第217話 次の後継者

魔族と聞いて、慌てふためく里の住人。

私は優しげな声で語りかける。



「皆様、どうかご安心を。魔族はすでに私達で討伐済みですので、怯える事はありません。」

「「「おぉお!!」」」



魔族は討伐済みと聞いて、里の皆んなの表情が一気に明るくなっていく。



「しかし、私達が倒した魔族が暗躍して自分の傀儡とする為に洗脳されたムググ様とエリンケ様のご子息、マスクル様が正気を失う原因となりました。」



悲しげに目を伏せる。

今は正気だが。

まぁ、嘘は言ってないし、良いよね?



「なっ、マスクル様が!?」

「だから、あのように暴れて・・。」

「なんて卑怯な事をッ!」



憤りの声が上がる。



「皆様の魔族への怒りは当然の事。この里の大事な時期後継者を傀儡としようとしたのですから。」



彼の心に魔族に付け入る隙があったのがいけないんだけどね?



「しかし、そんな方が、この里の次の長となっても良いのでしょうか?」



真実を知らない里の皆んなは、不安になる。

ーーマスクルが、次の長がまたいつ正気を失い、自分達へ牙を剥くか、を。



「マスクル様が正気を無くした件は魔族のせいとは言え、私は不安でなりません。魔族と内通したマスクル様が、この里の長になる事に。」



種を蒔く。

不安と恐怖の種を。



「ですから、マスクル様ではなく、正当な血筋の別の方に、この里の次の長になってもらうのは、いかがでしょうか?」



不満の声は上がらない。

まぁ、私がそうなる様に里の皆んなを誘導したからなのだけど。



「皆さん、私の提案に反対の方はいない様ですね?」



笑みが浮かぶ。

マスクル、人望がないな?

あの屑な父親と母親に似たから当たり前と言えなくもないが。



「現長には、妻とご子息の暴挙を止められなかった咎でその座を退いていただきます。」

「では、次の長は誰になるんだ?」

「やはり、里にご帰還された、ディオン様か?」

「他には、おられないだろう?」



あら、こちらも否定の声が上がらない。

屑よ、自分の息子同様に里の皆んなからの人望がないのね?

が、残念。



「次の長は、ディオンではありません。」



次の長はディオンではないんだな。

視線を、そちらへ向ける。



「皆さんにご紹介いたします。ムググ様のご息女、ユリーファ様です。」



私の視線の先へと、里の皆んなの顔が一斉に向けられた。

妖精とエルフの混血の子、ユリーファ。

彼女の存在は、この里の一部のものしか知らされていない。



「ユリーファ様?」

「確か、ユリーファ様と言えば、エルフの血を引いたご息女だろう?」



混血の子故に。

隠され続けたユリーファへ集まる、里の皆んなからの多くの視線。



「っっ、まさか、セリス、様?」

「あのお姿、セリス様にそっくりではないか!?」



愛情からではない。

あのゲスで屑な父親は、ユリーファを、愛する妻に似た娘を自分の側から離されることを嫌ったからだ。



「ーー・・絶対に、許されませんぞ!」



初めて、否定の声が上がる。



「・・なぜ、ですか?」

「はっ、ユリーファ、様は、エルフの血を引いた方。いかに今の長のご息女だと言っても、半分はエルフの血ではありませんか。」

「・・だから?」

「混血であるユリーファ様は、次の長になるのに相応しくなどありませんな。しかも、長となる者として何の教育も受けていないではありませんか。」

「ユリーファ様を教育を施して下さる方はいらっしゃいます。ご心配なく。」



消える、私の笑顔。



「母親がエルフでも、ユリーファ様は現長の血を引いています。この里の長となるのに何の問題もありません。」

「貴方は何も分かっていない。我らは血こそが、大事なのです。」

「では、分家筆頭のヒシュタル様は、誰が次の長に相応しいと?」

「それは、まぁ、尊い血を最も濃く受け継ぐ、我が家、でしょうな?」



・・ここにも、屑がいた。

血こそ大事?

それは自分の打算の為の都合の良い言い訳だろうに。



「確認しますが、ユリーファ様は次の長にヒシュタル様は相応しくなどないとおっしゃるのですね?」



下卑た笑みを浮かべる男。

ーー気に食わない。



「全ては、この里を思えば、です。」

「次の長に相応しいのは、分家筆頭、要するに、貴方様、だと?」

「うむ、そうなりますな。」

「・・へぇ、そう。」


混血のユリーファでは、なく?

自分の方が長に相応しいと、言うんだね?

・・なるほど。



「ーー・・ですってよ、皆んな?」



空中に視線を向けた。

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