第206話 神の残滓

この世にいる精霊とは、世界のエネルギーから自然と生まれた存在である。

しかし、その力は時に災害を生み出し、この世界に生きる命を脅かした。

精霊達に秩序も抑えもないのだから、災害は被害を拡大していったという。



「原初の昔、神はその災害と被害を食い止める為に精霊を束ねる王、精霊王を自らの力で作ったの。」



世界の調和の為に神によって作られた精霊王達は、その命により精霊達を監視し秩序と平和を守っている。

自分達の生みの母たる神、ニュクス様の為に。



「私が大事にされるのは、こちらの神と少しだけ関わりがあるからなの。」



驚きの話は私も精霊王である彼女達から聞かされたんだけどね?


「アディライト、前に私はこの世界の生まれではないと言ったわよね?」

「はい、それはお聞きしました。」

「私は、この世界でディアレンシア・ソウルとして生まれ変わる為に、どうやら、こちらの神の力を借りたらしいの。」



この世界にとって歪の存在である私。

その私の歪であった存在を定着させる為に、この世界の神の力が使われた。

あちらの世界の神の頼みを聞いて。



「私の身体の中には、その時に使われた神の力の残滓が残っているんですって。この世界のニュクス様の残滓が。」



私にとって何の害のないものだけど、同じ神によって作られた精霊王達にとって、この身体に残るニュクス様の残滓は愛おしいものらしいのだ。

精霊王である彼女達曰く。



「ディアちゃんの側にいると私達を作りしお母様の温もりを感じるの。」

「その温もりは心地良いのよね。」

「お母様の残滓を持つディアちゃんは、私達にとって特別だわ。」

「守るべき存在なのよ、ディアちゃんは。」



なのだとか。

精霊王である皆んなの中では、お母様であるニュクス様の温もりのある私は自分達が守るべき存在なのだと熱く語られて豪語された。

私の拒否権なく。



「まぁ、驚きました。ディア様の身体の中にニュクス様の残滓が残っているなんて。」



口に手を当てて、驚きを表すアディライト。

私と一緒に精霊王である皆んなと会ったディオン以外のコクヨウ、フィリア、フィリオの3人もアディライト同様に驚いている。



「アディライト、それを知った私も驚いたからね?精霊王である彼女達を呼び出した時、私へのスキンシップが激しかったし。」



私と会った時の精霊王である皆んなの喜びようと言ったら、表現のしようもない。

彼女達にデロデロに可愛がられた私は、小さな子供に戻った気分だったよ。



「と言うわけで、ニュクス様の残滓を持つ私は精霊王である自分達の子供のような存在よりも大切な最愛なんですって。」



あの時の事を思い出して苦笑いを浮かべる。



(なになに、何の話??)

(ディア様の頼みなら何でも聞くよ~)

(え、頼み事!?)

(叶える。頼み事は何?)



精霊王である彼女達の歓喜の感情に触発されたのか、他の精霊達も私へは好意的だ。

私の周りを飛び回る小さな精霊達。



「ありがとう、皆んな。」



ほっこりしつつ、小さな精霊達の頭を撫でれば嬉しそうに、またご機嫌に飛び回る。

この里に住む者達は全員、精霊の力で暮らしてきたのだ。

それが精霊達の怒りに触れ、そっぽを向かれたら暮らしていく事も困難になる。



「精霊の怒りに触れたら、この里に暮らしている皆んなが困る事になるだろうから、これで私達への反感も多少は抑えられるんじゃないかしら?」



それゆえ、妖精族、エルフ族は心の内で何を思っていても表立って人間である私を、その家族である皆んなの事を非難しない。

いや、精霊達の怒りに触れるから出来ないと言った方が正しいか。



「あらあら、この里に暮らす者達は、これから精霊達へのご機嫌取りが大変になりそうですね。今までたくさんの精霊の恩恵を受けてきたのですから。」



アディライトの口元が、ゆるゆりと何故だか楽しげにつり上がった。



「ア、アディライト!?」

「うふふ、ディア様へ敵意を向けた女性のエルフの事は忘れていないので、ディア様はご安心下さい。」

「何が!?」



今の不穏な会話に安心が出来る要素があった?

逆に不安なんですけど!?



「アディライト、ディア様へいやらしい目を向けていた男性エルフの事も忘れずに。」

「ちょっ、コクヨウ?」

「おや、一番に制裁が必要なのは、ディア様の事を見下していたあのゴミ屑の親子では?」

「なっ、ディオンまで!?」

「「粛清~!」」

「フィリア、フィリオ、物騒な言葉を覚えるんじゃありません!」



賑やかに夜は更けていく。

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