第150話 幸せとは

空っぽな心が満たされていく。

もっと、頂戴?

コクヨウ、ディオン、貴方達からの愛を。



「オリバーの事も、ディア様の夫の1人にお迎え下さい。」

「あの者は将来的に有望な人間になりそうですからね。」

「・・ん、ありがとう。」



2人の手を握る。



「ふふ、ですが、しばらくしたらオリバーはディア様と離れる事になりますけどね。」



にこやかにコクヨウが笑う。



「ディア様へ敵意を向けた者を簡単に私達が許すと思いますか?」



そして、ディオンも。



「へ?私のとオリバーが離れる?」

「ふふ、ディア様、お忘れですか?馬車が完成したら僕達は次の街へ出かける事を。」

「オリバーはディア様に受け入れていただいても、ほんの少ししたらお側を離れる事になるなんて可哀想に。」

「えぇ、可哀想です、オリバーは。」

「・・・。」



・・絶対に思ってない。

その顔はオリバーが可哀想なんて2人とも微塵も思ってないよね!?

壮絶な微笑を浮かべる2人に顔が引き攣る。

オリバー、なんか、ごめん。



「・・・えっと、2人ともオリバーへの意地悪もほどほどに、ね?」



あの時はクロエの事で必死で、オリバーに悪気があった訳じゃないんだから。



「あれ、オリバーの事を特別扱いですか?」

「ディア様、私達に冷たいのでは?」

「なんで、そうなるのッ!?」



可笑しい。

ここは私が責められる所なのか?



「ディア様、オリバー1人だけを特別扱いしてはいけませんよ?」

「平等に愛していただかなければ、ね?」



あ、あれ?

じりじりと私へと躙り寄る2人に身の危険を、なぜか強く感じる。



「こ、コクヨウ?でぃ、ディオン?」

「なんでしょう、ディア?」

「なんですか、ディア?」

「っっ、!?」



ここで、まさかの呼び捨て、だと!?

頬が染まる。



「ディア、顔が赤いですよ?」

「照れていらっしゃるのですが、ディア?」

「・・あう、」



2人に翻弄される私。

・・・全く勝てる気がしません。



「うぅ、意地悪。」

「そんは僕は嫌い、ですか?」

「私を、ご不快で?」

「ーーー・・す、き、だよ、」



どんな2人の事も。

私の言葉に2人は嬉しそうに微笑んだ。



「僕も好きです、ディア。」

「ディア、愛してます。」



2人から同時に頬へ口付けを受ける。



「・・・、手加減、してね?」



安心する2人の腕で目を閉じた私は、ゆっくりと力を抜いて身を任せた。

2人に愛された次の日の朝は気怠い。

動くのも億劫だ。



「ディア様、次は何を食べますか?」

「飲み物でもいかがでしょう?」



その一方で元気な2人。

コクヨウとディオンの2人が甲斐甲斐しく私の口に朝食を運んでくる。

なんだか理不尽過ぎやしないだろうか?

元凶は2人なのに。



「・・パン、次食べたい。」



どんなに理不尽だろうとお腹は空く。

欲求には勝てない。



「はい、次はパンですね?」

「ディア様、なんのパンが良いですか?」



そして、甘い眼差しで私を見つめる2人から与えられる溺愛にも。



「ディア様、本日のご予定はいかがなさいますか?」



朝食を食べ終えた後、アディライトに今日の予定を聞かれる。



「うーん、午後からシーリン商会へ行きたいかな?」

「では、前もってディア様が向かわれる事をシーリン商会の方へ伝えてまいります。」

「お願い出来る?」

「はい、お任せ下さい。」

「じゃあ、アスラも一緒に連れて行って?アディライト1人だと心配だから。」



過保護?

何とでも言ってくれ。

こんなに可愛いアディライトを、1人で街へ出かけさせられる訳がないでしょう!?

当然の処置です。



「まぁ、ふふ、ご心配ありがとうございます、ディア様。」

「ん、アスラ、お願い出来る?」

「任せるが良い。」



私の影から頼もしい返事。

これで、アディライトの身の安全は保障されたようなものだ。

アディライト本人が強かろうとも、不埒な者達に対しての防衛は何重にもあるべきなのだ。



「ーーーー・・さて、」



午後の予定の、その前に済ませなくては。

視線をオリバーへ向ける。



「オリバー?少し大事な話があるから私の部屋へ一緒に来てくれない?」

「えっ!?」



驚くオリバーの手を引き自室へ向かった。

コクヨウとディオンも私の話の内容を理解しているので、部屋にはオリバーと2人っきり。



「そこのソファーへ座って、オリバー。」



私の自室は寝室とリビングの2部屋と、お風呂とトイレが完備されている。

さすがは、大貴族様の持ち家だった物件と言えるだろう。

向き合って私達はソファーへ座る。



「で、こうして私がオリバーを呼んだのは大事な話があったからなの。」

「・・・話、ですか?ディア様が俺に?」

「そう、オリバーに大事な話。」



緊張するな。

震える手を握り締める。



「・・・オリバー、あの、昨日の告白の事、なんだ、けど、」

「っっ、」



オリバーが俯く。



「・・・?オリバー?」

「お忘れ下さい。」

「え?」

「っっ、昨日の夜に俺が言った事は、全てお忘れ下さい、ディア様。」



俯くオリバーを私は呆然と見つめた。

忘れて下さい?

私は血の気が引く音を聞いた。



「っっ、ど、して?」



声が震える。

オリバーの気持ちへ直ぐに答えられなかった私がいけなかったんだろうか?



「・・私の事を嫌いに、なっちゃった?」



だから、忘れて欲しいの?



「・・は?」



私の呟きに顔を上げたオリバーが、その目を見開く。



「っっ、な、なんでディア様は泣かれてるんですか!?」



慌てるオリバー。

すぐに私の前に飛んで来たオリバーの指先で、そっと涙を拭われる。

・・あれ?



「・・ねぇ、私の事、オリバーは嫌いになったんじゃないの?」

「はい?」

「・・・?」



その場に固まるオリバーに、私は首を傾げるしかなかった。

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