第265話 物件の候補

私のリリスは本当に優秀だった。



「ーーーこちらが、ディア様にお勧めします物件でございます。」



差し出される、物件の情報。



「どの物件も、ディア様の要望に沿うかと。その中で特にオススメ物件なのが、3件ございます。」



その紙には、リリスが言う通り私の希望した数件の物件がピックアップされていた。

数件の物件の中で、リリスが特にオススメとしているのは3つ。

うん、どれも良い。



「さすが、リリスは仕事が早いわね。どれも私の希望通りだわ。」

「お褒めのお言葉、ありがとうございます。」



私からの称賛に誇らしげなリリスから、書類に視線を落とす。

良く1日もかからず、これだけの情報を集めたものだ。



「ディア様のご要望通り、全てゲスナンの工房から離れており、人通りの少ない場所の物件を集めてまいりました。」

「うーん、どれも良い物件ばかりで目移りするわ。特にオススメの3件の物件は文句無しで甲乙付け難いもの。」



リリスが用意した物件だけの事はある。

全てが、私の希望の物件だ。



「これは、直接、この物件を見たいわね。大切な工房になるんだもの。」



私の側に控えるアディライトへ目を向ける。



「アディライト、先に、このリリスのオススメ3件分の物件を見られるよう手配してくれる?」



特にリリスがオススメだと言う3件の物件の紙をアディライトに手渡す。

さすがに、リリスが人前に出る訳にいかないから。



「かしこまりました、ディア様」



私が差し出した物件の紙に目を通したアディライトは、その紙を手に一礼して部屋から出て行く。

アディライトを見送り、視線をディオンへ向ける。



「ディオンは、ルミアをこちらの部屋へ連れて来てくれるかな?」

「承知しました。」



頷いたディオンも部屋から出て行く。



「ディア様、ルミア以外の者達はいかがなさるのですか?」



疑問を投げかけるのは、コクヨウ。



「危ないから、ルミアとルルキ以外は、先に転移でルーベルンの屋敷に送るわ。」



人出は欲しいが、まだレベルが低すぎる。

何かしらのアクシデントで、あの子達が怪我をする可能性はなんとしても回避しなくては。



「あの子達の事は、ロッテマリーとルルーシェルに任せましょう。リリスはロッテマリー達に連絡をとってくれるかしら?」

「はい、お任せください、ディアさま。」



リリスが笑顔で請け負ってくれる。

ロッテマリーとルルーシェルの2人なら、あの子達をきちんと鍛えてくれるだろう。

コウヨウ達と話していれば、ディオンが戻って来る。

その背後には、ルミアの姿も。



「私をお呼びでしょうか、ディア様。」



首を傾げるルミアに微笑む。



「私達の工房になる物件の候補が何軒か見つかったの。」

「えっ、もう、ですか?」

「ふふ、私には、優秀な子が付いているの。そう昨日も言ったでしょう?」

「・・はぁ、あの言葉は本当だったんですね。」



曖昧に頷くルミア。

ルミアには早い内にリリスの存在を知らせるとしよう。

今は物件選びが先だ。



「この物件の中から選ぼうと思うの。ルミアの意見も聞かせてくれる?」

「拝見いたします。」



私からルミアがリリスが予備で用意した物件の紙を受け取る。



「・・・あの、ディア様。」

「何?」

「この工房は、一体、何人の鍛治師が使うのでしょうか?」

「うん?今の所、私達と、ルミアとルルキだけよ?」

「っっ、でしたら、どの物件も大きすぎます!」



悲鳴を上げるルミア。



「うーん、でも、将来的にルミアが工房を発展させるかも知れないじゃない?」



必要な広さだと思う。



「しかも、この中の物件全てが白金貨のお値段なんですが!?」

「あぁ、うん、お金の事は何も気にしなくて大丈夫。ちゃんと、どの物件でも支払えるぐらい貯えはあるから。」



迷宮攻略と、色んな商品のアイディアで稼いだお金が貯まってるんだよね。

こんなに稼げるなら、冒険者になる人達が減らない訳だよ。



「・・はぁ、もう何を聞いても驚きません。」



ルミアが疲れたように呟く。



「うーん、きっと、また驚く事になると思うよ?」



主に従魔であるリリス達の事とか?

私の力の事とかね。



「・・・・ディア様、不吉な事を言わないで下さい!」



身体を震わせるルミア。

若干、顔も引き攣っている。



「ふふ、とても刺激的で楽しいでしょう?」

「私の心臓が持ちませんよ。」



小さく溜め息をルミアが吐き出す。



「でも、嫌な事ばかり考えなくて済むので、それはそれで良かったのかも知れません。」

「ふふ、なら、良かった。」



ルミアに微笑む。

笑える毎日があれば幸せだ。

きっと、これから先、何があっても。

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