第216話 複雑な心境

ユリーファにとって、この里は忌まわしい場所であり、辛い記憶がたくさんありすぎる。

だからこそ、私はユリーファに、この里で上に立って欲しい。

自分の意思で。



「ユリーファ、どう?やれる?」

「・・・もう、嫌な事を我慢しなくても良くなりますか?」

「それを、ユリーファが望むなら。」

「・・身代わりでなくても?」

「貴方は誰の代わりではなく、ユリーファとして生きれば良いわ。」

「・・私は、誰ですか?」

「不思議な事を聞くね?貴方は、ディオンの妹の、ユリーファよ。」

「ーーなります。」



ユリーファの瞳に光が灯る。



「この里の長になります、私。もう、誰かの代わりは嫌です。」

「よく言ったわ、ユリーファ。」



にっこりと微笑み、ユリーファの髪を撫でた。

この子は化けるだろう。

ユリーファは、この先、精霊王達の教育を受けて、名君へと。



「・・ディオン、お兄様。」

「ん?」

「私、に、会いに来て下さいますか?」

「もちろん。ディア様のお許しをいただいて、ユリーファに会いに、この里へ来よう。」

「では、お兄様達に誇れる様な里になるよう頑張ります。」



ーーして、見せる。

ディオンとユリーファの2人を見ながら、明君に育てる決意を新たにした。

やる気を出したユリーファを、さっそく精霊王達と引き合わせ、先生になってもらう。



「ディオンちゃんの妹の為なら、もちろん教師役を引き受けるわ。」

「私達に任せなさいな。」

「彼女を立派な君主にしてあげる。」

「知識なら、誰よりも豊富よ。」



なんとも心強いお言葉だ。



「精霊王様方、どうぞ、ご指南のほど、よろしくいたします。」



ユリーファが頭を下げる。



「ふふ、ディオンちゃんに似て、礼儀正しい子ね。」

「でも、少し表情に乏しいかな?」

「知識を得るのと一緒に笑顔も取り戻しましょう。」

「やる事がたくさんね。」



張り切る皆んな。

なんとも、有難い事だ。



「精霊王様、私からもお礼を。どうぞ妹をよろしくお願いします。」



ディオンも頭を下げる。

妹に色々と心を配る、ディオン。



「・・・むう、なんか妬けるかも。」



唇を尖らせる。

ディオンとユリーファの兄妹を引き合わせたのは、私だよ?

でも、ディオンの心の中がユリーファでいっぱいになるのは複雑な気分。



「ディア様、ディオンの心は、たった1人、貴方のものです。」

「・・コクヨウ、分かってるけど、複雑なんだもん。」



コクヨウに宥められても、モヤモヤしたものが晴れてくれないのだ。

ディオンが触れ、思う女性は私だけが良い。

例えユリーファがディオンの妹だとしても、私だけを見て欲しい思い、願ってしまう。



「なんだか、嫌な子になった気分。」



妖精族は、その血を守る為に昔は血族間の婚姻もしていたとか。

だから、不安になるのかも?



「これだと、しばらくは、ディオンはユリーファ中心になりそう。」



溜め息を吐く。

私も少しは我慢が必要かしら。



「ーーそれも全部、あの父親のせいね。」



どうしてくれよう。

理不尽な八つ当たりを、ゲスで、最低な屑なディオンの父親へ向けるしかない。



「さて、ユリーファの教師も無事に決まった事だし、いよいよお披露目と、屑達の制裁といきますか。」



憂さ晴らしだ。

徹底的に、その心をへし折ってしまおう。

そうと決まったら、さっそく里の皆んなを集める事にする。



「ふっ、ついにこの時が来たわ。」



ゆるりと上がる口角。

長かった。

待ちわびた、この瞬間。

少しだけモヤモヤしていた心の靄が晴れた私は、期待に胸を弾ませる。



「これから何が始まるんだ?」

「なんだか、俺達に大事な話があるらしいぞ?」

「マスクル様のご乱心の事か?」



ざわめく、一箇所に集まった里の皆んな。

その顔には不安が浮かぶ。



「皆さん、本日はお集まりいただき、ありがとうございます。」



まずは、一礼。



「本日は皆様に大切なご報告と、ある方のお披露目の為に、この場に集まっていただきました。」



さぁ、始めましょう。

彼等への楽しい復讐と断罪劇を。



「ある方のお披露目?」

「帰って来られた、ディオン様の事か?」

「確かディオン様は、片羽の為に昔この里から追放になったんだよな?」

「しかし、ディオン様は今は両羽だぞ?」



また、ざわめきが起こった。



「まず、ご報告とは現長であるムググ様の妻であるエンリケ様が魔族と内通して里へ手引きし、襲撃を企てた事です。」

「「なっ、!?」」



言葉を失う、里の皆んな。

次の瞬間、あちこちで悲鳴が上がった。

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