第213話 精霊王達の名

女神の眷属である精霊達はとても気紛れであり、王となればそれが顕著に現れる。

自分の嫌いな者には見向きもしないし、心を許す事もない。



「あら、お礼なんて良いのよ?ディアちゃんのお願いだもの、私達が力を貸すのは当たり前の事だわ。」



が、今はどうだ。

ただの小娘である私に、神の次に神聖な存在であり彼女達は蕩けるような眼差しを向ける。

愛おしいと言わんばかりに。

その瞳の中にあるのは、紛れもない私への親愛。



「それで、ディアちゃん、この魔族のお嬢さんはどうするの?」



ウンディーネ、サーラが首を傾げる。

彼女達にとって、私や倒れている魔族の女性さえ子供と同じ感覚なのだろう。

お嬢さん扱いである。



「彼女とは、少し話そうと思うの。」

「そう?ディアちゃんがそう言うなら、トドメを刺すのは止めるわ。」

「・・えぇ、そうして?」



サーラは身体に纏わせた神気を霧散させ、無邪気に微笑んだ。

物騒な言動をする彼女達は、精霊本来の気紛れさと、残忍さをに酔わせる。

とても心臓に悪いが彼女達が私へ、その残酷さを向ける事はないので、これからも仲良くお付き合いを続けたいところだ。



「アーラ、お願いしても良い?」

「ん?私にお願いって何かしら、ディアちゃん?」

「魔族である彼女を屋敷へ運んで欲しいの。お願いできる?」



私が魔族の女性を屋敷へ運びたいが、そんな事を皆が許さない。

こうして彼女の側に私が寄るのも、あまり皆んなは良い顔をしないのだから、触れるなんて論外。

転移なら一瞬なのに。



「まぁ、ディアちゃん、この私に任せて!」



私のお願いに張り切る、シルフ、アーラ。

嬉しさに顔を輝かせる。

他の精霊王達は羨ましそうな表情だ。



「ふふ、さっそく私の力でこのお嬢さんを屋敷へ運んでおくわね?」



アーラが己の力を行使する。

途端、アーラの風の力で浮き上がる魔族の身体。

このまま里まで運んでもらう。



「・・あの里に戻るの?ディアちゃん、大丈夫?」

「大丈夫よ、ステア。」

「でも、あそこはディアちゃんにとって害悪な場所だわ。そんな場所に戻る必要なんかないのに。」



私が里へ戻る事に難色を示す、サラマンダー、ステア。

自分達を崇拝する者達が里には大勢いると言うのに、なんとも厳しい。



「あら、ディアちゃんの害になりそうな時は、私の力ですぐに里を灰燼に返すから、なんの問題もないわ。」

「・・・イーア、頼もしいよ。」



物騒だが。

頼りになるのは、間違いない。



「サーラ、ステア、アーラ、イーア、今日はありがとう。」



彼女達には感謝する。

守られ、甘える事が当たり前だとは思いたくはないから。



「良いのよ、ディアちゃん。」

「ディアちゃんは、私達に名前を付けてくれたんだもの。」

「私達、嬉しかったのよ?」

「感謝しているのは私達の方よ。」



名前を与えた私。

私に縛られる事を喜ぶ彼女達。



「似た者同士、ね。」



愛し方が可笑しい私達は。

ウンディーネは、水の神サラーキアから取り、サーラと、サラマンダーは、火の神ヘスティアから取り、ステアと、シルフは、風の神アウライから取り、アーラと、ノームは、地の神ガイアから取り、イーアと名付けた。

私だけが呼べる名。



「サーラ、私のこの名前はディアちゃんだけのものなの。」

「ステア、私のこの名前はディアちゃんだけのものよ。」

「アーラ、私のこの名前はディアちゃんだけのものだわ。」

「イーア、私のこの名前はディアちゃんだけのものね。」



私達は笑い合った。

捕まえた魔族の女性を連れて里へと戻る。

ディオンの父親の屋敷は使えないので、新しく一室を用意してもらった私達。



「ーーーーさて、まずは、初めまして、魔族の方?」



新しく用意した一室で腰を据えた私は、手足を氷漬けにし、魔封じの魔道具を付けて床に横たわる魔族の女性と向き合う。

魔封じは、安全に配慮してである。



「っっ、お前、」

「魔族の女、ディア様に対しての口の利き方に気を付けろ。」



私に敵意を向けて睨む魔族の女性へ、ディオンが冷たい目で見下ろす。

魔族の女性が私に何かすれば、ディオンは一瞬でその命を刈り取りそうな雰囲気だ。

何か私が聞く前に、ディオン達がスパッと目の前の魔族の女性をやってしまいそうである。



「良いの、ディオン。」



ディオンを制し、魔族の女性へ向き合う。



「貴方の名前は?」

「貴様に答える名などない!」

「あら、残念。」



答えてくれないなら、仕方ない。

自分で確認しますか。

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