第9章〜大会編〜
第256話 動き出す者達
次の国へ旅立つ準備を進める。
「うぅ、また長い間、ディア様と離れるなんて!」
「ディア様からのご命令とは言え、とても悲しすぎです!」
・・ロッテマリーとルルーシェルの2人は、大泣きしながらだったが。
準備は順調。
「他の子達も、涙目なのよね。そんなに泣く様な事なのかしら?」
永遠の別れでもないのに。
溜め息である。
「ディア様、モルベルト国の職人達による、武器大会についての詳細が分かりました。」
「本当!?」
そんな私に、アディライトから朗報。
お待ちかね、大会の詳細。
アディライトから朗報に、私の気分も急浮上していく。
「どうやら、各工房が武器、防具類のどちらか1つを出し、その出来上がりを競い合うようです。」
「ほう、」
面白そうな大会だ。
「その大会って、飛び込み参加は可能なの?」
可能なら、私も参加したい。
せっかくのお祭りなんだからさ。
「大会に出る職人は、どこかの工房に入っている事が条件のようです。ですので、ディア様が大会へ出られる場合は、どこかの工房へ入らないといけないかと。」
「むう、」
唸る。
どこかの工房に、か。
「私のは、反則級のスキルだからなぁ。」
純粋な技ではない。
ただ、スキルの恩恵があるだけ。
そんな私が、どこかの工房へ入るって事は、スキルを知られてしまう恐れがある。
「ーーはぁ、今回は、見学かな?」
残念だけど。
他の人の作品を見る事も勉強よね?
「条件を変えさせますか?」
「へ?」
「ご命令下されば、私がモルベルト国の王の1人や2人、ふふ、どうとでもしてみせますわ。」
アディライトの瞳が怪しく光る。
こ、怖い。
「っっ、大丈夫だから!」
シャレにならん。
私が頷けば、アディライトは本当に王を脅してでも条件を変えさせる気だよ。
「よろしいのですか?」
「う、うん、平気。」
「そうですか。」
納得してくれた様子のアディライト。
下手な事は言えないよ。
「まぁ、名品が出ると思うので、見るだけでも楽しめる事でしょう。」
「うん、それを楽しみにする。」
どんな作品が出るかな?
わくわく。
「工房巡りをするのも良いかもね?」
レアな作品に出会えるかも?
期待は膨らむ。
「その時は、お伴します。」
「ふふ、皆んなで色々と巡ろう?」
モルベルト国。
どんな出会いが待っているかな?
「ーーあぁ、あと、ルーベルン国にいる他国の密偵が動いたようですよ?」
「へぇ?」
アディライトの報告に、笑う。
「餌を与えてあげたけど、食い付いたんだ?」
狙いは、第2王女一行かな?
「餌に食い付いた相手は、聖王国パルドフェルド?」
「の、ようです。」
「バカね。」
「えぇ、本当に。少しは痛い目を見ればよろしいのです。」
アディライトと2人、嘲笑う。
王女一行を邪魔する事は、自分達が信仰する神の使徒でもある精霊を怒らせるだけなのに。
「知らないって怖いわ。」
自分の私欲の為に、静かに破滅へ向かう愚かな聖王国パルドフェルド。
その事実を知るのは、いつになるのか。
「ふふ、聖王国パルドフェルドさん?ちゃんと、私の掌の上で踊ってね?」
遊びましょう?
「聖王国パルドフェルドへ行くのが楽しみ。」
私の蒔いた種が芽吹く時。
ーー最高の遊びの時間が始まる。
「あちらに着いたら、コクヨウのクズ親の情報も集めなきゃ。」
じっくり、時間を掛けて。
色んな旅の準備を終え、馬車で走る事5日目。
私達は、危機に陥ってーー
「「えいっ、!」」
「あぢっ、!?」
「ぶへ!」
ーーいなかった。
馬車の屋根の上に座るフィリアとフィリオの水と火の魔法が、わらわらと現れた盗賊達に炸裂する。
「ひっ、た、助けてくれっっ、!」
「た、頼む、命だけは!」
阿鼻叫喚。
至る所からの命乞いの嵐である。
「「無理!」」
きっぱり、這い蹲り、命乞いをする盗賊の男達を拒絶するフィリアとフィリオの2人。
盗賊達の顔が絶望に染まる。
「まぁ、だめよ、フィリア、フィリオ。」
屋根の上にふわりと乗り上げ、フィリアとフィリオの2人を嗜めるアディライト。
「「何でー??」」
「ふふ、ディア様の乗る馬車を襲撃しようとした愚か者なんだもの、簡単に終わらせたらダメでしょう?」
良い笑顔である。
「「!!そっかぁ!」」
「今は無力化だけにして、意識を刈り取るだけにしなさい?」
「「はーい!」」
アディライトの指示に、素直に頷くフィリアとフィリオの2人。
盗賊達の捕縛へと動き出す。
容赦なく、フィリアとフィリオの2人は盗賊達を無力化していく。
「ーー・・まぁ、うん、ご愁傷様。」
合掌。
哀れな盗賊達に手を合わせる。
これに懲りたら、盗賊なんかすっぱり辞めて、真っ当に強く生きなよ?
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