第218話 賢さと違い
側に降り立つ神気。
「あら、私達の決定に意見するとは、偉くなったものね?」
「私達も敬った方が良いのかしら?」
「それとも、決闘、とか?」
「決闘、それ、良いんじゃない?」
私の前ににこやかだけど目の笑っていない精霊王達が、その姿を現した。
「なっ、せ、精霊王、様っっ、!?」
平伏する、ヒシュタル。
他の里の皆んなも、精霊王の皆んなへ一斉に地面へ額ずく。
「精霊王である皆んなは、ユリーファ様が次の長になる事を心良く許してくれたのにね?」
私も冷たい目を、平伏したままのヒシュタルへと向ける。
「精霊王の皆様へお聞きします。この里は、純潔の血筋でないと長に相応しくなく、後継者となれないのでしょうか?」
「いいえ、そんな事ないわ。」
「私達は血筋になど拘らないもの。」
「勝手に自分達が尊いなんて勘違いしないでくれる?」
「とても不愉快だわ。」
「ですって、ヒシュタル様?これでもご自分が次の長に相応しいと言いますか?」
「っっ、」
問う私に、ヒシュタルは背中を震わせた。
「あぁ、ユリーファ様の教育を施して下さる方も、精霊王である彼女達ですよ?」
私の口元に浮かぶ冷笑。
「まさか、この里が尊ぶ精霊王様がユリーファ様へ施す教育が不安だとは申しませんよね?」
ーーさぁ、どうする?
保身を選ぶか、地位を取るか。
「ふふ、ヒシュタル様、どうぞ、私の問いにお答え下さいな。ユリーファ様が長となる事に意義を申しますか?」
どちらでも好きな方を選べ?
沈黙が流れる。
頭の中で、色々と葛藤してるのかな?
「ヒシュタル様。」
ユリーファが一歩、歩みを進める。
「私は何も分からぬ小娘です。ヒシュタル様が私が長に相応しくないと心配なさるのも致し方ない事でしょう。」
「ーーっっ、ユリーファ、様。」
顔を上げるヒシュタル。
「混血である私は、長の名に相応しくなどないのかもしれません。ですが、私は、この里の為に身を捧げる気持ちでおります。」
「・・・。」
「信じてくれ、とは、言いません。ですが、どうか私がなす事を見守って下さいませんか?」
「ーー・・全て、ユリーファ様の、御心のままに。」
ヒシュタルが額ずく。
否定していたユリーファに対して。
「ふふ、ここで、これ以上ごねるのは得策じゃないと判断したかな?」
賢い事。
ディオンの父親より、賢いわ。
「・・いや、あれがバカ過ぎたの、か?」
否定出来ん。
良く反乱が起きなかったね?
逆に感心だわ。
「私なら、すぐ様に反旗を翻しそうなぐらいの無能さなんだけど。」
良かったの?
あれが、自分達の長で。
外ズラだけは良かったのかしら?
ヒシュタルを始め、里の全員に次期長と認められたユリーファが私へと近付く。
「ディアレンシア様、この度のご助力、本当に心から感謝いたします。」
私に頭を下げるユリーファ。
「ユリーファ様、どうか頭をお上げ下さいませ。」
里の皆んなから向けられる私への視線が厳しくなるからね?
早くも次期長に何させてんだって重圧が来てるから!
「しかし、ディアレンシア様はお兄様の大切な奥方なのだとか。」
「いや、でも、」
「しかも、ディアレンシア様は精霊王様方に愛される方。どうして、そのような方を私が蔑ろに出来ましょう。」
「はは、」
正論だから辛い。
でも、ユリーファ、お願いだから時と場所を少しは考えて!?
「あらあら、課題は多いみたいね。」
「やり甲斐があるわ。」
「すぐ様、教育を始めましょう。」
「私達の威信にかけて、ユリーファを最高の指導者に育てるとしますか。」
精霊王達は笑う。
『妖精皇国の女王、ユリーファ。』
そう里と彼女が近隣の国に呼ばれるようになるのは、もう少し未来の話。
後世に残る女王の記録には、その傍に妖精族と人間の血を引いた青年がいたとされる記述と、生涯を皇国の為に捧げたとされる説とが記されている。
『ねぇ、お兄様!』
『うん?』
『ユリーファ、お兄様にお願いがあるのです。』
『お願い?』
『はい、お兄様とディアお姉様との間に子供が出来て、もしも、生まれたのがご子息ならユリーファのお婿さんに下さいませ!』
『ーーは?』
『うふふ、年上の妻になるけれど、どうかご安心を。このユリーファが絶対に幸せにいたしますわ。』
『・・・。』
ユリーファのお願いが叶ったかは、神のみぞ、知る。
小さな里を皇国へと大きくした彼女は、間違いなく名君として人々の記憶に刻まれる事だろう。
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