第141話 謝罪と日常の風景
拘束していたオリバーの事を離すコクヨウ。
・・・うん、何その変な間は。
コクヨウ達、オリバーの事を解放するのが凄くイヤイヤ感が満載過ぎなんですけど?
「はぁ、コクヨウ?皆んな?」
溜め息を吐く。
もう、皆んな分かってないなぁ。
「私の為だって分かるけど、オリバーを傷付けるのは許さないよ?」
だって、そうでしょう?
「オリバーは、もう、私のものなんだから。」
彼はもう、私のものなの。
私の奴隷となったオリバーは、もう私の守るべき大切な存在。
家族なのだ。
「それに、ただの敵意だけなら可愛い反抗期みたいなものでしょうから許してあげて?」
笑って許せる。
「私の家族を傷付けるなんてしないよね?ねぇ、コクヨウは私を悲しませたりなんかしないでしょう?」
「はい、申し訳ありません、ディア様。どうか、お許しを。」
「ふふ、私の為にした事だから怒らないよ。私を守ろうとしてくれて、ありがとう。皆んなも、ありがとうね?」
皆んなを労い、ハビスさんに向き合う。
「ハビスさん、私の家族がお騒がせして申し訳ありません。」
「・・いえ、大丈夫です。ですが、さすがはSランク冒険者の本気の殺気ですなぁ。」
引き攣る顔で苦笑いのハビスさん。
本当に申し訳ない。
「・・ハビス様、申し訳ありませんでした。」
コクヨウもハビスさんへ頭を下げる。
「はぁ、コクヨウ、お前がソウル様を大事にしている事は分かっているし、きちんと反省しているのだからこれ以上は私は何も言わないよ。」
コクヨウの肩を軽く叩くハビスさん。
ハビスさんにとって、コクヨウは自分の子供のような存在なのかも知れない。
「アディライト、まずはクロエをソファーへ座らせてあげてくれる?」
「ディア様、かしこまりました。」
床にへたり込んだままのクロエの事はアディライトに任せ、私はオリバーの前に膝をつくと、呆然とするその顔を覗き込む。
「オリバー、大丈夫?」
「っっ、あの、」
「コクヨウがごめんね?皆んな私の事になると過保護だから過激になっちゃうの。」
分かっているから強く責められない。
悩ましい事だ。
「オリバー、痛いところない?」
「・・はい。」
「なら、良かった。さぁ、立って。」
オリバーの手を引いて、座り込む床から立ち上がらせる。
うん、しっかり立てるようだ。
「まずは、ソファーに座ってきちんと話をしよう?」
「・・・。」
「オリバー?聞いてる?」
「・・は、い。」
私達の繋がったままの手を見て一瞬泣きそうになったオリバーが小さく頷く。
「ふふ、変なオリバー。」
大人しくなったオリバーに私は笑った。
「ーー・・あれ、落ちましたね。」
「ディア様は無自覚の垂らしですから。」
「まぁ、ディア様の素晴らしさには抗えるものはおりませんわ。」
「「ディア様の幸せが一番なの。」」
コクヨウ、ディオン、アディライトが溜め息をつき、フィリアとフィリオが主人の幸せを願う。
それは、いつもの日常。
なぜか急に大人しく静かになったオリバーをソファーに座らせる。
少し怖がらせすぎたのかしら?
「ーー・・さて、まずはオリバーの誤解を初めに解きましょうか。」
「誤解?」
「クロエの目の事。ちゃんと私が見えるようにするよ。」
「「っっ、!?」」
オリバーとクロエの2人が息を飲む。
「っっ、妹は、クロエの目は見えるようになるのですか!?」
「そうだよ、オリバー。貴方の大事な妹のクロエの事、私に任せてくれる?」
病気で視力がなくなったのなら、それは欠損と同じような事。
なら、私の力でクロエの目は見える様になる。
治してみせる、クロエの目を。
「・・・ソウル様に全てお任せいたします。」
「っっ、クロエ!?」
「兄さん、私はソウル様を信じる。だから、ソウル様、どうかお願いいたします。」
頭を下げるクロエ。
「クロエ、頭を上げて?もうクロエは私の大事な家族なんだから、貴方の目を治すのは当たり前でしょう?」
「っっ、ありがとうございます。」
「じゃあ、治すね?」
「はいっ、!」
クロエの目の負担にならないように部屋の全ての窓のカーテンを閉め、部屋を暗くする。
いきなり光を見てしまったら、盲目だったクロエの目を痛めてしまうからね。
配慮である。
「クロエ、緊張してる?」
身体が強張るクロエの手を握れば、その指先は冷たくなっていた。
「・・・はい、少し。でも、」
「でも?」
「希望が見えたから大丈夫です。」
「ふふ、なら、その期待に応えて、たくさんの幸せをクロエに見せてあげる。」
見せてあげるよ。
良いことばかりの世界じゃないけど、綺麗なものもたくさんあるから。
「クロエ、しばらく目を瞑っていて?」
「はい。」
「じゃあ、いくね?ーーーー『リバイブ』。」
クロエ、未来を貴方へ。
私が放った魔法が、クロエの身体を包んだ。
「よし、これで良いかな?クロエ、また目を開けてはダメよ?」
「は、い、」
こくりと頷くクロエから、ハビスさんへと視線を向ける。
「ハビスさん、部屋の明かりを消していただいても良いでしょうか?」
「分かりました。」
ハビスさんによって消される部屋の明かり。
「あ、の?」
「ふふ、明かりを急に見たら目を痛めてしまうかもしれないから暗闇から始めましょうね、クロエ。」
困惑するクロエの髪を撫で、自分の指先に魔法で小さな光を灯す。
「さぁ、クロエ、ゆっくりと目を開けてみて?」
「ーーっっ、はい、」
ゆっくりと開かれる、クロエの瞳。
瞬きを繰り返す。
クロエの瞳が、何気ない日常の風景を映し出した。
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