海竜祭の舞い手に選ばれたと言うのに。

これ、醜聞じゃないの?



「まぁ、その方が私的には有難い事なんだけどね。」



周囲へ痴態を見せれば、その分だけ周囲のサフィアへの株が勝手に下がっていく。

舞い手も降ろされるかもね?



「アディライト、彼女もまだ貴方に言いたい事がありそうだし、取り敢えず場所を変えたらどうかしら?」



提案する。

優しさではなく、サフィアを逃さないためです。

私はこのまま街中でも良いけど、サフィアが本音を表さないかも知れないしね?



「しかし、」

「彼女、何かアディライトに誤解があるみたいだし、ややこしくなる前に話し合った方がいいと思うの。」

「・・そう、ですね。ディア様のご迷惑になりそうですので、サフィアの変な言いがかりも止めていただきたいですし。」



迷惑顔のアディライト。

少し間を置き、私の提案に了承する。



「少しサフィアと話してきます。その間、ディア様のお側を離れてもよろしいですか?」

「ダメ!アディライト、私の側から離れないで!」



アディライトの腕に、私はしがみ付く。

目尻を下げるアディライト。



「ですが、ディア様、御身の安全の為に一緒に行かない方が良いと思います。このままコクヨウ達と街の散策の続きへ向かられてはどうですか?」

「アディライトの側じゃないと、どこにも行かない!」



そっぽを向く。

街の散策より、こちらの方が優先である。

・・ちょっとばかり、残りの食べ歩きが名残惜しいけれども。



「ディア様・・・。」

「私は、アディライトの邪魔なの?」

「そんな訳、ありません!」



顔色を変え、アディライトが首を振って否定する。

しめしめ。



「なら、このまま私もアディライト達と一緒に行かせて?良いでしょう?」

「・・・。」

「怖いの、アディライト。お願い、私の側にいて?」



瞳を潤ませる。



「うっ、分かりました、ディア様。場所を変える為に、少しご足労いただいてもよろしいでしょうか?」

「もちろん!」



私の許可を求めるアディライトに満面の笑みで頷く。

付いて行きますとも。

何処へでも。



「サフィア、何か誤解がある様だから、場所を変えてはっきりさせましょう。その方が貴方も良いんじゃない?」



トムと言い合うサフィアへアディライトは向き合う。



「っっ、良いわ、望むところよ!」

「おい、サフィア!」

「少しトムは黙ってて!これは、私とアディライトの問題なの!」



婚約者のトムにまで噛み付くサフィア。

おい、良いのかい?

自分の婚約者に対して、その態度で。

しかも、2人の問題ではなく、トムがこれから先する話の重要な中心人物だと思うんだけど?



「サフィア、頼むからアディライトに変な言いがかりは止めろって!」

「っっ、何よ、本当の事じゃない!邪魔しないで!」



その後もトムとサフィアの押し問答が何度か繰り返される。

諦めた様に、最後にはトムが溜め息を吐いた。



「アディライト、なんか、サフィアの奴がごめんな?」

「いえ、お気になさらず。」



申し訳なさそうな表情で謝罪するトムに素っ気なく対応するアディライト。

トムの方を一切見る事もない。



「・・そ、そっか、はは、そう、だよな。」



あ、トムが泣きそう。

そんなトムの様子にも全く気付かず、アディライトは人通りの少ない方の道へと進む。



「ふむ、」



やはり、トムはアディライトに気がある様子。

もしや、サフィアのアディライトへの刺々しい態度は、トムの気持ちを知っているからなのかしら?

だから、サフィアはあんなにもアディライトの事を敵視している?



「あら、やだ、本当に面白くなってきた。」



ニヤケが止まらない。

私の期待以上の食いつきの良さよ、サフィア。

貴方、有能ね!

心の内で、サフィアを大絶賛。



「ディア様、少しは表情を取り繕って下さい。」

「あら、ディオン、失礼。」



こっそり小声でディオンに指摘され、私は慌てて緩んでいた表情を引き締める。

危ない、油断大敵。

まだ、サフィアに悟られてはいけない。

私が、アディライトから彼女の名前を聞いた日から、こうして会う事を心待ちにしていた事を。



「ーーーで、何でサフィアは怒っているの?」



アディライトが街から少し離れた小川の側で立ち止まり、サフィア達の方へ振り向く。



「私には貴方が言う事に全く心当たりがないのだけど?トムに色目って、サフィア、一体、どう言う事?」



本当に不思議そうなアディライトの表情。

全く身に覚えがなさそうだ。

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