第210話 屋敷の崩壊

本当に心外である。

私はディオンの弟くんに何もしていないと言うのに。



「全くの冤罪ですわ、お父様。」



にっこり微笑む。



「だって、私は黙って見ていただけだもの。責められる謂れは無いですよね?」

「嘘を、」

「ふふ、そんな事よりよそ見してて、よろしいの?」

「何、っっ、!?」



また放たれる、弟くんからの攻撃。

瞳には理性の欠片もない。



「っっ、くそ、!」



ディオンの父親も風の魔法を自分の目の前に展開し、息子からの攻撃をいなす。

いなされた攻撃は、屋敷の至る所へ無数の傷を付けた。



「この屋敷、もうダメね。」



溜め息を吐く。

結構この屋敷は気に入っていたのだが。



「・・・ディア様、愚弟がこうなる事を知っていたのですか?」

「あら、ディオン、そうであったなら、私を嫌いになる?貴方の実の弟を見捨てた私を。」

「まさか!」



ディオンの顔に浮かぶ冷笑。



「ああなる事を望んだのは、愚弟本人でしょう?それで私がディア様の事を嫌うなど絶対にあり得ませんよ。」

「ふふ、なら、良かった。」

「ですが、」

「うん?」

「ディア様の身に危険があるかもしれない事を黙っているのはダメです。こうなると分かっていたのなら、この私の手で愚弟に引導を渡してやったものを。」

「まぁ、」



実の弟よりも優先するのは私。

そう剣呑に言い切るディオンに私の口元に微笑が広がっていく。



「だって、ディオン?」

「はい?」

「考え、思う相手が自分の肉親だとしても嫌だわ。色々と教えてしまったらディオンは私を放って、そちらの方へ行ってしまうでしょう?」



唇を尖らせる。

ディオンが思うのは私だけで良いの。



「例え負の感情だとしても、私以外の事でディオンの頭がいっぱいになるのは嫌だったんだもの。」



その他を思うのは許さない。

艶然と微笑む。



「ーーーーずるい人だ、ディア様は。」



愛おしげな眼差しを私に向けて、ディオンが笑った。

私がディオンに甘えている間も、父と息子の親子間の激しい攻防は続く。

まぁ、私達は結界を張っているから、何の実害はないのだが。



「・・・そろそろ、屋敷も限界ですね。」



ディオンが呟く。

調度品も、柱もぼろぼろだ。



「ふふ、エトワールが張った結界で屋敷を保っている様なものだものね。仕方ないわ。」

「ディア様、安全の為に外に出ましょう。ここにいるのは危険です。」



コクヨウに促され、私達は屋敷の外へ。



「・・コクヨウ?」

「何でしょう、ディア様?」

「私を抱き上げる必要、あった?」



半目になる。

どうしてかコクヨウの腕に抱き上げられて、屋敷の外へ運ばれる私。

いわゆる、お姫様抱っこである。



「必要無かったかも知れませんが、僕がしたかったのです。」

「あ、そう、」



笑顔で言い切るコクヨウに溜め息を落とす。

・・嫌じゃないから、良いか。

体の力を抜く。



「ーーっっ、これは一体、何の音だ?」

「長の屋敷で何が起こっている?」

「精霊様、教えて下さい!?」



私達が外へ出れば、長であるディオンのお父様の屋敷を見上げる里の住民達。

その顔は一様に不安の色が濃い。

精霊達に縋り付く、が。



(知らない。)

(何で教えなきゃいけないの?)

(あんた達きらーい!)



一斉に里の者達にそっぽを向く精霊達。

あら、可愛い。

こんな時なのに、つい頬が緩んでしまう。



(王達の最愛達を蔑ろにする奴らの事なんて、僕達は知らないよ~)

(だって、ディア様に酷い事したんでしょう?)

(自分達で確認したら?)

「「「なっ、!?」」」



その場にいる全員、言葉を失い絶句。

顔色を失う。



「ふふ、自業自得よね?」



浮かぶ冷笑。

さんざん、良い思いをしてきたのだから、ここら辺で身をもって知るべきだ。

精霊達が力を貸すのは、その血筋でも、生まれでもないと言う事を。



「ーーーーディア様、屋敷が崩れます。」



アディライトが声を上げる。

響く轟音。

私達の目の前でディオンの父親の屋敷が砂埃を上げて崩れ落ちた。



「ひっ、屋敷が崩れたぞ!」

「ちょ、長!?」

「ご無事ですか、長、マスクル様、奥方様!」



慌てふためく里の者達。



「・・・ディオンの父親と弟くんは生きて、は、いる様ね。」



2人の反応はある。

立ち上る煙の中、2人はその姿を現した。



「ふむ、ディオンのお父様、ぼろぼろの姿ね?」



逆に弟くんの方は無傷。

力の差は歴然だ。



「ディオン、お父様の事を助けなくて良いの?」



ディオンを見上げる。

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