第215話 ユリーファ
固まるディオン。
アスラとユエと共に扉を開いたのは、ディオンの妹、ユリーファ。
「ーーーー母上・・?」
呆然とディオンがユリーファの事を見て呟く。
己の母親に良く似た、少女。
驚き。
そして、怪訝。
「ディオン、貴方が驚くのも無理はないわ。でも、彼女はお母様ではなく、ユリーファと言う名で、貴方の異母妹よ。」
顔色を変えて、その場に固まるディオンの背中に手を添えた。
「ユリーファ、彼が貴方の兄で、ディオンと言うの。」
「異母妹・・?」
「お兄、様・・?」
お互い良く似た2人が、顔を見合わせる。
「・・ディア様。」
固い表情のディオンの顔が私へ向く。
「何?」
「妹は、ユリーファは、今までどこに?」
「・・・。」
ディオン、鋭い、わね。
「あれは、一切、妹の事を話しませんでした。」
「・・そうね。」
「妹に、あれは何をしたのですか?」
「・・ユリーファは、お父様に大切にされては、いたようよ。」
「どこで、ですか?」
「・・・。」
「ディア様、教えて下さい。」
「・・離れの、地下牢。」
「っっ、」
息を呑むディオン。
「・・、では、ユリーファは、」
「ディオン、ユリーファは貴方のお母様の身代わりとして、お父様に大切にされ愛されていた様ね。」
まだ未遂ではあったようだけど。
まだ幼い自分の娘を手籠にしない理性はあった様だ。
屑である事には変わりないが。
「下郎め!」
ディオンが吐き捨てる。
「ユリーファ、助けられず、すまない。」
表情を表すのが乏しいユリーファを、ディオンが強く抱き締めた。
ユリーファを抱き締めるディオンを、私達は微笑ましく見つめる。
家族の愛情に触れ合えなかった2人。
「ユリーファだけが、ディオンの血の繋がった家族ね。」
魔族と手を組んだ弟くんとお母様は論外だし、お父様、いや、あの屑は親として認める事さえ問題外である。
「ディア様、これからユリーファの事をいかがなさるのですか?」
問い掛けるアディライトに微笑む。
「ユリーファには、この里の長になってもらうわ。」
血縁的にも最適だ。
「私が、長に、ですか?」
表情に乏しいユリーファが、首を傾げる。
「仕方ないの、貴方の父親は、長に相応しくないんだもの。」
「・・ですが、私よりお兄様の方が長には相応しいと思いますが?」
「それは、無理。ディオンは、この里に留まらさせられないの。」
長なのに、里にいない訳にはいかない。
が、私の側からディオンを離すなんて、絶対にあり得ない事。
「忌まわしい事だけど、現長の血を引いていて、ディオン以外でまともなのは、ユリーファ、貴方だけなのよね。」
弟くん。
後継者なら、まともに育とう?
「ディア様、あの屑にまともな子育てなど無理な話ですよ。」
良い笑顔のディオン。
「・・・まぁ、うん、そうだね。」
そっと、目を逸らす。
愛する人との息子を片羽だからって里から追放し、次男は暴君に育て、娘は監禁し、自分の妻にする事を考えていたり。
否定出来る要素が1つもないんだけど!?
「あれは、存在自体が害悪です。」
ディオンが吐き捨てる。
滲む嫌悪感。
心中をお察しします。
「ーー・・いっそ、今からでも害悪を消し去ってしまいたいぐらいですね。」
「っっ、てな訳で、ユリーファ、大変だろうけど、次の長になってもらうね?」
取り繕う私。
ディオン、ユリーファの教育に悪いから!
「あの、何の教育も受けておりませんが、私でよろしいのですか?」
「それは、大丈夫。」
あの地下路で、クズがまともな教育をユリーファに受けさせている訳がない事ぐらい分かっている。
「ユリーファには、最高の教育を施してくれる優秀な先生がいるから問題ないよ。それも、4人もね。」
「優秀な先生、ですか?」
「ふふ、そう、精霊王達が、ね。」
長い時を生きる彼女達。
彼女達なら、最高の先生でしょう?
「精霊王、様が、私の先生。」
「驚いた?しばらくは、この里にある迷宮攻略をしながら、私達もユリーファの力にもなるから、安心して?」
ユリーファは、ディオンの大切な妹。
なら、私の妹でもある。
「ユリーファ、誰よりも強くなりなさい。」
「強く?」
「自分を虐げた者を叩き潰せるぐらいに、ね。」
この里を出る事は簡単だ。
だけど、それで彼女は本当に幸せ?
「ユリーファ、自分の手で過去と、父親達と向き合いなさい。」
自分の心を、取り戻す為に。
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