第199話 ディオンの父親

ディオンに寄り添う私に集まる鋭い視線。

ーーその喧嘩、受けて立ちますよ?



「うふふ、夫ともども里の中に入れていただけます?それとも、私が人間の妻だから貴方が大切にする妖精族の夫は里の中に入れないのかしら?」



さあ、どうする?

笑顔でエルフ達を見守る。



「っっ、妖精様が人間の女を妻にするなど!」



が、どこにでもバカはいるもので。

ディオンに寄り添う私に、醜悪な表情を向ける女性エルフ。



「するなど、何だ?」



だが、それを許すディオンではない。

私を敵視する女性エルフにディオンが冷たい眼差しを向けた。

極寒の眼差しである。



「私の妻が人間だから、一体、何だと言うのだ?」

「っっ、せ、妖精様には、人間の妻など相応しくありません!」

「黙れ!私の妻である方を愚弄するつもりか!?」



喚く女性エルフに、ディオンが一喝。

私至上主義のディオンが、そんな意見を受け入れるはずもない。



「なっ、そのような、」

「では、何だと言うのだ?」

「っっ、」

「先程も言ったはずだ。私の妻である彼女への言葉遣いには気をつけろと。」



この場を支配する、ディオンの殺気。

向けられるディオンの殺気に女性エルフが顔を青ざめさせる。

あらあら、大変。



「うふふ、貴方は私の夫であるディオンの事が欲しくなったのかしら?」



私が売られた喧嘩なのに、ね?



「私よりも自分の方がディオンの妻に相応しいとでも言いたいの?」

「はっ、貴様ごときが我が妻に張り合おうなど身の程を知れ。」



鼻で笑うディオンを見上げる。



「あら、ディオン、恋する事は彼女の自由よ?私の旦那様はこんなにも素敵なのだから、恋してしまうのも仕方ないわ。」

「ただ人間だからと他者を見下すような者など、何があっても私はお断りです。」

「ふふ、ですってよ?」



女性エルフに嘲笑の笑みを向け、諦めろと仄めかす。

お前はお呼びではないと、いい加減理解しろと、お前は選ばれないのだと、ふわりと私が笑顔を深めれば、女性エルフの顔に屈辱の色が宿った。



「っっ、この、」

「良いの?私に手を出せば、貴方達の大事な妖精族のディオンが黙ってないわよ?」



私は、それでも良いが。

射殺さんばかりの形相で睨みつけてくる女性エルフからの眼差しを悠然と受け入れる。

そろそろかしら?



「ーー・・お前達、何をしている。」



私の待ち望んだ人の登場は。



「っっ、長!」

「ムググ様!」



一対の羽を煌めかせた妖精が現れた瞬間、エルフ達が恐縮する様に一斉に頭を下げる。



「・・ようやく、」



ーーーー貴方に会えました、ディオンのお父様。

ひっそりと微笑む。



「精霊様達が騒いでいるから来てみれば、何を揉めておるのだ?」

「そ、それが、」



長であるディオンの父親に咎められ、私達に向けられるエルフ達の視線。

ディオンの父親の視線も私達へと向けられる。



「っっ、なっ、ディ、ディオン!?」



驚愕に大きく見開く瞳。

戦慄く口元。



「しかも、ディオン、お前、羽が・・。」

「ーー久しぶりですね、父上。」



数年ぶりの再会。

しかし、ディオンの登場と揃った羽に驚く実の父親に対してディオンの声は素っ気ない。

まぁ、当然だろうけど。



「っっ、お前、なぜ、ここに!?」

「本日は私の妻のご紹介に参りました。」

「妻・・?」

「初めまして、ディオンのお父様。この度ディオンの妻となりました、わたくしディアレンシア・ソウルと申します。」



ディオンの隣に寄り添ったまま、お父様へ挨拶。



「・・人間を妻に、だと?」

「いけませんか?」



ディオンが父親に冷ややかな目を向ける。



「っっ、一体、お前はどれだけ私の顔に泥を塗るつもりなのだ!?人間を妻にするなど尊き我が妖精族の血を、お前は汚すつもりなのか!?」



嫌悪感、敵意、軽蔑。

ディオンへ向けられる悪意。



「この尊き妖精族の出来損ないがッ!」



私のディオンによくも!!

ーー許さないよ?

ディオンの父親へ向けて、私は嘲りの笑みを口元に刻んだ。



「まぁ、実の息子を忌み児だからと捨てる方の、本当に素晴らしい発言です事。」



親だから偉いの?

子供は自分の言いなりになる道具?

・・ふざけるな。



「ですが、今のディオンは貴方に嘲られる様な存在ではありませんよ?昔とは違い、ちゃんと羽が揃っていますもの。」

「無礼者!誰に対して口を聞いておる!」

「ふふ、私が無礼者?」



ほう、なるほど。

人間の私は、この場で話す事も許されない、と?

ふーん、へぇ。

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