第212話 閑話:復讐の炎

アリアナside




忘れられない人がいる。

とても大切な方。

自分の命よりも大切な方だった。



『良い子だな、とても聡明な目をしている。』



幼い私に貴方は微笑む。

我が君。

私は、もう一度、貴方様にお会いしたい。

恋しいと心が叫ぶ。



『君の名はアリアナと言うの?』



好きだった。

柔らかく笑う貴方様の事が。



『とても良い名だな。アリアナ、このまま健やかに大きくおなり。』



誰よりも大切で、愛おしかった。 

この人の為に生きよう。

その為に力を磨き、魔法の腕を上げた。

めきめき上がる魔法の腕。



『ほう、そこまで魔法を扱える様になったのか。凄いな、アリアナは。』



貴方に褒められた時は、とても誇らしかった。

この方に認められた瞬間、他には何もいらないと思っていたのに。



「あぁ、我が君、魔王様。」



貴方は、もういない。

人間や亜種族達は私から命よりも大切な存在であった貴方様を奪っていった。

そんな人間や亜種族達を、なぜ許せると言うの?



「絶対に許すものか!」



唇を噛む。

例えこの命が尽きようとも、貴方様を奪われた憎しみだけは消せない。

人間や亜種族達へ燃え上がる増悪。

私は復讐を誓った。



「っっ、まさか精霊王が現れるとは!」



先ずは原初の森を汚す。

その為に里の結界が緩む時を探っていた私の目の前に降り立った4大精霊王。

驚きはしたが、これ幸いと里への侵入を果たす。



「己の息子を助けたいか?なら、その為に私が協力しよう。」



この里の長の妻の耳元へ囁く。

哀れな妻。

さぁ、息子共々、私の傀儡とおなり。

ひっそりと微笑んだ。



「ーーーあれも、なかなか使えない。」



せっかく力を与えたのに。

計画は順調かと思っていだか、理性を失ったのがいけなかったのか、駒だったこの里の長の息子が簡単に自分の同族である魔族の子供達に捕らえられる瞬間を森の奥で魔法の力を借りて見ていた私は溜め息を吐き出す。

この神聖な森を血に染め、この地を穢す私の思惑は失敗に終わったらしい。



「里の中で同族同士で戦い合えば、穢れも強くなると思っていたのだがな。」



そう、上手くいかないものだ。



「それにして、も、」



銀髪の髪の女へ目を向ける。



「我が同族を側に置く人間の女、か。」



何者だ?

言い知れぬ不安からか胸ざわめく。

魔族の子供2人に笑顔を向ける女を観察していれば、ふと、その視線がこちらの方を見つめる。

かち合う瞳。



「ーーーーっっ、なっ、!?」



気づかれた?

こんな森の奥の、しかも、魔法で視力を最大に上げている私の存在に!?



「ちっ、」



顔を顰め、その場を駆け出す。

自分の中の本能が早く逃げろと鳴り響く。

ここにいたら、ヤバイ、と。



「ーーーーあら、そんなに慌てて、一体、どこへ行くと言うのかしら?」



その時だった。

慌てて逃げる私の目の前に突如、冷酷な悪魔が舞い降りたのは。



「・・・っっ、精霊、王、」



声を震わせる。

我が君の魔王様も精霊達には一切、何もしなかった。

分かっていたのだろう。



「ずいぶん遊んでくれたようね?」

「次は私達と遊びましょう?」

「ふふ、楽しそうだと思わない?」

「満足させてあげるわよ?」



ーーーー自分の目の前の、楽しげに笑い合う彼女達を怒らせた後の、その結末を。

勝てるはずがない。

魔王様よりも圧倒的な存在に。



「っっ、」



冷笑を浮かべて私の前に立ちはだかる精霊王達から足を後退させる。

どうにか活路を見出し、彼女達から逃げ出さなければ。



「あらあら、貴方、まさか怯えているの?」



水色の髪の女性が首を傾げる。



「っっ、!」



かっと、羞恥に染まる頬。

精霊王の指摘が図星だからこそ、唇を噛み締めて口を噤み、なんの反論もせず足を後退させて行く。



「うふふ、ダメよ?」

「逃すはず、ないでしょう?」

「おバカさんね。」

「大人しくしなさい?」



じりじりと逃げを打つ私に、水が、炎が、風が、土の王達の魔法が一斉に殺到する。



「くっ、っっ、!」



迫る攻撃から身を交わす。

ーー・・精霊王達から一瞬でも目を逸らした事、それがいけなかった。



「ーーーーほら、捕まえた。」

「がっ、はぁ、」



私の身体は、その衝撃で地面に吹っ飛び叩き付けられてしまう。

身体中を襲う衝撃。



「っっ、」



地面に沈み、呻き声を漏らす。

・・勝てない。

逃げる事も叶わないだろう。



「そのまま大人しく眠っていなさいな。」



闇の精霊王の魔力が高まる。

急激な眠気が私を襲う。



「ーー・・彼女の事を捕まえてくれて、ありがとう、サーラ。」



消えゆく意識の中、新しい女の声が最後に聞こえた。

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