第258話 盗賊達の処遇と、モルベルト国

女の敵は、許すべからず。



「なら、あの盗賊達の監視も、お許しいただけますよね?」

「もちろんよ。」



異論はない。

徹底的に監視するべきだ。



「ふっ、今すぐ全員を灰にしてやろうか。」



私の可愛い子達が?

あのゴミ屑達の慰み者になる?

・・撲滅あるのみ。



「ディア様、落ち着いてください。この件の全ての責任は盗賊達のボスに取らせます。」

「ボスに?」

「この場にいないのようなので、ボスはおそらくアジトにいるのかと。」

「・・へぇ?」



だから、監視をつける、と。



「でも、真っ直ぐアジトへ向かうかしら?」



警戒しない?

アスラとユエが監視してるって事を知っているんだし。



「ディア様、人間とは忘れる生き物です。」

「うん?」

「数日、恐怖心に駆られても、自分の身に何も起こらなければ安心する事でしょう。」

「ふふ、長期戦ね。」



本当の恐怖は、後からやって来るって訳だ。



「ーーリリス。」



自分の影へと、私は視線を落とす。



『はい、ディア様。』

「彼等の監視を徹底して。」



彼等を逃す?

今の私の中に、その二文字はない。



「アジトを見つけたら、ちゃんと私に教えてね?」

『かしこまりました、ディア様。このリリスに、万事お任せを。』



私の影がゆらりと揺らぐ。

どうやら、リリスが動き出したらしい。



「さて、盗賊の彼等を笑顔で見送りましょうか。」



再会を楽しみにしてるよ?

笑顔を貼り付け、盗賊達の元へ足を進めた。

ーーある盗賊団が一夜にして壊滅する事となるのは、もう少し先のお話である。



「ーー着いた。」



何だかんだあった旅の道中。

ついに、目的地であるモルベルト国へ到着です。



「とりあえず、泊まる場所を確保かな?」



宿無しは辛いもの。

今日からの拠点確保は急務案件。



「しかし、宿の空きはあるでしょうか?」



心配げなディオン。



「ふふふ、そんな事もあろうかと、リリスの配下に探らせておいたよ!」



胸を張る。

大会の近いモルベルト国。

宿が取れるか心配だったんだよね。



「って言っても、アディライトに指摘されたからなんだけどさ。」



本当、優秀な子です。



「ディア様、宿の空きはあったのですか?」

「コクヨウ、もちろん。」



コクヨウに頷く。



「富裕層向けの宿屋で宿泊費は高いけど、私達には関係ないし。」



お金の貯えはたくさんあるので。

うん、問題なし。



「でも、モルベルト国でも、自分達の拠点が欲しいよね?」



まぁ、この国が悪くなかった場合だけど。

拠点の購入も視野に入れよう。



「うー、街の散策は明日から、かな?」



うずうずする。

新しい街って、心が躍るよね?

視線が町中へ彷徨う。



「ディア様、今日は旅の疲れを癒しませんと。」



アディライトに窘められる。



「・・はーい。」



不満では、あるけれど。

我慢である。

仕方なく、街並みを横目に宿屋へ。



「いらっしゃいませ!」

「泊まりたいのですが、部屋は空いてますか?」



私達を出迎える宿屋の従業員へアディライトが対応する。



「はい、空いております。えっと、6名様のお泊まりでよろしいでしょうか?」



私達を見渡す従業員。

コクヨウ、フィリアとフィリオを見ても認識阻害が働いているので、騒がれる事はない。

近い未来、魔族や黒の色彩を持っていても自由に暮らせる様になれば良いな。



「えぇ。」

「かしこまりました。お部屋は、男女でお分けいたしますか?」

「全員一緒の部屋に出来ます?」

「可能です。当宿屋は、リビングと個室の寝室、トイレとお風呂が付いた部屋をご用意しておりますので。」



富裕層向けだけの事はある。

期待できそう。



「ですが、そのお部屋ですと、1日お一人様、大金貨3枚となりますが、よろしいでしょうか?」

「構いません。」



アディライトが頷く。

お金には、困ってないもんね?



「かしこまりました。お客様、何泊のご予定でしょう?」

「とりあえず、1週間でお願いします。」

「1週間ですね?ありがとうございます。」



従業員が記帳を差し出す。



「では、こちらにお客様のお名前のご記入をお願い出来ますか?あと、代金は前払いとなります。」

「分かりました。」



記入を済ませたアディライトは、全員分の代金を従業員へ支払う。



「はい、確かにいただきます。では、こちらが鍵となります。」



従業員から渡される鍵。



「お部屋へ、ご案内いたしますね。」



私達を先導する従業員。

その背中に、私達はついて行く。

ーーさて、従業員に案内された部屋で一休みといきますか。

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