第142話 ハビスさんへのお願い事
呆然とするクロエ。
その瞳は、私の顔を見つめる。
「どう?クロエ、ちゃんと明かりの光は見えるかしら?」
「・・あ、見えます、私、目がっっ、」
クロエの瞳に溢れる涙。
「く、クロエ、本当に、見えてるのか?」
歓喜に涙するクロエへ、よろよろ近付くオリバー。
「本当よ、兄さん。見えるの。」
「っっ、あぁ、クロエ、良かった、本当に良かったッ!」
クロエの膝で泣き伏す。
「あらあら、ふふ、意外と泣き虫なのね、兄さんは。困った兄さんだ事。」
泣き笑いを浮かべ、クロエは自分の膝で涙するオリバーの髪を撫で続けた。
ほっこりする兄妹のやり取りを暗闇の中で見守る。
見える様になって良かったね、クロエ。
お疲れ様、オリバー。
「さすが、ソウル様ですね。」
兄妹のやり取りを見守る私へ、ハビスさんが近づいて来て微笑む。
「貴方に紹介して良かった。」
「ふふ、こちらこそ、2人の事を紹介してくださり、ありがとうございました、ハビスさん。」
今回のお誘いの手紙がなくても、奴隷の購入について相談する為に私の方からハビスさんの元を訪ねただろう。
手間が省けたと言える。
が、しかし。
「1つ、ハビスさんにお願いがあるのですが。」
「ほう、私にお願いとは、何でしょう?」
「はい、実はロックスさんの所で新しく奴隷を買いたいのですが、お許しくださいますか?ロックスさんは、ハビスさんが紹介するぐらいの方ですから、新しく奴隷を買うのに私も安心なのです。」
「ふむ。」
「もちろん、ハビスさんがご不快になるようでしたら、無理にとは申しません。色々とハビスさんにはお世話になったので、不義理はしたく有りませんから。」
私はより多くの奴隷を求めているが、この街一番の奴隷商人であるハビスさんを不快な気持ちにしてまで他のお店へ行く気はない。
だからこそ、今回のロックスさんと知り合えた事は私にとって僥倖だった。
「いえ、私が不快になるなんて、とんでもありません。どのお店へ行くかはお客様が選ぶものですからね。」
「では?」
「もちろん、ソウル様がお望みでしたら、ロックスへは私の方から話を通しておきましょう。」
「ありがとうございます、ハビスさん。」
快く引き受けてくれたハビスさん。
直ぐにロックスさんへ私が奴隷を購入したい話をしてくれるとの事。
本当に有難い。
お許しが出た所で、もう1つの提案を。
「あの、ハビスさん。実は、もう1つハビスさんにご相談があるんです。」
「他にも何か?」
「はい、私が考えた商品のアイディアを売りたいのですが、ハビスさんの知り合いで誰か良い商人はいませんか?」
前々から考えていた、この世界にない商品のアイディアの販売。
私達がこの街を離れる前に、その辺は全てやってしまいたい。
が、売る商人が問題だ。
「ほう、ソウル様が商品のアイディアを売る、と。」
細まるハビスさんの瞳。
「そうです。私の要望としては利益を考えるのは大事ですが、人を権力やお金の力で他者を蹴落とすような方は嫌です。」
「商人は時として損得を考え、他者を蹴落として切り捨てますよ?」
「私は汚い手で他者を蹴落とす人が嫌なのです。頭を使って策略を回らし、持ち得る力で他者を蹴落とすなら文句は言いません。」
商人の世界だって、綺麗事だけで上手くのし上がる事は出来ないと知っている。
多少の謀略はつきもの。
しかし、自分のお店がのし上がる為に汚い手だけを使う商人は信用も安心も出来ない。
「なるほど。謀略に長け、ある程度の信頼ができる人物である事をソウル様はお望みなのですね?」
「えぇ、誰かハビスさんの知り合いに良い方はいませんか?」
「ふむ、何人か心当たりはおりますが、私が一番お勧めできるのはシーリン商会でしょう。」
ハビスさんが1つの商会の名前を上げる。
「シーリン商会?」
「シーリン商会は、この街一番の豪商人で、彼なら信頼が出来るかと。シーリン商会の主人の名前は、ルドヴィックと申します。」
「シーリン商会のルドヴィックさん、ですね?ハビスさん、申し訳ないのですが、その方も私にご紹介いただけますか?」
「かしこまりました。」
こちらの件も、ハビスさんは快く引き受けてくれる。
本当、ハビスさんには頭が上がらない。
感謝である。
「私からの紹介状を書きましょう。ソウル様のご都合の良い時に、その紹介状を持ってシーリン商会へ行ってみて下さい。ルドヴィック殿の方には私から話は通しておきますので。」
言いながら、さらさらと紙に書き込むハビスさん。
「まず、こちらがミシュタル商会とシーリン商会への地図です。」
手渡される3つの紙。
「そして、こちらのもう1つの紙はシーリン商会へ私からソウル様の身元が確かな方だと言う紹介状となります。必ずルドヴィック殿へお渡し下さい。」
「ありがとうございます、ハビスさん。」
それぞれのお店の地図と紹介状の紙を、お礼を言ってハビスさんから受け取った。
「今日は、ありがとうございました、ハビスさん。」
感謝にハビスさんに頭を下げる。
「いえ、こちらこそ、ありがとうございました。」
そんな私に微笑んで見送ってくれるハビスさんにもう一度お礼を告げてから、私達はオーヒィンス商会を後にした。
その夜は、オリバーとクロエの2人の歓迎会を開く事に。
皆んな大騒ぎ。
「皆さん、ありがとうございます。」
「兄共々、今日からよろしくお願いしますね?」
頭を下げた兄妹2人。
オリバーとクロエも自分達の歓迎会に終始嬉しそうにしていた。
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