第207話 “妹”

翌日はディオンの父親からのご機嫌伺いと言う名の食事のお誘いを受け、この里の料理をたっぷりと堪能した私達。

とても美味でした。



「ふむ、この味付けは興味深いですわ。」



とは、アディライトの言葉。

この里の料理をたくさん覚え、私の為に帰ってから研究を重ねるらしい。

楽しそうだから、そのままアディライトの好きにさせようと思う。

私も嬉しいし。



「ーーーーさて、と、」



自分が泊まる部屋へ戻り、今日は1人になりたいとコクヨウ達を下がらせた私はソファーへ凭れる。

私の思っていた通り、どうやら相手は色々と動き出したらしい。



(ねぇ、役に立った?)

(他に何かする?)

(何でも言って?)

(どんな事でもするよ!)



ふわふわ私の周りを漂うたくさんの小さな精霊達へ極上の笑顔を向けた。



「ありがとう、とても役に立ったわ。他にも何か報告があったらお願い。」

『『分かった~!』』



一目散に飛んで行く小さな精霊達。

可愛らしい。



「・・ディア様、酷いですわ。」



飛んで行く小さな精霊達の後ろ姿にほっこりしていれば、それが面白くないのはリリスで。

恨めしそうな目を向けられる。



「情報集めなら、命じて下されば私がディア様の為に動きますのに。」

「もう、リリス、拗ねないで?」



リリスを手招く。



「ごめんね?リリスには悪いと思ったけど、この里の事は精霊達の力を借りて解決した方が良いと思ったの。」

「・・ディオンの事を、ディア様は心配されているのですか?」

「ふふ、どんなに嫌な記憶があったとしても、家族や帰れる場所はあった方が良いでしょう?」



私は失って欲しくないの、

帰れる場所があるのであれば、ディオンには。

だから密かに私は動きたい。



「それに、この地には精霊が大勢いる。その精霊達が里の中を動き回っていても誰にも怪しまれないもの。」



密かに相手の動向を探らせる為に動かすには、精霊はうってつけ。

なのだが。



「・・私も相手に気取られる様なヘマなどしませんのに。」



それでも、リリスには不満らしい。

拗ねた表情のまま。



「ふふ、リリス、そんな事は私だってちゃんと分かっているわ。」



どれほど、リリス達が優秀かは、ね。



「だからこそ、リリスには他の事を調べて欲しいの。」

「お任せ下さい!」



即答。

先ほどまでの不機嫌は何処へやら。

満面の笑みである。



「ディア様、一体、私達は何をお調べすればよろしいのでしょう?」

「ある少女の事を調べて欲しいの。」

「少女、ですか?」

「そう、少女の名前はユリーファ。」



首を捻るリリスに微笑んだ。



「ーーー・・ディオンの異母妹よ。」



ユリーファ。

ディオンと父親を同じくする、半分だけ血の繋がった母親の違う妹である少女。

リリスが目を見開く。



「ディオンには妹がいるのですね。」

「本人も自分に弟がいると知っていたみたいだけど、妹がいる事は知らないのでしょうね。ディオンの父親も私達に自分の娘に関して一言も言及しなかったし。」



自分の娘について何も言わなかった父親。

精霊王である皆んなの信頼も関心も失い、後のないディオンの父親が縋れるのは捨てた息子だけ。

ディオンは精霊王の皆んなの可愛い子なのだから。



「娘を隠す理由は何?」



なのに、ディオンの父親は娘の事を隠した。

ディオンに縋れる最後の希望。

自分の家族への情はなくとも、妹の存在は切り札と成り得たかも知れないと言うのに。



「ディオンは全く興味がなかったのか、自分の家族の事を精霊王である皆んなへ聞かなかったから、私が、ね?」



その時知った、ディオンの妹の存在。

ひっそりと精霊王の皆んなからディオンに妹がいると聞いて、私も驚いたものだ。



「食事の時も姿を表さなかったし、お父様の口からも名前さえ出なかったディオンの妹の事が気になるわ。」



父親に隠されたディオンの妹。

私の杞憂なら良い。



「何もなければ良いの。リリス、ディオンの妹であるユリーファの件、悪いけどお願い出来る?」

「私はディア様の為にいるのです。どうぞ、このリリスにお任せを。」



頷いたリリスが闇の中へと消えた。

ディオンの妹であるユリーファの調査をリリスに依頼した翌朝。

リリスからもたらされたユリーファに対しての報告は、朝から私の気分を酷く不快にした。



「・・あの父親、もっと心をへし折ってあげれば良かったわ。」



報告を読んだ私の目が据わった。

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