第198話 結界と迎え

私至上主義の皆んなの事、暴言を吐いた者を悠々と始末しそうだ。

目を光らせておかねば。



「皆んな、少し私の為に我慢してよね?」



私が遊ぶんだから。



「・・・あんな者達の事など、ディア様は捨て置けばいいのです。」

「ディオン?」

「・・・うっ、努力、は、します。」



なぜ目を逸らす?

目を逸らすディオンに半目になりながら周囲を見れば、他の皆んなも同様に明後日の方向を向いている。

だから、なぜ目を逸らすの?



「ーー・・今回は私の許可なしに彼等を勝手に始末したら怒るから。」



ジト目を皆んなへ向ける。

今回の相手は私の大切な獲物なんだから。



「分かった?」



強く念を押せば、渋々と頷く皆んな。



「それに考えてみて?私達を色々と貶した者達が後で這い蹲り、許しを乞う姿を。」



その時、言ってやれば良い。

ーー自分達より劣る者に媚び諂うのですか、と。



「ふふ、笑えるじゃない?」



どんな顔をして自分達が貶した相手に許しを乞うのかしらね?

今から楽しみだわ。



「それとも、プライドが邪魔をして謝る事もしないかしら?」



ディオンを簡単に切り捨てた者達だもの。

自分を守るのは得意そう。



「まぁ、何があろうとも私は絶対に許さないけど。」



仄暗く笑う。

同じ痛みを知れば良い。

ディオンや私達と同じ、見捨てられると言う痛みと恐怖を。



「その為の種はすでに蒔いたもの。」



この日の為に。

ディオンへ私は微笑んだ。



(ディア様。)



その時、馬車の運転を任せているエトワールから念話が入る。



(今、迷いの森へ入りました。)



ーーと。

迷いの森と呼ばれる奥に妖精族とエルフ族とが暮らしている里がある。

しかし、その場所へ辿り着ける者はいない。



「ーー強固な結界、ね。」



結界を手で触れる。

私の侵入を固く拒むように、向こう側へ手は行けない。



「この森は侵入者を惑わし、結界で自分達の住む場所へ入れなくしているって所かしら?」



だから迷いの森。

自分達以外の者を拒む一族。



「でも、無理矢理すれば、この結界ぐらいなら壊せそう。」



が、そんなの私には関係ない事。

目的の場所はこの先にあり、会いたい者達も、この向こうにいる。



「いっその事、この結界ごと全てを吹き飛ばせば良いのでは?」



ディオンが物騒に呟く。

結界の向こう側にいる者達への情は、一切ないらしい。



「もう、ディオン、いつまでも拗ねないで。」



ディオンを嗜める。

私の関心が、ここしばらくディオンの一族に向いているのが気に入らないのは分かるが。



「それに、」



ちらりと周囲へ目を向ける。



「さっそく私達へのお迎えが、あちらから来てくれた事だし、ね?」



敵意は数人。

木々に紛れて隠れているつもりだろうが、私達には無意味。



「ーー・・そう、こそこそと隠れて見ていないで、出ていらしたら?」



隠れている場所を1点ずつ見る。



「・・チッ、」



小さな舌打ちが聞こえ後、その者達は私の前に姿を現わす。

敵意の目を向けたまま。



「ふふ、初めまして、エルフの皆さん。」



現れたのは男女のエルフ。

男女数人のエルフ全員が整った顔立ちをしている。

私のディオンには負けるが。



「・・人間、この場所へ来た目的は一体なんだ?」

「夫の故郷へ挨拶に来ただけですよ?」



エルフのリーダ格へ微笑む。

なぜか、その途端にリーダ格はその顔を赤くするのだが。

・・はて、なぜだ?



「っっ、夫?」

「えぇ、ねぇ、ディオン?」

「はい、ディア様。」



私が促せば、すっぽり頭から被っていたフードを取り払い、ディオンはその羽を露わにする。



「なっ、妖精様!?」

「まさか、人間を妻にしたと言うのか!?」

「妖精様が、なぜ人間なんかと!?」

「なんと麗しいの!」



阿鼻叫喚。

どよめきと悲鳴が森の中で木霊する。

女性エルフはディオンへ熱い眼差しを向けているのが気に食わないが。



「っっ、な、なぜ、妖精様が人間の女なんか、と?」

「おい、お前は何も聞いていなかったのか?彼女は私の大切な妻だ。」


リーダー格の男性エルフの言葉をディオンが冷たく遮る。



「彼女への言葉には十分に気をつけろ。」

「そんなっ、!?」



ディオンに会えて嬉しい。

だが、何よりも崇拝する妖精が自分達の格下である人間の妻を連れているのは不快。

そんな感情がありありとエルフ族達の顔から伺える。



「うふふ、今日は夫、ディオンの里帰りに来たのですが、いけなかったでしょうか?」



ぴったりディオンへと寄り添う。

精霊、その子孫である妖精族を崇拝するエルフ達へ私は良い笑顔を向けた。

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