第233話 おいでませ、次のターゲット様

興味が湧いた。

少し詳しく話を聞いてみるか。



「王様、あの里とよしみを繋ぎたいとは、どうしてでしょう?その理由を詳しくお聞きしても?」

「うむ、ソウル嬢は世界樹について知っているか?」

「・・・はい、知っています。」



えぇ、知った時は、心底驚きましたとも。

だって、何を隠そう、まだ私の空間収納の中に、ユリーファから貰った大量の世界樹の木や葉が仕舞われているんだから。

思い出しただけで、遠い目になる。



「それが何か?」

「世界樹は、あの里でしか育たぬ木。ゆえに、世界樹の葉や木は市場に全く出回らぬのだ。」

「はい、その事は聞きました。」

「私は、その世界樹の葉や木を市場にどうにか出回らせられないかと考えている。」

「ーーつまり、あの里とよしみを繋ぎ、その貴重な世界樹の葉や木を王様は手に入れたい、と?」

「簡単に言うとそうなる。無論、交易としてな。ソウル嬢があの里に入れたと聞いて、我が国とも交易が可能か知りたかったのだ。」

「なるほど。」



ふむ、私にあの里の事を聞いたのは、他国を受け入れるか知りたかったからなのかな?

あの屑は人間を見下していたし、交易なんて絶対にしなかっただろうし。



「世界樹の葉は、万能薬となるからな。どの国も喉から手が出るほど欲しいだろう。」

「そうなのですか?」

「あぁ、彼の国以外は、な。」



王様が顔を顰める。



「王様、彼の国、とは?」

「うむ、聖王国パルドフェルドだ。」

「・・え?」



その国名に私は息を呑む。

ーー聖王国パルドフェルド、ですって?

魔法使いの育成に力を入れており、当代法皇達は魔法力の高いものがなると言われている、聖王国パルドフェルド。

また、聖女と呼ばれるのは治癒力に優れた第一皇女の事である。



「ーー聖王国パルドフェルドは、なぜ、世界樹の葉を欲しないのですか?」

「彼の国に聖女様がいらっしゃるからだ。」

「聖女様が?」



・・意味が分からない。

なぜ、聖女がいると世界樹の葉を欲しがらない事になるの?



「意味が分からないと言う顔だな?」



王様が笑う。



「はい、なぜなのですか?」

「聖女様の名の威信を落とさない為だ。世界樹の葉から作られた万能薬が市場に出回れば、民の聖女様への信仰心が薄れるからな。」

「はい?」



そんな理由なの?



「ーー王様、この場で1つ申してよろしいですか?」

「ん?何だ?」

「王族の方達は、ご自分の事しか考えておられないのですか?」



人の命より、聖女への信仰心が大事なの?

呆れるしかない。



「耳が痛い言葉だが、そう言ってくれるな。民の心を繋ぎ止める事ほど、難しいものはないのだから。」



擁護する訳ではないが、と王様が続ける。



「が、その聖女様である第一皇女様は滅多に民の前に顔を見せず、高位の貴族にしか、その治癒力を使わないらしい。」

「あら、それは聖女様とは思えない所業ですわね?」

「だろう?」



王様と2人、笑い合う。

あら、王様も同じ気持ちなのですね?

ふふ、差別ばかりの第一皇女が聖女様って、一体、どんなお笑い話ですか?



「だからこそ、私は民を救う為に特に世界樹の葉を少しでも市場に出回らせる様に尽力したいのだ。」

「・・王様。」

「例え、聖王国パルドフェルドに何と言われようと、民の事を優先出来ず、何が王か!」



王様が拳を握りしめる。



「どうか、頼む。あの里と交易できる様、お力をお貸しいただきたい。」

「お任せ下さい!」



即答である。

王様の提案を断る理由など、私にあろうはずもない。



「誠か?」

「えぇ、本当に王様の心意気には感服ですわ。私、王様のお言葉に心を打たれてしまいました。」

「そ、そうか?」



満面の笑みの私に、顔が引き攣る王様。

だが、そんな事、気にしない。



「それに、大国の1つである聖王国パルドフェルドと戦も辞さない王様のご決意は本当に素晴らしいですわ。」

「は?」



王様が唖然とする。



「もう、王様もお人が悪い方ですね?そうであるなら、先にそう申してくだされば良かったのに。」



率先して、私が王様の力になりますとも。

えぇ、それは全力で。



「うふふ、この私に、全てお任せ下さい。万事、王様の民を思うお心の為に、上手く聖王国パルドフェルドを屈服させ、黙らせられるように事を進めますので。」



やったね。

コクヨウの受けた苦しみ、聖王国パルドフェルドの王族へ味わってもらおう。

1番はコクヨウの両親に、だが、国としても報いを受けるべきだよね?



((((・・いやいや、絶対にそこまで言ってないよね!?))))



顔面を蒼白にする王族一家。

王族の皆様の気持ちが、心の中で1つになった瞬間だった。

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