第208話 鉄壁の守りと敵襲

間違いない。

あの父親は屑で害悪だ。

ふつふつと湧き上がる、ディオンの父親への嫌悪感。



「ーーディア様、お許しいただければ今からでも、私があのゴミを始末して参りましょうか?」



リリスの提案に視線を向ければ、一切の温度のない瞳とかち合う。

彼女も怒っているらしい。

私が命じれば、今すぐにでもディオンの父親の始末に乗り出しそうな殺伐とした雰囲気をリリスは醸し出している。



「ふふ、ダメよ、リリス。」

「っっ、なぜですか?」



止める私に不満の声を上げるリリス。

珍しい

私優先のリリスが不満を露わにするなんて。



「だって、リリス、考えてみて?それじゃあ簡単に苦しみが終わってしまうでしょう?」



死は解放だ。

その後は痛みも苦しみもない。



「リリス、あの屑に、そんなの許せる?」



苦しむべきだ。

あの屑はディオンの父親は。



「私は思うの、リリス。もっともっと、ディオンの父親には苦しんでもらわなきゃ。」



それこそ、いっそ殺してくれと懇願するまで。



「ディオンが与えられた以上の苦痛と絶望を、あの屑に味わってもらうわ。違うかしら、リリス?」

「いいえ、ディア様、この私が間違っておりました。」

「分かってくれて、嬉しいわ、リリス。」



本当に若干だけれども、その怒りを下げて謝罪するリリスに私は微笑む。

永遠に苦しむべきだ。

ディオンの父親は、これから先も、ずっと。



「ーー・・でも、それとは別にディオンの父親には罰が必要よね?」



ぐしゃりと、読んでいたディオンの妹であるユリーファに関するリリスからの報告書を握り潰す。



「ディア様、何かお考えが?」

「あるけど、まずは別の問題が先ね。」



あちらは、もう動く。

私があえて泳がせていたこの里に招かざる者は、上手く接触した様だ。



「ーーーーアスラ、ユエ。」



自分の影へ呼び掛ける。

そうすれば、するりと影の中から滑り出てくる私の2匹の従魔達。

アスラとユエ。



「ディア、我らに用か?」

「何でも言うが良い、ディアよ。」



ソファーへ座る私の足に甘えるように擦り寄る、アスラとユエの2匹。



「ふふ、ありがとう、2人とも。」



荒れた心が癒される。



「2人には悪いのだけど、ディオンの妹であるユリーファの身の安全と護衛を頼みたいの。」

「むぅ、我はディアの側を離れたくはない、が、」

「ディアからのお願いだ、致し方ない、か。」



渋々頷く2匹。



「ありがとう、2人とも!ユリーファの事をお願いね?」



2匹に抱き着く。

これで、ディオンの妹であるユリーファの守りは完璧だ。



「まぁ、鉄壁の守りですわね。」



リリスも笑う。



「守るわ、ディオンの妹だもの。」



私の最高の子達で彼女の事は守りましょう。

触れさせない。

もう、彼女は誰にも。



「うふふ、最後に笑うのは、この私よ。」



ねぇ、元凶様?

さて、そろそろ終焉といきましょうか。

ひっそりと微笑んだ私は、屑であるディオンの父親との朝食へ向かう。

それは朝食を食べている時だった。

突然、大きな音を立てて食堂のドアが壊され乱入して来た1人の青年。



「なっ、マスクル!?」



驚愕に声を上げるのは、ディオンの父親。

私達はディオンの弟くんが来る気配を察知していたので、慌てず騒がずだ。



「あら、マスクルくんは離れで謹慎中と聞いていたのですが、驚きました。マスクルくんもお父様や私達と一緒に食事なさいますか?」



私は優雅に紅茶を飲んで、この場の乱入者であるディオンの弟くんへ微笑む。



「っっ、マスクル、お前、外に出ぬ様に命じたはず、なぜ、ここにいる!?」

「がぁ、あ、」



血相を変えた父親の問いに答えず、虚ろな眼差しのディオンの弟くん、マスクルは剣を片手に室内に足を踏み入れると、ゆっくりとこちらへと歩き出す。

その姿は、まさに異様としか言えない雰囲気であった。



「・・・マスクル?」



ようやくディオンの父親が自分の息子の異様さに気がついたのか、眉を顰める。



「おい、マスクル、一体、どうしたんだ?」

「ーーコロ、ス、」



次の瞬間。

ディオンの弟くんからの攻撃。



「っっ、なっ、!?」



自分に向けられる剣での攻撃に間一髪のところで回避したディオンの父親は、驚愕に顔を青ざめさせた。



「マ、マスクル、お前・・?」

「あらあら、マスクルくんは理性のないケダモノの様な有様ですわね、ディオンのお父様?」

「っっ、」



嘲る私に、ディオンの父親の顔が歪む。

鋭くなる瞳。



「一体、マスクルに何をした!?」

「何も?」



えぇ、私は、ね?

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