第234話 書状

今の私は、とてもご機嫌でうきうきである。

大国、聖王国パルドフェルド?

そんな事、私は知らん。



「っっ、ソウル嬢!?」

「まぁ、王様?震えた声を出されるなど、どうしました?」

「そ、そなたが物騒な事を言ったからだろう!?」

「物騒?」



私は、ただ、事実を言っただけなのだが。

首を傾げる。



耄碌もうろくした老害達など、無くなって困る人がいるのでしょうか?」

「・・・。」


さらりといえば、絶句する王様。



「で、困ります?」

「・・ソウル嬢、もう少しだけ言葉を選んでくれ。」



がっくりと、王様が項垂れる。

が、項垂れるだけで、王様は私の問いに対して否定しない。

と言う事は、王様も私の意見に同意なんですね?



「ところで王様。」



ーーさぁ、種を蒔きましょう。

破滅への種を。



「・・?何だ?」

「実はここに1つ、王様への書状を預かっております。」



空間収納から、一通の書状を取り出す。



「書状?」

「はい、あの里、今はティターニア国と名をつけましたが、その女王陛下からの書状でございます。」

「何!?」



王様が驚きの声を上げる。



「どうぞ、こちらの書状をお読み下さい。」

「うむ、読もう。」



私の手から書状を受け取る王様。

書状の中に目を通す。



「ーーっっ、なっ、こ、これは、」



見開かれる、王様の目。



「書状をお読みになりました通り、かの里は古き因習を捨て、生まれ変わ始めております。そして、他国との関わりを持ちたいと、女王陛下はお考えなのですわ。」



書状の中身に驚愕する王様へ、私はにっこり微笑む。

ベストタイミングとは、この事である。



「・・ティターニア国、精霊の姫君だった方のお名前か。」

「さようです、王様。」



王様へ頷く。

妖精の始祖となった姫君の名前。

新しい里の名。



「これから先、あの里はティターニア国と名乗ると?」

「その様です。貴い姫君のお名前は、あの里にもっとも相応しいかと。」



あの里に屑達の名残は一切いらん。

新しく、ユリーファを長として、あの里は生まれ変わるのだ。



「まず、この書状のご覧の通り、これで王様の願いの1つは叶うかと思います。」



あの里と、よしみを繋ぐと言う願いが。



「・・あぁ、そうだな。こうも用意が良いのが末恐ろしいが。」

「ふふ、少しの保険、ですわ。」

「保険?」

「王様が私に対して権力を持って何かを強要した場合、この書状はティターニア国の後ろ盾があると言う何よりの証明になりますでしょう?」



別の意味で役立ったが。

結果オーライなら、良いよね?



「ーー・・我が国を捨て、あの里、いや、ティターニア国へいつでも行けると言う、私への牽制にもなるの、か。」

「ふふ、好きにお取り下さい。」



にこりと微笑む。



「まぁ、ティターニア国の女王陛下は、そう思われても良いと思っている、とだけ言っておきますわ。」

「っっ、そこまで、あの里とよしみを繋いでおるのか!?」

よしみと言いますか、女王陛下、ユリーファ様は、我が夫、ディオンの妹なのです。」

「何!?」



王様の視線が、ディオンへ向いた。

その存在を隠されていた、ユリーファ。

奴隷の身に落ちた、ディオン。

この2人が兄妹である事を知るのは、あの里の者だけだ。

王様が驚くのも仕方ない。



「・・ディオン殿は、妖精族と知っていたが、まさか、高貴なる血筋の方、だったのか。」



震えた声を王様が上げる。



「王様、今の私は、ディア様の奴隷であり、夫の身に過ぎません。どうぞ、いつもの通りに接して下さい。」

「しかし、」

「私はあの里から追放されたのです、王様。妹が女王陛下となろうと、私の身分には一切、何の関わりの無い事とご理解ください。」



きっぱりと、関係ないと言い切るディオン。

その顔には王族へや血筋に対する未練の欠片さえない。



「・・そこまで言うなら、分かった。これまで通りソウル嬢の夫として接しよう。」

「はい、ありがとうございます。」



ディオンが頭を下げる。



「ふう、ソウル嬢の周りには、凄い者達が集まるみたいだな。」

「まぁ、それは、お褒めて言葉ですか?」

「無論だ。」



王様が深く頷く。



「魔族を倒せ、王族と#誼__よしみ__#を持つ、到底、普通の人間にはなし得ない事ばかりだろう?」

「そうかもしれませんね。」



王族一家との交流は成り行きとは言え、私の周りは華やかな面々が集まっているのかもしれない。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る