第261話 ルミアの事情

しんと、静まり返る室内。

困ったような表情て、ハルマンさんは瞳に涙を滲ませるルミアを見つめている。



「ハルマンさん、ルミアは何か訳ありのようですね?」



何かしら、理由を知ってあるようだ。

涙を流すのを我慢するルミアをちらりと見たハルマンさんは、頷く。



「ーーお話しいたします。」



ルミアと、1人の男の子を残し、他の奴隷を下がらせたハルマンさんが口を開いた。



「ルミアと、その弟のルルキです。この2人は、ある男によって、父親を失い、借金奴隷として私の元へと来ました。」



ーーと。



「ある男によって、2人は借金を背負わされたと言う事ですか?」

「さようです。」



頷くハルマンさんに顔を顰める。



「最低、ですね。」



ふつふつと湧き上がる、嫌悪感。

ルミアの、この拒否反応も分かる気がする。



「ルミアの父親は、このモルベルト国で小さな工房を営んでおりました。」

「職人の方、だったんですね。」

「えぇ、彼には才能がありましたよ。しかし、金儲けには興味のない、職人気質のドワーフでしたね。」



小さく、ハルマンさんが笑う。

懐かしそうに。

そして、愛おしいそうな眼差しで。



「ルミア達のお父様を、ハルマンさんは良く知っているのですか?」

「良く、では、ありませんが、同じ商売人でしたし、たまに店でお酒を飲み交わす程度の付き合いでした。」



ルミア達へ向けるハルマンさんの眼差しは、とても優しい。



「ディアレンシア様は、クルーシェル工房をご存知でしょうか?」

「クルーシェル工房?」



首を傾げる。

・・あれ、その名前って確か。



「このモルベルト国で1番の工房の名前ではありませんか?」



だったはずだ。



「さようです。」



ハルマンさんが頷く。



「ハルマンさん、そのクルーシェル工房がなんの関係が?」

「クルーシェル工房の棟梁、ゲスナンがルミアとルルキの父親に借金を背負わせるた張本人なのです。」

「へぇ、」



クルーシェル工房の棟梁が、ねぇ。

眼を細める。



「なぜ、クルーシェル工房の棟梁がそんな事を?」

「嫉妬、でしょうか?」

「嫉妬?」

「ルミア達の父親は、多くの者に慕われていましたから。」

「その事に嫉妬したと?」

「はい。」



・・・呆れた。

工房の棟梁を任されるような者が、他人の人気を妬み、卑怯な手を使うなど。



「それと、どうやら、ゲスナンはルミアにご執心だったようで。」

「ルミアを?」

「その、ルミアの父親に何度も結婚の打診をしていたようなのですが、拒否られた事も理由だと思います。」



目を泳がせるハルマンさん。



「あんなおじさん、死んでもお断りよ!」



ルミアが吐き捨てる。

ふん?



「・・・ハルマンさん、ちなみに、ゲスナンの年齢は?」

「・・ルミアの父親よりは年上です。」

「種族は?」

「ルミア達と同じドワーフですね。」

「・・いつから、ルミアに好意を?」

「えっと、」

「私が12歳になった頃よ!」



口ごもるハルマンさんに、ルミアが涙を滲ませて叫ぶ。

じゅ、12歳!?



「あの男はいきなり、私に第二夫人になれって言ってきたのよ!?」

「っっ、キモい!」



思わず悲鳴を上げてしまう。

ハルマンさんが眼を泳がせた意味が、よく理解ができたよ。

私が父親でも、自分より年上の、しかもロリコン男に大事な娘を嫁にしたいとは思わない。

ルミアがゲスナンに好意を向けているなら話は別だけど、受け入れていない以上、断って当然である。



「ゲスナンって、幼女趣味!?」



ガチで引く。

第二夫人にって事は、ゲスナンに子供がいたら、下手したら、ルミアはその子よりも若い妻だよ!?

ドン引きなんだけど。



「・・権力者には、年の差婚は珍しくないとしても限度があるでしょ!?」



どう考えても、30歳以上の差があるじゃないか。

エルフや、ディオンのような長命な種族ならあり得るが、子供の頃から目を付けるって!?

恐れ慄く。



「・・振られた相手を奴隷にして買おうなど、最低です。」

「そんな男にディア様のお姿さえ見せたくありませんね。」

「えぇ、ディア様が汚れます。」



当然、アディライト、コクヨウ、ディオンの3人が毒を吐き。



「「害悪!」」



双子は、害悪認定である。

慈悲はない。

害悪でしかない変態ロリコンは滅ぶべし。



「「「ひっ!?」」」



そんな私達にハルマンさん、ルミア、ルルキの3人が悲鳴を上げる。

私達から漏れ出した殺気で怯えさせてしまったらしい。



「ルミア?」

「は、はひ、」

「えっと、ごめんなさい?」



怯える3人に謝罪をする。

顔を青ざめ、身体を震わせるルミアに微笑みかけた。



「ーーねぇ、私に買われない?」



ゲスナンの悪の手に、ルミアを渡せない。



「・・へ?」



ぱかりと、ルミアが口を開けて呆けた。

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