第147話 主人公には向かない

オリバーに告白の返事を返せずに終わってしまった私。

人の気持ちを試したがる自分自身に対して、深い自己嫌悪に陥る。



「・・はぁ、素直になるって難しい。」

「ふふ、ディア様はただ思っている事だけを言って下されば良いのです。皆んな、それで喜びますわ。」



オリバーが出て行った後。

直ぐに寝室へ入って来たアディライトの手によって、朝の身支度を整えるのが始まった。

私の髪を丁寧に櫛で梳きながら、アディライトが笑う。



「・・それが最低な事でも?」

「えぇ、それが最低な事でも、です。さぁ、準備が整いましたよ。」



笑ってアディライトが櫛を片付ける。

サラサラの銀色の髪。

毎朝アディライトによって丁寧に梳かれる私の髪は、光沢を放つ。



「私に甘すぎでしょ、皆んな。私が何を言っても、笑って受け入れそう。」

「うふふ、ディア様の願いを叶え、笑顔でいていただく、それが私達の至福ですもの。他に必要な事がありますか?」

「・・それが皆んなの幸せ?それで皆んなは良いの?」

「何が幸せかは、自分自身で決める事ですよ、ディア様。」



幸せは自分自身で決める、か。

今の私は幸せだ。

他の誰かが最低だと罵る事をしていても。

毎日が満たされている。



「それに、ディア様?この世界では一夫多妻が当たり前ですよ?」

「うん、ディオンも言ってた。」



この世界は日本とは少し価値観が違うんだよね。

一夫多妻も当たり前の事。

王族や貴族、それに近い財力や力があるものは複数の妻や夫を持っている。



「Sランク冒険者であるディア様だって、複数の夫を持っても良いのです。ですから、オリバーをディア様のお側近くに置く事を躊躇う必要はないのですよ?」

「でも、コクヨウとディオンは?2人が嫌な思いをする事はしたくない。」



私が簡単に決めて良い事ではない。

2人が不快に思うなら、オリバーを夫に迎える事は出来ないから。



「あら、それは大丈夫だと思いますよ?だって、昨日オリバーをディア様の寝室に通したのはコクヨウとディオンの2人なのですから。」

「そうなの?」

「で、なかったら、2人の手によってディア様の寝室に行く前に妨害されますよ。そうで無かったら、あの2人が簡単に、オリバーの事をディア様の元へ通すと思いますか?」



アディライトが笑う。

コクヨウとディオンの2人は、オリバーの事を認めてるの?

うーん、分からない。



「ディア様、そんなに悩まれるぐらいならコクヨウとディオンの2人に確認されてみては?」

「・・他の人を愛して良いかって?」



それこそ最低じゃん。

コクヨウとディオンと夫婦の様な関係になったばっかりだと言うのに。



「あらあら、ディア様の愛情は皆んなのもの。オリバーを夫としてディア様が受け入れたとしても、それは変わる事は有りませんわ。」



アディライトに手を引かれ、私は椅子から立ち上がる。



「ディア様、食事にしましょう。美味しいものを食べて、気分を変えるのも大事ですから。」

「ーーーー・・うん。」



でも、この後オリバーと顔を合わせる事になるんだよねぇ。

どんな顔をすれば良いのだろう?



「・・はぁ、私は主人公に向かないよ。」



平凡で良いの。

私を愛してくれる子達と幸せになれる暮らせれば、それだけで。

コクヨウの時の同じ展開に何も学習していないと反省するしかない私。

アディライトに手を引かれるまま、私は寝室を出る。

向かうのはリビング。



「うぅ、」



考え過ぎて頭がおかしくなりそう。



「ふふ、ディア様が悩む必要は何も有りませんわ。大事なのは、ディア様がどうされたいか、なのですから。」

「私がどうしたいか?」

「オリバーを夫に迎えるかはディア様のお心次第。コクヨウとディオンの2人もディア様が決めた事を反対なさらないですよ。」



決めるのは私。

オリバーを受け入れるか、しないか。

考え込む私は、コクヨウとディオンの姿に足を止める。



「ディア様。」

「おはようございます、ディア様。」

「・・コクヨウ、ディオン。」



私に甘く微笑む2人の姿を見て改めて思う。

2人の事を悲しませたくはないと。



「・・・2人とも、あの、ね?夜に少し話があるの。」



怖いと思うのは2人が大事な存在だから。

大事なコクヨウとディオンの2人から、心から嫌われたくないと願う。



「・・・話し、ですか?」

「私達2人に?」

「ん、」



不思議そうなコクヨウとディオンの2人に頷く。

なら、オリバーは?

一体、私は彼をどうしたいのだろう?



「分かりました。」

「話は2人一緒の方がよろしいですか?」

「2人一緒が良い。」



うーん、物語の中の逆ハーのヒロインは何も悩まないのだろうか?

なら、尊敬するしかない。



「・・オリバーの事をどうするかは、私次第、か。」



本能では、最低な私が囁く。

貪欲にオリバーの愛情も手に入れてしまえ、と。



「それで、私達の間は歪まない?」



何より私が怖いのは、今の関係を失ってしまう事。

自分本位な考え。



「っっ、私はーーー・・。」

「ディア様?」

「どうかされましたか?」



心配そうに私の顔を覗き込むコクヨウとディオンの2人を、ちゃんと愛せている?

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