第6章〜宮廷編〜

第152話 閑話:仄暗い野望

カーシュ公side




この国の王位は、本来は私のものだったのだ。

輝かしい未来は、この私のもの。

だが、実際はどうだ?

私のものであったはずのこの国の王位は。

皆から崇められるべき私の場所は、何故か異母弟が継ぐ事になった。

長子である、この私ではなく。



「っっ、私は先代の王の第一王子だったのだ!なのに、私が側室の子だと言う理由だけで弟がこの国の王になるなど絶対に許せぬ!」



カーシュ公、ライトハルは異母弟であるミハエルを、自分から王位を奪った張本人として恨んでいる。

心の底から増悪するほどに。



「この高貴な私が、弟の臣下だと!?あの弟の下で、臣下として私に頭を下げろと言うのか!!?」



これほどの屈辱があるだろうか?



「弟であるのなら、この兄である私に全てを捧げるべきなのだ。なのに、この私から王位を盗んだ弟は我が物顔で見下し、馬鹿にしてくるではないか!!」



忌々しい。

何度、その場所から異母弟を引き摺り落とそうとした事か。



「今回の魔族の暗躍で、ようやくミハエルを王位から引き摺り下ろせる筈だったのだ!ようやく訪れた好機だったと言うに!」



今回の魔族の暗躍は、異母弟であるミハエルを王位から引き摺り下ろせる絶好の機会だった。

あんな無能な王より、この国の玉座は私の方が相応しいのだから。

が、実際に蓋を開けてみたら、私の計画はあの忌々しい冒険者の女のせいで頓挫する事になる。



『うふふ、カーシュ公も、そう思われませんか?』



たった1人の、憎たらしい小娘のせいで。

私の計画は狂った。



「っっ、あの小娘、この私を見下しおって!絶対に許しはしない!」



思い出すのは忌々しい小娘の事。

その容姿は、まぁ、素晴らしいと言えるだろう。

しかし、私に向けられる小娘の眼差しは軽蔑を含み、蔑むようなものだった。



「この私に対して、あの様な目を向けるとは!」



はらわたが煮え繰り返る。

ただの小娘が魔族を倒したからと言って、あそこま天狗になるとはなんたる事だろうか。



「しかも、あんな小娘がSランクモンスターを従魔として従えているとは計算外だった。その小娘と弟が遊戯を

結べば、ますます私の王位への道が遠のくでは無いか!」



誤算となった小娘の側にひっそりと寄り添う2匹の従魔。

フェンリルと九尾。

その気になったら、あの2匹だけで国1つ簡単に落とせるだろう。



「・・ん?簡単に国が落とせる?」



もしも、あの従魔の力が私のものになったら?



「ーー・・欲しい、な。」



この国の王位だけではなく、私は大陸全土を統べる覇者になれるのではないか?



「くくっ、それも悪く無い。」



一国の、ただの王で終わる私では無いのだ。

仄暗い野望を頭の中で企んでいれば、自室のドアが叩かれる。



「・・誰だ?」

「私です、お父様。」

「ミリーか、入りなさい。」



入室の許可を与えれば私の部屋の中へ入ってくる娘のミリー。



「ミリー、こんな夜更けにどうした?こんな時間に私の元へ来て私に何か用でもあるのか?」

「ねぇ、お父様、私と王太子様との婚約の話はどうなりましたか?」

「・・またその話か。王と王太子には打診はしておる。お前を王太子妃にどうかとな。」



娘のミリーは王太子妃となる野望を叶えんと躍起になっているらしい。

他の王太子妃候補の女達を蹴落として。



「もう、お父様はもっと強く王様へ私の事を押してくださいよ?なんせお父様は、王様の兄君なんですから従わせるなんて可能でしょう?」

「・・分かっておる。」



娘は別に王太子を好いている訳ではない。



「ふふふ、私がこの国の王太子妃に、未来の王妃になって必ず王子を生みますわ。そうすれば、お父様は未来の王の祖父になるのですから、我が家の栄華は確実のものとなりますわね。」



ただ、王太子妃の地位が欲しいのだ。

我が娘ながら権力に目がないもんだと血の繋がりを実感する。



「用はそれだけか?」

「まぁ、冷たい言い方。なんだか、今日のお父様はご機嫌が悪いようね。」

「ミリー、分かっているなら口を閉じなさい。もう用がないならこの部屋から出て行け。」

「はぁい、お父様。」



言いたい事を告げられて満足したのか、機嫌良くなったミリーが部屋を出て行く。



「ーーー・・未来の王の祖父に、か。」



それは何年先の話だ?

私はそんなに長く待つ事など出来ん。



「ミリーも王太子妃や王妃よりも、王の、覇者と呼ばれる者の娘としての地位で満足だろう。」



さて、あれをどう手に入れようか。

思案しながらテーブルの上のワイングラスへと手を伸ばす。



「あの忌々しい小娘を手中に収めれば、あの2匹の従魔など言う事を聞かす事も可能、か。」



小娘が今回Sランクになったのも、従魔の力があったからに違いない。

なら、あの小娘1人を捕まえる事など私の権力を持ってすれば容易いだろう。



「ーー・・くくっ、私がこの世界の全てを統べるのだ。」



1人私は上機嫌にワインを喉に流し込んだ。

気が付く訳がない。

自分のこの愚かな欲求が己の身を破滅へと向かわせている事を。



「さて、小娘をどうやって誘い出したものか。」



ソファーへと自分の身を沈める。

部屋の隅で蠢く闇。

1匹の蜘蛛が、そんな私の事をじっと見つめていた。



『ーーーディア様を捕まえる?自分の野心の為に?・・そう、あの男は私達から奪おうと言うのですね。尊い我が主人を。』



知るよしも無い。

男の邪な野心が彼女を敬愛する者達の逆鱗に触れた事を。



『害虫の駆除が必要ですね。』



ゆっくりと。

そして確実に、何も知らぬ男は破滅への道を進み始めていた。

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