第153話 シーリン商会

オリバーの充電と言う名の抱擁を受け続けた私は、名残惜しく思いながらシーリン商会へと足を向ける。

・・・帰ったら、オリバーにまたしてもらおうかな?



「あらあら、ディア様、頬が緩んでいらっしゃいますよ?一体、何を考えていらっしゃったんです?」

「っっ、!?」



アディライトの指摘に固まる。

・・わ、私、何を。



「や、アディライト、その、これは、なんでも、」

「なく無い、ですよね?その顔は。」

「はうっ、」



ひ、否定が出来ない。

あまりの羞恥に顔を赤らめる。



「これから、ディア様は商談をされるのでしょう?」

「・・そうです。」

「そんな風に頬を緩ませて浮ついていたらいけませんよ?」

「はい、ごめんなさい。」



アディライトからの指摘は全て正論過ぎて返す言葉も見つかりませんです、はい。

・・・はぁ、反省しよう。



「ーー・・可愛らしいディア様のお顔を、勿体無くて他の者達に見せられませんわ。」



落ち込んでいた私は、アディライトが小さく呟いていた事も。

他の皆んなが私に目を向ける周囲を威嚇していた事にも全く気がつく訳もなかった。



「ーーさぁ、ディア様。さっさと行きましょうね?」

「うん。」



アディライトと手を繋ぎ、シーリン商会までの道を歩く。

シーリン商会へ言付けに行ってくれたアディライト曰く、相手も私が来る事を心待ちにしているのだとか。

あちらの世界にあった、色々な商品のアイディアはあるが、そんなに期待されるとプレッシャーを感じてしまう。



「ーー・・着きましたよ、ディア様。」



ある1つの建物の前で立ち止まるアディライト。

私達の目の前には大きな建物。



「おお、とっても大きいお店だね、シーリン商会は。」

「シーリン商会と言えば、この街一番の豪商ですからね。」



ふむ、この街一番、か。

これは気合いを入れて私も挑まねば。



「よし、」



気を引き締めて目の前の立派なシーリン商会の扉を開けた。



「いらっしゃいませ!」



鈴の音がして、シーリン商会の店員が私達の方へ笑顔を向ける。



「お客様、御来店ありがとうございます。本日は何か商品をお探しですか?」

「いえ、今日は買い物ではなく、ルドヴィックさんと約束しているのですが。」

「もしや、ディアレンシア・ソウル様でしょうか?」

「はい、そうです。」

「ディアレンシア・ソウル様、お待ちしておりました。ルドヴィック様が奥でお待ちですので、ご案内させていただきます。」



店員さんに奥へと通される私達。

魔族であるフィリアとフィリオやコクヨウに対しても嫌悪感を向けない店員さんに私の好感度は上がる。

あえてコクヨウ達の事を隠さないのも、シーリン商会の対応を見たかったからだ。



「さすが、この街一番の豪商。」



店員の質も良い。

私も商談相手として安心できる。



「ルドヴィック様、ディアレンシア・ソウル様をお連れしました。」



お店の際奥。

店員さんは1つの扉の前に止まると、中へと声をかけた。



「ーー中へお通ししなさい。」



静かに答える声に店員さんが扉を開ける。



「ディアレンシア・ソウル様、部屋の中へどうぞ。」



一歩、店員さんが身体を退けた横を通り抜けて私達は部屋の中へ足を踏み入れた。



「ソウル様、ようこそ、我がシーリン商会へお越し下さいました。」



部屋の中。

シーリン商会の主人、ルドヴィックさんが笑顔で私達を出迎えた。

広い部屋の中は中央にテーブル。

そして、左右にソファーがあり、この部屋が応接間として使われている事が分かる。



「ルドヴィックさん、本日はお時間を下さり、ありがとうございます。」

「いえいえ、こちらこそ新しい商売の話をいただけると聞いて嬉しい限りですよ。」



お互い握手を交わす。



「ルドヴィックさんのご期待に添えるよう、今日は有意義な話が出来れば幸いです。」

「まぁ、堅苦しいのは抜きにして、どうぞソファーへお座り下さい。」



ルドヴィックさんに勧められ、私はソファーへと腰を下ろす。

私以外の皆んなは、定位置の後ろで立ったままだが。



「で、ソウル様がお持ちの、我がシーリン商会に売りたい商品のアイデアとはどのようなものでしょう?」

「色々とありますが、まずは娯楽品についてのアイデアから始めさせていただきます。」



この世界は娯楽が少ない。

なら、日本の娯楽品をこの世界で商品にしたら?



「ほう、娯楽品ですか。」



ーーーー娯楽に飢えた人達に売れない訳がない。

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