第264話 閑話:教訓

アディライトside



富裕層向けだけの事はある宿の部屋で休み、明けてモルベルト国の2日目。

疲れもなく、ディア様も元気満タン。

ならーー



「ふふ、街の散策♪」



ーーである。

ご機嫌で、ディア様は鼻歌を歌う。



「わぁ、あれなんだろう?」



好奇心旺盛。

そして、無邪気で天真爛漫。



「綺麗。」



ほぅ、と、吐息を吐くディア様の方がお綺麗ですと、声を大きくして言いたい。

が、そこはディア様。



「ねぇ、アディライト、皆んなのお土産に何を買って行こうか?」



集まる視線も、何のその。

全く、集まる、その視線の意味をディア様は理解していない。



「っっ、~~~!」



あ、ほら。

輝かんばかりに満面のディア様の笑顔に、真っ赤になる人達があちこちに続出。

この方は、罪な人である。



「ーーチッ、」

「・・不快、ですね。」



その度に、コクヨウとディオンの機嫌が急降下。

黒いオーラを周囲の人間、ディア様に見惚れる者達へと振りまく。



「はぁ、」



私は溜め息を吐き出すしかない。

分かるよ?

大切なディア様を、不埒な目で見られて不快になる気持ちは。



「・・?どうしたの、コクヨウ、ディオン?」



あぁ、ほら。

そんな貴方達を、ディア様が不思議がっているではないか。

もう少し上手く隠しなさいな。



「ディア様、コクヨウとディオンの事は、お気にせず。このまま、散策を続けましょう。」

「え?でも、」



チラチラと、2人に目を向けるディア様。

う、可愛らしい。



「っっ、ではなくて、ディア様。」

「うん?」

「どうやら、2人は人混みで疲れてしまったようなのです。」

「!?えっ、そうなの!?」



ディア様が驚く。

・・疑う事を知らないディア様の純真さが辛い。

私達の事を完全に信頼しているディア様。

それは嬉しいし、光栄な事だけれど、あまりに素直に信じられると罪の意識で胸が痛いのです。



「えぇ、ですので、どこかお店に入って休みませんか?」

「そうなら、早く言ってくれば良かったのに。私も丁度、喉も渇いたし、小休憩しよう。」



唇を尖らせたディア様は、きょろきょろとお店を探す為に視線を走らせる。

その必死に癒される。



「ディア様、喉を潤すのでしたら、この先に美味しいお茶を出すお店が御座います。」

「本当に!?」



ぱっと、輝くディア様の顔。

うん、可愛い。



「コクヨウ、ディオン、歩き疲れたでしょう?ゆっくり休もうね?」



自分の容姿の良さに鈍感で、私達の言う事を疑う事を知らないディア様は、今だって、2人の機嫌の悪さを、疲れからだと信じきっている。



「嫉妬と知っても、喜ばれそうだけど。」



愛情に飢えたディア様。

2人からの嫉妬なら、歓喜する事だろう。



「ディア様の喜ぶ顔、見たい!」



心底、見たいよ?

が、そんなディア様の麗しの表情を周囲の者達に見せたくなどない。

私の独占欲。

コクヨウとディオン同様、私だってディア様を敬愛しているのだから。



「そうですね、そうしましょう!」

「ディア様もお疲れですよね?さぁ、参りましょう、ディア様。」



私に同意見だろう2人。

ここぞとばかりに私の提案に賛同するように、ディア様をエスコートし出す。

その際に周囲に見せつけるようにディア様の手を握るのは、さすがとしか言いようがない。



「う、うん?そうだね?」



コクヨウとディオンにエスコートされ、不思議そうながらディア様が頷く。

・・チョロすぎです、ディア様。



「まぁ、そんなディア様の事は全力で私達がお守りいたしますわ。」



愛おしい人。

不埒な者達に指一本だって、触れさせません!



「お待たせいたしました。」

「わぁ、美味しそう。」

「っっ、」



注文した甘味に目を輝かせディア様。

運んで来た店員は、そんなディア様に顔を真っ赤に染める。



「「・・・。」」



そうなれば、当然コクヨウとディオンの2人が不機嫌になる訳で。



「ディア様、こちらのも美味しいですよ?」

「ふふ、私のも一口どうですか?」

「っっ、う、うん、いただきます。」



店員を牽制するように、コクヨウとディオンの2人の、ディア様への餌付けという名の見せつけを始めた。

照れながら、餌付けされるディア様。



「くっ、俺も、あんな美少女に食べさせてあげたいぜ!」

「う、羨ましい!」



コクヨウとディオンの、周囲への牽制は有効で。

ディア様に見惚れていた者達は、すごすごと引き下がるのだった。



「はぁ、」



教訓。

ディア様の可愛いらしさは、どこへ行っても変わらないようです。

周囲を魅了してしまうようだ。

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