第160話 何も考えない夜

リリスからの報告に頭がおかしくなるかと思った。

大事なアスラとユエの事を、カーシュ公が私から奪おうとしている?

邪魔な弟を押し除け、王位を得る為に?



「王位争いは勝手にしてよ!私達は、何も関係ないじゃない!」



私達を巻き込むな。

しかも、この世界を私の大事なアスラとユエの力を使って、カーシュ公が征服?

出来る訳がない。



「あんな無能が国の王になる?この世界の覇者?」



国や世界が崩壊するわ。

そんなアホな妄言は夢の中だけにしてくれ。



「ーー・・憎い。」



湧き上がるカーシュ公への増悪。

叶うなら今すぐにでもカーシュ公の元へ赴き、その息の根を止めてしまいたい。

カーシュ公への殺意が膨れ上がっていく。



「ディア様?」

「どうか、されましたか?」



ぎりぎりの境界線。

その境界線を超えなかったのは、私には大切な存在がたくさんあるから。



「っっ、コクヨウ、ディオン、!!」



寝室に入って来たコクヨウとディオンの2人の身体に抱き付く。

嫌だ、怖い。

なぜ、私から皆んなを奪おうとするの?



「大丈夫です。」

「ディア様、私達がお側におります。」



恐怖に震える私の身体を、コクヨウとディオンの腕が掻き抱く。

このまま溶け合えれば良い。

そうすれば、私達は絶対に離れる事は、これから先ないから。



「何があったのですか?」

「ディア様の不安を、私達にもお与え下さい。」

「あの、ね?」



カーシュ公への憎しみが、この身を焦がす。

この憎しみの感情は、私の中からどうすれば消えるの?



「・・・ディア様の逆鱗に触れるとは。」

「カーシュ公は愚かですね。」



2人が冷たく笑う。



「それで、ディア様は不安に?」

「アスラ様も、ユエ様も簡単にはカーシュ公などに捕まるような方ではありませんよ?」

「・・分かってる、けど、」



不安が消えない。

カーシュ公に対する、どろどろとした負の感情が、今も私の身体の中を駆け巡っている。

気持ちが悪い。



「っっ、消えないの、このどろどろした気持ちが悪い感情が!」



コクヨウとディオンの2人に縋り付く。



「・・では、ディア様の手でカーシュ公を始末しますか?」

「っっ、」



コクヨウの甘い誘惑に頷きたくなる衝動を、どうにか押さえ込む。

王からの断罪だけでは、罰が足りない。

私の中の残酷な一面が囁く。



『ーーー・・ほら、思うがまま、力を振るえば良いでしょう?』



カーシュ公を消してしまえと。



「・・でも、簡単に終わらせてしまうのも嫌。ずっと長い間、カーシュ公には苦しんでもらわなきゃ。」



王から断罪された後、カーシュ公に何が残る?

地位も名誉も自分の愚かな行いで失って、あるのは身体に流れる王家の血だけ。

それが、カーシュ公が愚かな考えを持った代償。



「ざまぁ、みろ。」



自分の愚かな考えが身の破滅を招いたのだ。

私は待てば良い。

カーシュ公が王によって全てを失う時を。



「っっ、でも、」



そう頭では分かっていても、全く気が晴れない。

カーシュ公への憎しみが消えないの。



「大丈夫、ディア様は何も失いません。そんな風に憂える事など何1つないのです。」

「私達がディア様の望むままの事を叶えてみせますよ。カーシュ公の愚かな目論見は泡となり消えるでしょう。」

「・・・本当?」



誰も私の前から消えない?

私は失わないの?



「ディア様が、それを望むのなら。」

「どんな事をしても、誰一人としてディア様のお側から欠ける者など出しません。」

「ん、」



私の側から誰も欠けないで。

この今の幸せだけは永遠であって欲しい。

願う事は罪なの?



「・・コクヨウ、ディオン。」



私の事をどこまでも甘えさせてくれる夫の2人に手を伸ばす。



「はい、ディア様。」

「ディア様、なんでしょう?」

「お願い、嫌な事は全て忘れさせて?」



何もかも。

私の不安も恐怖心も2人が全て奪い去って。



「喜んで、ディア。」

「ディア、貴方が望むなら。」



ディオンに抱き上げられて、コクヨウに手を握られたままベッドの上へ運ばれる。



「ディア、愛してます。」

「私達のディア。」



至る所に落ちる2人の口付け。



「ディア、オリバーの事も呼びますか?」

「あの者も、呼ばれて喜ぶのでは?」

「んぅ、良い、の、っっ、」



2人からの愛撫に嬌声を上げながら目を瞑る。

快感で身体が熱い。



「おや、オリバーはお呼びにならないのですか?」

「ふふ、呼ばれないなんてオリバーもお可哀想に。」

「っっ、あっ、そうやっ、て、2人が、オリバー、に、意地悪、っっ、言う、から、あ、ん、」



強く吸われる首筋。

また嬌声が私の口から零れ落ちる。



「・・・妬け、ますね。」

「えぇ、ディア?オリバーだけ特別扱いはいけませんよ?」

「んん、してない、」



一体、なんで、そんな話になるの?

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