第260話 少女からの敵意
室内に落ちる沈黙。
ハルマンさんの笑みも陰る。
「・・失礼、ですが、ディアレンシア様にお聞きしてもよろしいですか?」
「何でしょう?」
「購入する奴隷は、その、囮としてお使いに?」
「まさか。」
大切な家族になる子達を、私が危険に晒す訳ないじゃないか。
「囮になどしません。私の家族として大切にしますわ。」
私の全てをかけて、何があっても守ってみせる。
ハルマンさんと見つめ合う。
「ーーそう、ですか、良く分かりました。」
見つめ合う事、数秒。
表情を緩ませたハルマンさん。
「提示していただいた条件で、ディアレンシア様にご紹介が出来る奴隷が数人おります。」
この場にお呼びしますと、ハルマンさんがテーブルの上に置かれた呼び鈴を鳴らす。
「お呼びでしょうか、ハルマン様。」
ノックの後、室内に入って来たのは男性店員。
「連れて来てほしい奴隷がいる。」
入って来た男性店員に数十名の名を告げていくハルマンさん。
「かしこまりました、すぐにお連れいたします。」
一礼して、出て行く男性店員。
「ディアレンシア様、すぐに奴隷達が来ますので、しばらくお待ち下さい。」
「えぇ、」
待つ間、出されていたお茶へ手を伸ばす。
折角だし、ね?
「ハルマン様、お連れいたしました。」
待つ事数分。
男性店員に連れられた数十名の男女の奴隷達が室内へ入って来る。
「あぁ、ご苦労様。」
ハルマンさんが男性店員へ労いの言葉を告げ、私へ視線を向けた。
「こちらの13名が、今回ディアレンシア様にご紹介したい奴隷達です。」
「「「っっ、」」」
奴隷達の顔に、緊張の色が走る。
ふむ、この子達、か。
じっと、種族も違う奴隷達へ視線を向けた。
「ふむ、」
緊張したままの、奴隷の子達。
さて、どうしたものか。
しかもーー
「・・敵意?」
に、これは近いものかしら?
この部屋へ入って来た時から、1人の女の子からハルマンさんに気付かれないように、こっそりと厳しい目を向けられている。
「なぜ?」
買われるのが、不服とか?
納得してない?
「ーー皆んな、止めなさい。」
とりあえず、今一番大事なのは、私の後ろで敵意を向ける女の子へ対して不穏な行動へ移しそうな皆んなを止める事だろう。
私の制止の声に、身じろぐ気配。
「威嚇するぐらい、可愛い悪戯でしょう?多めに見てあげなさいな。」
害はなのだから。
後ろに振り返り皆んなへ微笑む。
それぐらいの事は、気にするなと言うように。
「さて、」
皆んなの怒りを収め、向き合うのは、私を威嚇し続ける女の子。
「ふふ、どうしたものかしら?」
意味も分からず、敵意を向けられても、ね?
困ったものだ。
「ディアレンシア様?」
困惑の声を上げるハルマンさんに反応する事なく、女の子だけを見つめる。
交わる視線。
「ねぇ、貴方は私が嫌い?」
「っっ、」
私が首を傾げれば、女の子の目が見開く。
「あら、何を驚いているの?」
「・・・。」
「バレバレだよ?この部屋へ入って来てから、ハルマンさんにバレないようにしながら私に厳しい目を向けているよね?」
「っっ、」
ばつが悪そうに逸らされる目。
バレないと思ってた?
本当、甘いよ。
「さっきから、貴方は私に対して一体、何を怒っているの?」
「ルミア!?」
私の指摘に、ハルマンさんがそこで、女の子へ厳しい声を上げる。
「っっ、」
びくりと、ハルマンさんにルミアと呼ばれた女の子の肩が揺れた。
「ハルマンさん、彼女は私に買われるのが不満なのでしょうか?」
厳しい顔のハルマンさんへ視線を向ける。
私としとも理由が知りたい。
「・・いえ、ディアレンシアが、と言うより、自分を買おうとする者に警戒しているだけなのです。」
「警戒?」
怪訝に眉を顰める。
「実は、何回かルミアの購入を打診して来る方がおりまして。」
「打診を?」
「はい、何度もお断りしているのですが、諦めるご様子がなく。」
「・・私が、その購入を打診してる者の手下で、ルミアを買いにかも、と?」
「そう誤解したのかと。」
困った様な表情で、申し訳ありませんと、ハルマンさんが私へと頭を下げた。
「ふむ、」
気まずそうに目を泳がせるルミアを見つめる。
「ーールミア。」
「っっ、は、い。」
「そんなに、打診に来る人に買われたくないの?」
「あ、あんな男、死んでもお断りです!」
増悪の光が灯る、ルミアの瞳。
「あの男は、私の父の仇なんですから!」
吐き捨てるルミア。
ーーほう、仇、ねぇ?
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