第159話 閑話:主人の怒り
リリスside
私の周りに集まる小さな蜘蛛達。
可愛い私の子。
そして、私の優秀な配下達である。
「皆んな報告ご苦労様。このまま引き続きあの者の監視を頼むわ。」
私の指示で散る配下達。
「さて、あの子達が集めた情報をディア様にご報告しなくては。」
監視対象のカーシュ公。
各国の要人が集められた、Sランク冒険者となったディア様のお披露目会。
そのお披露目会の警備の為に集められたカーシュ公の息のかかった兵達。
が、カーシュ公の本当の目的がディア様、ひいてはその従魔であるアスラとユエなのだと知っている。
「・・激怒、されますね。」
間違いなく、カーシュ公が自分の大事な従魔であるアスラとユエを狙うと言う報告を受けたディア様は激怒されるに違いない。
なぜ、ディア様の逆鱗に触れるのか。
バカが余計な事をしてくれる、と、私は1人頭を抱えるしかなかった。
「阿呆、なのですね。」
理解力のない。
ディア様の従魔であるアスラとユエが一番の脅威なのではないのだから。
「絶対に怒らせてはいけないのは、ディア様の方だと言うのに。」
溜息を吐いた私はディア様の元へとカーシュ公の愚かの野望の報告に向かった。
その足取りは重い。
「ーーーー・・へぇ、私の大事なアスラとユエの事をカーシュ公が狙っている、ねぇ?」
私から報告を聞いたディア様の目が細まる。
上がる口角。
しかし、ディア様の目は全く笑っていない。
「ふふ、リリス、私からアスラとユエを奪おうと考えているカーシュ公をどうしてあげようか?」
案の定、静かに怒るディア様。
ディア様からほとばしる魔力が、ぴりぴりと私の肌に痛いくらいだ。
「全ては、ディア様のお心のままに。」
怒るディア様に頭を下げる。
ディア様を怒らせたカーシュ公を私が助けてやる義理など何1つない。
眠れる脅威を覚ましたのは、間違いなくバカで阿呆なカーシュ公本人なのだから。
「あんなに私が言い聞かせたのに何も理解しないカーシュ公は、そんなに死にたいのかしら?自殺願望を持っている様には見えなかったわ。」
「ディア様、バカとアホは身をもって体験しないと理解が出来ないのではないでしょうか?」
「あら、本当に血筋しか誇れるものがないのね、カーシュ公は。なら、その血筋さえも失ってもらいましょう。」
艶然とディア様が微笑む。
「リリス、カーシュ公の悪事の証拠は?」
「全て私の手元に。」
「なら、それを王城へ。」
「・・王城へ、ですか?」
「だって、カーシュ公の不始末は、身内が片付けるものでしょう?」
「王に判断を委ねる、と?」
「それがカーシュ公にとって、1番もっとも堪える罰だもの。」
この国の王位を望む故、アスラとユエの力を得ようと企み、ディア様の逆鱗に触れたカーシュ公。
憎む王に断罪される。
確かに、もっともカーシュ公にとって辛い罰だろう。
「認めたくない、憎い王である弟に断罪されるカーシュ公の顔は見ものね。」
格下だと信じてる弟からの断罪。
それを、あのカーシュ公が正気を持って受け入れるのだろうか?
「・・足掻く、でしょうね。」
「ふふ、リリス、それも良いんじゃない?足掻けば、それだけカーシュ公の罪状が増えるだけだもの。」
「自業自得と言う訳ですか。」
「そ、カーシュ公は自分でその首を絞めるのよ。ふふ、バカよね。」
お似合いの結末だとディア様は笑う。
「リリス、私に逐一カーシュ公の動きを報告して。カーシュ公がこちらへ攻撃するようなら、その時は私が相手するわ。」
「かしこまりました。」
本当なら、私の手で粗末な者の後始末は終わらせてしまいたい。
が、ディア様のご命令。
「誰に手を出したか、カーシュ公には、その身に分からせてあげなきゃ。」
ーーー・・私に怒るディア様を諌める術はない。
ディア様の怒りに身体が震える。
明確な死の恐怖。
「ふふ、大事なリリスを怖がらせてしまったわね。ごめんね、リリス。」
するりと、私の頬をディア様の手が撫でる。
霧散する、ディア様の威圧。
「大丈夫、何があっても私はリリスの事を傷つけないわ。だって貴方は、私の大事な子なのだもの。」
普段の優しい声で、ディア様が微笑んだ。
「だから、リリス、早く邪魔者は消しましょう?私から皆んなを奪おうと考える邪魔者を。」
・・あぁ、魅せられる。
この方の強い独占欲と執着心を露にする姿に。
「カーシュ公、終わりましたね。」
同情はする。
手を出してはいけない相手の逆鱗に触れたカーシュ公の未来は、これで潰えるだろう。
それで、カーシュ公の事を私が許す訳がないのだが。
「浅はかにもディア様を狙った報い、その身で贖ってもらいましょう。」
カーシュ公に慈悲を与える?
あり得ない。
私の逆鱗にもカーシュ公は触れたのだから。
「皆んなにもカーシュ公の事があるから、しばらくの間は警戒させてね?」
「はい、皆んなへ周知させておきます。」
「そう、お願いね、リリス。」
ソファーから立ち上がったディア様が、寝室へ消えるのを見送った。
私は貴方様の僕。
「貴方様に尽くす事こそ、私の喜びなのです。」
全ては、唯一無二の主人の為。
「ーーー・・お前達、やる事は分かっているわね?」
私の周りに集まる配下達。
幾つかの指示を飛ばし、私は闇の中に溶け込んだ。
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