第235話 精霊王のご紹介

少しだけ、場が和む。



「・・ふむ、直ぐにユリーファ女王陛下へ書状の返事を送らなければならぬな。」



王様が顎を撫でる。



「さて、そうとなれば誰を使者に送るか。」



3人の王子に向く視線。



「ーーお父様、いいえ、王様、その使者、どうか、このミンティシアにお命じ下さい。」



だが、3人の王子より先に声を上げたのは、第二王女、ミンティシアだった。



「・・お前を?」

「はい、王様。ユリーファ女王陛下は、女性ですので、年も近いのですし私が使者として適任かと。」

「ふむ、それはそうだが、しかし、そなたは交渉事にはまだ不慣れだろう?」



難しい顔になる王様。



「それでも、私に使者をお命じください。」

「だが、そなたの身に万が一の事があれば、いかがする?」

「っっ、そ、れは、」

「婚約が整ったばかりの第二王女を、外交の為とは言え危険に晒す訳にはいかぬ。」



ふむ、確か第二王女であるミンティシア様は、3歳年上の、この国の筆頭公爵家の継嗣に嫁ぐのだとか。

本来なら、王女と言う言う身分的に他国との架け橋となる政略結婚で婚姻しそうだけど、第二王女と同じ年頃の王子がいない為、この国の筆頭公爵家に嫁ぐ事が決まっているらしい。

リリス情報である。

王、父親としては、大事な娘を危険に晒す事は避けたいよね。



「ーーでは、ミンティシア様の護衛を私から推薦させて下さいませ。」



なら、私がミンティシア様の力になろう。

彼女達なら適任だ。

どんな敵だろうと、ミンティシア様の身を守ってくれる事だろう。



「・・ミンティシア様の護衛をソウル嬢が?」

「はい、王様。」



向けられ王様の視線。



「ミンティシア様を必ず守れる優秀な護衛がおりますの。その者達をミンティシア様の護衛に推薦させてください。」

「ほう。」



王様の興味を引けたらしい。

私の方へ、少しだけ王様は身を乗り出す。



「その護衛に推薦したい者とは、一体、誰だ?」

「はい、王様。精霊王たる方達の護衛では、いかがでしょうか?」



この世界で最高の護衛でしょう?

にこりと、王様へ微笑む。



「「「「は?」」」」



私の提案に、次の瞬間、王族の皆様の口から変な声が上がった。

娘の身を案じるのが親心。

なら、ここはその親心の為に私が一肌脱ぐところでしょう。



「っっ、ソ、ソウル嬢!?」

「はい?」



ふむ、王様、声を震わせてどうした?

私は首を傾げる。



「い、今、そなた、精霊王、と、言ったか?」

「言いましたが?」

「・・もしや、精霊王様達にお会いした事が?」

「ありますよ?」

「・・私の想像の範疇を超えている。」



がくりと項垂れる王様。

それは、何だ?

完全なる敗北宣言ですかね?



「まぁまぁ、王様、そう、気を落とさず。」



人間、未来を見ましょう?



「で、どうです?これなら、ミンティシア様の護衛の件、ご了承をいただけますよね?」

「ーー本当に、精霊王様がミンティシアの護衛の為にお力を貸し下さるのか?」

「もちろんです。」



彼女達にお願いしますとも。



「実際に王様も彼女達とお会いして話してみて下さいな。」



虚空に目を向ける。



「サーラ、アーラ、ここへ来れる?」



途端にふわりと揺れる風。



「私達を呼んだかしら、ディアちゃん?」

「ふふ、私達に用?」



次の瞬間、清浄な神気が私の隣に降り立つ。



「急に呼び出してごめんね、2人とも。でも、来てくれてありがとう。」

「まぁ、良いのよ?」

「私達の誰かを呼ぶかもしれないと、前もって知らせてくれていたのだから、気にしないで?」



固まる王族一家をガン無視で、優しい眼差しを私にだけ向ける2人。

この世界の身分など関係のない自由な精霊王である2人は、王族だろうと関心を寄せる事がない。



「っっ、精霊王、様。」

「ディアちゃん、今度、一緒に出掛けましょうよ。」

「それは良いわね!どうせなら、ピクニックが良いわ。」



震える王様の声を聞く事なく、私とのお出掛けについて楽しげに話し始める2人。

哀れなり、王様。

仕方ない、私が何とかしますか。



「ーーサーラ?アーラ?」

「「・・・。」」



呼び掛ければ、ピタリと2人が黙り込む。

本当、私に従順である。



「王様の為に、ミンティシア様の護衛を引き受けてくれないかな?」

「「・・・。」」



2人の視線が、その時初めて王様の方へ向く。



「お前が、この国の王?」

「は、はい、左様です、精霊王様。」



サーラの冷たい問いに、王様は身体を震わせた。

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