第151話 勘違いと約束

私達の間に沈黙が流れる。

あ、あれ?



「・・あ、あの、オリバー?」



私の勘違いだった?



「・・・・あの、ディア様。」

「は、はい?」

「俺はディア様の事を嫌いになってなんかいませよ?」

「そう、なの?」



脱力。

やっぱり私の勘違いだったんだ。



「っっ、良かったッ、」



目の前のオリバーの肩に顔を埋める。



「で、ディア様!?」

「ふぇ、オリバーに嫌われたかと思ったっっ、」

「な、泣かないで、下さい、ディア様。」

「っっ、無理ぃ、」



これも全部、オリバーのせいだ。



「・・どうしたら、ディア様は泣き止んで下さいますか?」



オリバーに背中を撫でられる。


「・・、言って、」

「はい?」

「っっ、私の、事、好きって、言って、オリバー。」

「・・そ、れ、は、」

「忘れろ、なんて、言わないで。」



どうして、昨日のオリバーの言葉を私は忘れなきゃいけないの?

嬉しかった。

オリバーから強く求められて、本当に心から嬉しかったの。



「ーー・・、オリバー、好き。」



好きだよ、オリバー。

だから昨日のオリバーからの告白を忘れろなんて、そんな悲しい事言わないで?

私の背を撫でていたオリバーの手が急にピタリと止まる。



「・・・?」



怪訝に見上げれば、真っ赤になって固まるオリバーがいた。



「オリバー?」

「・・す、き?」

「うん?」

「・・ディア様が?」

「ん、」

「・・俺を?」

「好き、オリバーが。」

「っっ、」



ますます赤くなるオリバーの顔。



「オリバーは?」

「ーーー・・・好き、です、ディア様が。」

「ん、もう、忘れろなんて言わない?」

「っっ、言いません!何があっても、絶対に!!」

「・・約束?」

「はい、約束します。」

「じゃあ、約束、ね?」



オリバーへ、自分の小指を差し出す。



「・・?ディア様、この小指は?」

「私の故郷の約束の仕方なの。小指をこうして絡めて誓いの言葉を交わす。」

「誓いの言葉、ですか?」

「そう、約束破ったら針千本を飲ますって怖い約束。」

「針千本、それは、怖いですね。」

「ふふ、でしょう?」



2人笑い合う。



「オリバー、約束、ね?」

「はい、ディア様。何があろうとも約束します。」



しっかりと絡まるお互いの小指。

私達の小さな約束。



「・・・ねぇ、オリバー?」



小さな、そしてとても大事な約束を交わした私達。

穏やかな時間が流れる。



「はい?」

「なんで、オリバーは私に昨日の告白を忘れろなんて言ったの?」

「っっ、そ、それは、」

「それは?」

「・・・ディア様に振られると思ったんです。」

「へ?」



振られると思った?

えっと、私が、オリバーを、だよね?



「えっ、何で?」

「逆に聞きますが、俺がディア様に好かれるよう要素がありますか?」

「へ?あるけど?」



そんなの、たくさんあるよ?

オリバーが目を見開く。



「・・・、あるん、ですか?」

「うん、あるよ?例えば妹の為に何でも出来る所とか?」



妹の為に頭を下げられる優しい人。



「クロエを守るって小さい頃の約束を、ちゃんと忘れずにブレない所とか、ね?」



人は自分が楽になれる方へと流されやすい。

それは、弱いから。

簡単に信念を曲げ、目の前の嫌な事や困難な原因から目を逸らす。



「っっ、なっ、それ、どうして!?」

「ふふ、クロエに聞いちゃった。」



驚くオリバーに舌を出す。



「ーーーー・・ねぇ、オリバーは強いね?」

「俺が強い、ですか?いえ、ディア様達に比べたら、全然弱いと思いますよ?」

「力じゃなくて、心が、だよ。」

「心が?」

「そう、オリバーは心がとても強いと私は思う。私が羨むほどに。」



私には眩しい人。



「その、オリバーの心が欲しいと思ったの、私は。」



だからこそ、オリバーに惹かれた。

欲しいと思ったの。

ーー・・心の弱い私は。



「・・不順な動機で、がっかりした?」

「いいえ。」



穏やかにオリバーは笑った。



「少し、自分を誇らしく思えました。ディア様のお陰です。」

「・・誇らしく思えたの?」

「はい、妹に、クロエに何も出来ない自分の事が俺は嫌いでしたから。」



・・・その気持ち、分かる気がする。

前の私も、そうだったから。



「ディア様、俺に出会って下さり、ありがとうございます。」

「ん、」

「愛してます、ディア様。」

「っっ、私、も、好き。愛してる、オリバー。」



オリバー、貴方に私をあげる。

だから、オリバー?



「ーー・・私に、オリバーを頂戴?」



永遠の愛を。



「っっ、あっ、」

「ディア様、何です?」

「コクヨウとディオンの2人が、オリバーにとっても意地悪なんだよ!」

「意地悪?」

「しばらくしたら私は次の街へ行くじゃない?そうしたら、オリバーと少しの間だけ離れる事になるでしょう?」

「・・・、なり、ますね。」

「それを2人は全く思ってない顔でオリバーは可哀想だって。あの顔は絶対に楽しんでる感じだった!」

「・・・。」



黙り込んでしまうオリバー。



「・・・それは、意地悪と言うより、拷問ですね。」

「へ?」

「はぁ、」



オリバーは強く私を抱き締める。



「オリバー?」

「充電させて下さい。」

「はい?充電?」

「ディア様を充電、です。全く足りないです、ディア様が。」

「っっ、」



私の顔が真っ赤に染まった。

ーーー・・幸せの中にいた私に、その手紙が届いたのはこの日の夕方の事。

人の悪意は私へ迫りつつある。

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