第186話 疑惑の芽
憐れみの目をカーシュ公へ向けてしまう。
「カーシュ公、残念ね。陛下にとって、今や貴方は罪人で取るに足らない存在なんですって。」
浮かぶ嘲笑。
「なっ、何だと貴様、っっ、!」
カーシュ公の顔が赤らむ。
怒ったらしい。
ただカーシュ公へ私は事実を言っただけなのに。
「うるさい、叫ばずに黙ってろ。」
うるさいゴミ屑の頭を踏みつけ、黙らせる。
邪魔をするな、ゴミ屑。
「少し大人しくしててね?ゴミ屑さん?」
今から貴方の事について、とても大事な話を王ミハイル様とするんだから。
言い聞かせて、王ミハイル様へ向き合う。
「ゴミ屑を騒がせて申し訳ありません。では、このゴミ屑を処刑するのは1年後にして下さいませんか?」
「・・なぜ、と、聞いても?」
「直ぐに始末、いえ、処罰したい気持ちは分かりますが、ゴミ屑の余罪がないか全てを洗い出した方が良いかと。」
「・・始末・・。」
おい、引かないの、皆んな。
どんなに言葉をオブラートに包んでも、貴方達もゴミ屑へやろうとしている事は私と一緒だからね?
「カーシュ公には、まだ余罪もあると?」
宰相が最初に立ち直る。
さすが、この国を支える宰相様。
「さぁ?」
宰相様、私に聞いてどうするのさ。
私、一般市民ですよ?
「例えば、そう、もしかしたらの話ですよ?強欲なこの男が王位欲しさに他国と密約していても可笑しくないでしょう?」
種を蒔く。
カーシュ公への疑惑と言う名の種を。
「「「っっ、!?」」」
あり得そうな事実に、この場にいる皆んなの顔色が変わった。
一斉にカーシュ公へ向けられる、疑惑の目。
「このゴミ屑と、楽しいお話の時間は必要だと思うんですよ。だって、」
ーー・・王弟であるカーシュ公の手引きで、この国に他国の密偵がいたら大事でしょう?
良い笑顔を王達へ向ける。
「ですから、厳選なる調査の1年後に処刑がよろしいかと。」
疑惑の種は撒いた。
あとは、それに私が水を与えるだけ。
カーシュ公、知ってる?
疑惑は時に恐怖に変わるんだよ?
「1年の猶予の間、カーシュ公は厳重な監視の下、その疑惑をはっきりさせて下さいな。」
時間をかけて、ね?
「ーーーーあい、分かった。」
「っっ、なっ、ミハエルっっ、いぅ、」
頷いた王ミハイル様へ抗議の声を上げようとしたゴミ屑の頭を踏んでいる足に力を込めて黙らせる。
「うるさい、ゴミ屑。あんたの意見なんか今は必要ないんだから、黙ってて。」
「ぐっ、う、」
痛みにゴミ屑から呻き声が上がるが、知らん。
ただのゴミ屑に慈悲はない。
「分かった?」
「あ、う、」
「返事は?」
「っっ、」
「へ・ん・じ・は?また痛みを身体に与えられないと理解が出来ない?」
「・・ひっ、わ、分かっ、た、」
うん、素直でよろしい。
やっぱり与えられる痛みは人を素直にさせるよね。
「陛下、また足元のゴミ屑がお騒がせしました。話を続けましょう。」
「う、うむ、そ、そうだな!そうしよう!」
王ミハイル様の目が逸らされる。
逸らされた目に、私への恐怖の色が宿ったのは見間違いかい?
「では、このゴミ屑をお返しするので、しっかりと調査して下さい。」
ぐりぐりと、地面に這いつくばるゴミ屑の頭を踏みつけていた足を退ける。
一緒に手足の氷漬けも解いておく。
「ソウル様、感謝する。衛兵、この犯罪者を地下牢へ連れて行け。」
「「はっ、」」
王ミハイル様の命令で動き出す数人の兵達。
すぐさま、ゴミ屑であるカーシュ公の身体を兵達が拘束する。
「ーー・・あぁ、最後に。」
拘束されて項垂れるゴミ屑の側へと近づくと、そっと教えてあげた。
「訪れるであろう死の恐怖をじわじわと味わいながら、1年後の己の処刑の日までみっともなく足掻きながら生きなさい?」
・・・残酷な現実を。
怯えるカーシュ公へ、優しく微笑んだ。
「っっ、あ、あぁ、」
「ふふ、カーシュ公、1年後の最後の日まで頑張って下さいね?」
あるかも知れない余罪なんか、どうでも良い。
ーーーー・・カーシュ公、私は貴方へ死ぬほどの恐怖を与えたいの。
「・・それが、ソウル嬢が兄上へ与える罰なのか。」
私の隠された真意を理解して、王ミハイル様がひっそりと呟く。
「ふふふ、カーシュ公には、とても相応しい末路でしょう?」
「・・・。」
「陛下、私の邪魔をしないで下さいね?」
「・・あぁ、」
頷いて了承を示した王ミハイル様に満足して、私は踵を返した。
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